東京・秋葉原の販売店に侵入して、人気ゲーム『ポケットモンスター』のトレーディングカード約1500枚(115万円相当)を盗んだとして、職業不詳の30代男性が6月中旬、窃盗と建造物侵入の疑いで警視庁に逮捕された。
報道によると、いわゆる「闇バイト」の求人に応じて、何者かに指示を受けていたとみられるという。高収入をうたい、SNSなどで実行犯をあつめる闇バイトは、これまで「特殊詐欺」が典型例だったが、今年に入ってから窃盗や強盗が目立つようになってきている。
ポケモンカードの窃盗、時計やアクセサリーの強盗も全国で相次いでいると報じられているが、はたして、どんな背景があるのだろうか。元東京地検検事で、闇バイトの捜査経験も多い西山晴基弁護士に聞いた。
●闇バイトで窃盗や強盗が増えてきている背景
背景事情として、大きく3つの点が挙げられます。
1つ目は、ターゲットが無限に広がる点です。
闇バイトの典型例である特殊詐欺の場合、そもそも現金や預金を多く有している被害者(主に高齢者)を狙う必要があり、対象者も限られてきます。それに対して、窃盗や強盗の場合、高価な物品であれば、転売して収益化できるため、ターゲットが無限に広がります。
2つ目は、組織にとっての効率性です。
特殊詐欺の手口が世の中に知れ渡るにつれて、以前より被害者に気付かれる可能性が出てきたこともあり、組織からすると、多くの役割が必要な特殊詐欺より、(指示に従う人がいるのであれば)窃盗・強盗のほうが効率的になってきた可能性があります。
3つ目は、一般人や一般事業者を犯罪収益隠匿等の手段としても利用できる点です。
窃盗や強盗は、被害品を転売して収益化することを前提としているところ、組織としては、転売・換金の取引過程で、一般人や一般事業者を介在させて、もっと犯罪収益の流れや組織の実態を不透明にする手段として利用できます。
捜査機関や金融機関では、疑わしい入出金がある預金口座を把握した場合に口座凍結の措置を講じていますが、組織からすると口座凍結により犯罪収益を取り損なわないように、できるだけ犯罪収益の流れを不透明にする必要があります。また、そもそも自分たちの存在をわからないようにするために、より多くの一般人や一般事業者を利用して隠れ蓑にしようとするわけです。
●犯罪収益隠匿の手段に利用される
犯罪収益を隠匿したり、受け取ったりすると「マネロン罪」に問われます。
マネロン罪とは、組織的犯罪処罰法が規定する犯罪収益等隠匿罪や犯罪収益等収受罪の総称であり、犯罪収益の所在や流れをわかりにくくすることで、その剥奪を免れようとする行為を抑止するために設けられた犯罪類型です。
闇バイトでは、振り込め詐欺グループが、詐取金を他人名義の口座に振込送金させる行為が犯罪収益等隠匿罪の典型例です。
近年報道されている、ポケモンカード窃盗など、窃盗や強盗の闇バイトでは、さらに転売・換金の取引過程に複数の一般人・一般事業者が介在させられ、犯罪収益隠匿の手段としても利用されるおそれがあります。
被害品を売る者においては、足がつかないように他人名義を利用することが想定されますが、これも犯罪収益等隠匿罪にあたります。一方で、被害品を買い受ける者においても、転売品が被害品であるとわかっていれば、犯罪収益等収受罪や盗品等有償譲受罪にあたります。
組織としては、被害品を転々流通させればさせるほど、より犯罪収益の流れを不透明にすることができるので、特殊詐欺よりも、その流通過程で一般人や一般事業者が犯罪収益隠匿の手段や組織の隠れ蓑に利用される機会が増えてくるおそれがあります。
●刑事責任を問われた場合、どれくらいの罰になるのか?
犯罪収益等隠匿罪は5年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に、犯罪収益等収受罪は3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処せられます。
また、対象となる犯罪収益については、没収や追徴で剥奪することが可能です。しかも、犯罪収益とそれ以外の財産が混在して管理されている場合には、剥奪対象は、犯罪収益だけではなく、それ以外の財産も含む広範囲に及びます。
たとえば、もともと300万円の預金がある口座に詐取金100万円を振込入金させた場合、詐取金以外の300万円もあわせた合計400万円が剥奪の対象となります。
世の中には数多くの物品がさまざまな取引形態で流通していますが、そうした取引においても、たとえば、他よりも不自然に低価格で取引されている商品には注意を払ったり、不自然な転売ビジネスには手を出さないなどして、一人ひとりが組織に利用されないように気を付ける必要があるでしょう。