弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 民事・その他
  3. 警察が「グリ下キッズ」を排除することの無意味さ オーバードーズは他でやるだけ
警察が「グリ下キッズ」を排除することの無意味さ オーバードーズは他でやるだけ
戎橋の下から少年が連行される様子(2023年5月、弁護士ドットコム撮影)

警察が「グリ下キッズ」を排除することの無意味さ オーバードーズは他でやるだけ

大阪・ミナミの戎橋(えびすばし)は、外国人観光客や若者たちでごったがえしている。その橋の下に集う子どもたちを、グリコの看板下にちなんで「グリ下キッズ」と呼ぶようになって久しい。東京・歌舞伎町の東宝の横「トー横」と並び、たびたびニュースにもなる。

家や学校に居場所がない10代前半〜20代が中心で、薬の過剰摂取(オーバードーズ=OD)や妊娠・性感染症、お金の問題などを抱えているという。

こうした背景にある彼らの「孤立」を解決しようと、大阪府のNPO「D×P(ディーピー)」(今井紀明代表)は2022年8月からグリ下の近くにテントを立て、相談に乗る活動を続けている。5月末にも、ここに集まる子どもたちの姿があった。

生理用品やお菓子などを無料配布するフリーカフェ(2023年5月、弁護士ドットコム撮影)

●「規制を強めても居場所を奪うだけ」

5月某日の夕刻、グリ下には複数人の男女がたむろしていた。踊る動画を撮ったり、自転車で2人乗りをしたりと和やかなムードだったのが、瞬間、一変した。

私服警察官6人ほどが1人の少年を取り囲み、離れた駐車場まで連行した。奈良ナンバーのバンに乗せられた少年は30分ほど何か調べを受けている様子。その後、彼を乗せたまま車は走り去った。

元グリ下キッズの少女にこの事実を伝えると、「パクられたんやな、草(笑いの意味)」というメッセージが返ってきた。ここでは性や金、薬をめぐる事件などもあり、今年3月、大阪府警は監視カメラ2台を設置し、警戒を強めている。

グリ下で支援活動を続けるD×Pの野津岳史さんは「子どもたちには、安全に集まれる居場所が必要だ」と説明する。団体では月3〜4回「ミナミのフリーカフェ事業」を展開し、お菓子や飲み物、生理用品やコンドームなどを無料で配布するテントを設営している。

当初は人が集まらなかったが、橋の下で話しかけるうちに20~30人が来るようになった。携帯の充電のため、空腹を満たすため…理由はなんでもいい。この日も、10人ほどの男女が座ってしゃべる様子を見つめる野津さんの姿があった。

「ODは警察が来る橋の下でやらずに、ホテルなど別の場所でやるようになってきた。帝王などと呼ばれるボス的な人物の意向によって、形態が変わるようです。小学生が来ても、警察が来るので『はよ帰れ』と言う幹部もいる。彼らは居場所がなくなるのを怖がっています。橋の下から排除しても、根本的な解決にはなりません」

画像タイトル 今年3月から監視カメラが設置された戎橋下(2023年5月、弁護士ドットコム撮影)

●「自傷行為は繰り返される」

野津さんによると、ODは相変わらず続いており、付近に救急車が来ることもしばしば。20錠程度〜100錠飲む子、自分の限界を知っているとうそぶく子もいる。「きょう友達とパキる(ODする)約束してる」と、まるで飲み会の約束のように語っていることもあった。

「ODは無茶すれば体も心もしんどくなるのに繰り返すのは、現実のほうがしんどいのかなと思います。無理にやめさせるのではなく『できる限り減らそう』と言っています」

自分をカッターナイフなどで傷つけるリストカットなどの自傷行為と同じで、たとえ課題が解決しても、リスクとは向き合い続けなければならないと強調する。テントにも、目の焦点が合ってない、ふらふらしながらくる子もいた。

「生活が安定しても、ふと嫌なことがあると自傷行為が戻ってしまう。やったことをとがめるのではなく、やっていない時期をほめるのが大事です」

画像タイトル グリ下のフリーカフェを運営するNPOの野津さん(2023年5月、弁護士ドットコム撮影)

●「壮絶な経験をしても生きられる力がある」

D×Pは大阪を中心に2012年から10代の高校生と関わり、2018年からはLINE相談事業「ユキサキチャット」を開始。多くの若者の悩みに向き合っている。

理事長を務める今井紀明さんは高校生の時、紛争地域だったイラクへ渡航し人質として拘束された。激しいバッシングを受け、対人恐怖症にもなったが、友人や教師の支えで立ち直ったという。

親や教師に否定されて育った子どもたちと、社会から否定された自分が重なり、生きづらさを抱える10代のための活動を始めた。

数人だったスタッフが、今はアルバイトを含めて40人ほどに増えた。一方で、子どもからの相談は引きを切らない。SNSのDMのやりとりを重ねながら、実際の支援につなげていく。

社会福祉士や精神保健福祉士の資格者らが、生活保護申請や住居や職の相談のために行政機関に付き添ったり、妊娠や性感染症の相談で病院に行くこともある。担い手不足は変わっていないが、支援側も無理しすぎず続けられることが重要だと考えている。

「心配ではあるんですが、助けすぎるのも本人たちにとって良くない。自分で収入を得て、どう過ごしたいかを考えてほしい。寄り道しながらでも、進んでいければ。壮絶な経験をしても生きている彼らはすごい。生きる力があると信じています」(野津さん)

D×Pでは今後、仮設テントではなく、週2回に常設するユースセンターを6月末にもオープンする。親との関係が断絶していたり、施設出身で収入がなかったり、医療費をかけられない子どもも多いため、ゆくゆくは精神科医や助産師が常駐し、相談に乗れる体制をつくろうと構想している。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする