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企業が女性役員を増やすことの本当のメリット 女性弁護士や実業家らが語る
画像はイメージです(Luce / PIXTA)

企業が女性役員を増やすことの本当のメリット 女性弁護士や実業家らが語る

企業における女性役員の登用ニーズが高まっている。東証のコーポレートガバナンス・コードは取締役会の多様性を求めており、政府も2030年までに女性役員比率を30%以上とすることを目指す。

そもそもなぜ女性役員が必要なのだろうか。「女性のため」だからなのだろうか。

日弁連が11月22日に開いたシンポジウム「取締役会のジェンダー・ダイバーシティが企業価値向上に果たす役割」のパネリストらはそうではなく、「企業のメリットになるから」と強調する。その理由とは。(ライター・ミアキス 梶塚美帆)

⚫️女性を入れることが、最も容易なダイバーシティ

マネックスグループとLIXILで社外取締役、ペガサステックホールディングスで社外監査役を務める金野志保弁護士は、「ジェンダーの多様性は、決して女性のために考えられているのではない」という。

金野弁護士は、多様性とはイノベーションの源泉であるとし、「イノベーション促進のため、企業の戦略として多様性が必要であるということが世の中で見逃されがち」と指摘した。

実際、ビジネスの世界では、同質性が高い組織より、組織内に多様な価値観があったほうが、イノベーションが起きやすいという考えが広がってきている。

機関投資家らの判断に影響力を持つ「議決権行使助言会社」の米グラス・ルイスは、「プライム市場へ上場する企業の取締役会に占める多様な性別の取締役を10%以上求める」ことを2023年版の日本市場向け方針とした。基準を満たさない場合、トップの選任に対して原則は反対助言とするという。

グラス・ルイスジャパン合同会社の上野直子氏(アジアリサーチ ヴァイスプレジデント)は、「ジェンダー・ダイバーシティの実現が無条件に企業のパフォーマンスを向上させるわけではない」とした上で、金野弁護士と同じく企業にとってメリットであると話す。

「日本経済は長らく停滞している。これまで男性中心でやってきて打破できていないのだから、まずは一番そばにいる女性を入れてみようと考える。それでもうまくいかない可能性はあるが、今までやってこなかったことを試すという意味で、(外国人を入れるより)言語が共通で同じ文化を持つ女性の登用は容易であるはず。

ダイバーシティはジェンダーだけではないが、日本のような民族的な均質性が高い国においては、ジェンダーダイバーシティが、ダイバーシティへの第一歩だ」(上野氏)

これを受け、ANAホールディングス、オムロン、みずほフィナンシャルグループで社外取締役を務める小林いずみ氏も以下のように述べた。

「企業の成長戦略を立て、実行できているか検証する立場の取締役会が、同一の性、近い年代、似たバックグラウンドの方だけで運営できるのか。

同質性の高い組織では、何を言うかよりも『誰に同調するか』が重視されがちだ。異なるバックグラウンドを持ち、違う視点で意見を言える人がいて、新しい発想・様々な意見が飛び交うような取締役会が、今の時代にふさわしい」(小林氏)

近年はグローバル競争を生き残るため、日本企業による海外M&Aも進む。しかし、上野氏は「日本企業のダイバーシティが進んでいないことで、企業文化が合わないと考えられてしまう可能性がある」と、企業運営への悪影響も指摘した。実際、M&Aの失敗理由では、企業文化の不一致も多いという。

ジェンダー・ダイバーシティを実践する日本企業が増えていけば、市場にとってもプラスになることが考えられる。

⚫️「女性の候補者がいない」という言い訳は通用しない

しかし、多くの企業では、女性のボードメンバー登用について「社内に女性の候補者がいない」「あと数年かかる」という状況が見受けられる。

これに対して小林氏は、「女性が育っていないのは経営者の責任」と厳しく指摘する。そして、女性活躍への取り組みを経営者の評価の対象にすることで、成果が出やすくなると提案した。

「指名委員会で、経営者のパフォーマンスの評価項目に、女性の活躍が実行されているかを入れていくことが必要。CEOだけでなく中間管理職を含む全てのリーダーにおいて、ダイバーシティ、そして女性の活躍が結果として出ているのかを評価の対象にすることで、重い腰を上げることができると考えている」(小林氏)

特定非営利活動法人日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク執行役員の富永誠一氏は、「初めて女性を抜擢するときは、1人ではなく2人同時が望ましい」と自身の調査結果を述べた。

1人で大抜擢されると潰されてしまうことがあり、社内初となるとプレッシャーも大きい。2人であれば、それらが緩和されるとともに、社内に対して会社の姿勢や経営の本気度が伝わるそうだ。

さらに金野弁護士は、「クリティカル・マスと言われる3割を超えると効果が出やすい」と話す。

「とある会社で、取締役・監査役のボードメンバー10人のうち、私が就任した際は女性が1人だった。その後4人まで増えると、女性活躍推進に成功した他企業の取り組みを積極的に取り入れることができた。

女性の候補者が少ないと嘆くのであれば、まずは社外からでもいいので女性役員を入れて、3割以上にする。そうすることで、社内の女性活躍推進に弾みがつくはず」(金野弁護士)

⚫️「役員に女性弁護士」の強み

社外からの登用では、女性弁護士が選択肢に挙がることも珍しくない。上野氏は次のように語る。

「性別が同じなら意見も同じとは限らないが、男性と女性であれば意見が違う可能性は高い。メンバーが男性だけになるよりも、女性が入る方が、異なる意見が出ることが多いだろう。

取締役会に必要なのは多様性であり、法律の知識は経営に必要。女性の弁護士が候補に挙がるのであれば、積極的に採用すべき」(上野氏)

金野弁護士は、自身の経験から弁護士だからこそボードメンバーとして貢献できたと感じる場面はよくあると話す。

「社外取締役としての個人評価を受けたとき、他社事例を多く知っていて、他社のグッドプラクティスや失敗例を踏まえて助言と監督をしていると評価された。

また、有事に強く、複数の解決方法を挙げ、それぞれのリスクを踏まえて望ましい順番をすぐに考えられる点も弁護士の強み。弁護士業務の中で、M&Aや不正調査など多くの他社事例を見ており、有事の解決をしているからだと思う」(金野弁護士)

⚫️女性登用の遅れ、国際競争での負けにつながる

シンポジウムの最後、小林氏、金野弁護士は「ジェンダー・ダイバーシティが遅れることへの言い訳は存在しない」と強調した。

「女性の登用が企業にどんなメリットをもたらすか、データが出てくるのはまだ先になるだろう。しかし、(海外企業で女性登用が進む中)証明されることを待っていては競争で負けてしまう。仮説に則ってすぐに実行することが必要だ」(金野弁護士)

日本のダイバーシティは遅れているが、政府が2030年までに女性役員比率30%以上を目標とするなど、少しずつではあるが進んでいる。女性活躍そのものを目的化するのでなく、イノベーションの可能性を上げ、グローバル経済の中で企業価値を上げていくためにも、取り組みのスピードを上げることが求められる。

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