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地域猫を救う冷房付きシェルター、愛護団体の願いかなう 川崎・公園工事で命の危機
助かった地域猫たち(古川琢也撮影)

地域猫を救う冷房付きシェルター、愛護団体の願いかなう 川崎・公園工事で命の危機

2023年4月1日に着工となる川崎市の総合公園の再編整備工事に関して、川崎市が工事期間中、冷房を備えたプレハブ建物をシェルターとして設置し、公園で暮らす猫たちを一時保護することがわかった。

猫たちは地元ボランティアが年月をかけて、去勢・避妊手術を施し、地域猫として暮らしてきた。工事が決まった時点で約30匹がまだ公園内に残っており、生命の危機が迫っていた。(ライター・古川琢也)

●約17万平方メートルの公園に住み着く

舞台となった富士見公園は、「富士通スタジアム川崎」(旧川崎球場)や川崎競輪場のほか、軟式野球場、テニスコート、芝生広場なども擁する面積約17万平方メートルの総合公園で、1940年に開園した。

市では大規模改修工事を施すにあたり、設計・建設から竣工後の公園の維持管理・運営までを民間事業者に一括して発注・委託するPFI(民間資金活用事業)方式を採用。2022年9月には地元のJリーグクラブ「川崎フロンターレ」を代表企業とする「フロンターレ・フロンティアグループ」が約48億円で落札し、その第1期工事開始が4月1日に迫っている。

一方でこの公園には近隣から遺棄された猫たちがそのまま住み着いて繁殖してしまう例がままあり、その数が2005年頃には150匹にも達したという。

地元の動物愛護団体「犬猫救済の輪」をはじめとするボランティア団体では、市との協議を経て公園内に手製のシェルターを設置し、ここを拠点にスタッフ自身による引き取りのほか、去勢・避妊手術を施した上で公園に戻し餌やりをする地域猫活動、里親募集活動などを実施。公園内に住む猫は、2022年秋の時点では35匹程度まで減らすことができていた。

ボランティア手製のシェルターの一角(古川琢也撮影) ボランティア手製のシェルターの一角(古川琢也撮影)

外にも餌やりの場所がある(古川琢也撮影) 外にも餌やりの場所がある(古川琢也撮影)

●保護活動に一時暗雲

しかし、公園の再編整備事業が動き出したことで、こうした保護活動の継続が危ぶまれることになった。

4月1日の工事着工に伴い、テニスコート周辺や市民広場など公園の中でも猫が集中しているエリアがスチールのフェンスで囲われ、ボランティアスタッフの立ち入りができなくなるほか、シェルターも取り壊しとなってしまうからだ。

そのため「救済の輪」では、このまま工事が進められた場合、音に脅えた猫たちがフェンス内側の狭い場所に逃げ込んだまま工事に巻き込まれ事故に遭ったり、餌をもらえず餓死したりする懸念があるほか、公園外に逃げ出せた猫に関しても周辺の市街地・住宅地に新たな餌場を見つけることは現実には困難であることから猫たちの生存が危うくなるとの危惧を抱いていた。

一方でボランティアたちは約20年の活動を通じてすでに多数の猫を自宅で保護しており、中には10匹以上を飼っているメンバーもいるなど、ボランティア自身の引き取り・一時保護だけで解決できる状況にはもはやなかった。かといって30匹以上残っているすべての猫の里親を募集するだけの時間もない状態だった。

全5期4年にわたる大規模工事が予定されている(古川琢也撮影) 全5期4年にわたる大規模工事が予定されている(古川琢也撮影)

●東京オリパラでも猫保護の前例

そうしたことから「犬猫救済の輪」では川崎市に対し、事業の概要発表後の2022年6月頃から動物愛護法第35条(※1)や環境省の平成18年告示第26号(※2)を根拠に、工事期間中だけでも公園内の猫を安全に隔離・飼養できるシェルターを行政の責任で設置してほしいと要望。

さらに同11月からは工事の施工業者で川崎フロンターレと共に事業者企業を構成する横浜市のゼネコン・松尾工務店に、続いて2023年2月にはフロンターレにも同様の要望を行っていた。

同団体によれば、公園内の工事に支障をきたさない場所にプレハブ式・冷房完備の仮設建物を設置し一時保護施設とすることは、リースなどを利用すれば総額170万円程度で可能だという。しかし、市側は当初、「事業者側の理解が得られない」などとして消極的だったそうだ。

命の危険にさらされた地域猫(古川琢也撮影) 命の危険にさらされた地域猫(古川琢也撮影)

だが3月に入り、日本全国の約100の動物愛護団体で構成される任意団体「全国動物ネットワーク」が川崎市と事業者各社に公開質問状を送付するなど世間がこの問題に注目しはじめるにおよび、最終的に「犬猫救済の輪」の要望に沿った内容での対応することが3月半ばまでに決定された。

なお東京都では前述の法的根拠に基づき、2021年の東京五輪・パラリンピックの開催前に、競技会場周辺に住む飼い主のいない猫の一時保護を行うボランティアや動物病院を募り、動物病院に対しては1匹あたり1泊3000円の預かり費用を都が負担する事業を行った例がある。

【※1】「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護法)の第35条には、都道府県や川崎市のような指定都市、あるいは地方自治法の定める中核市には、「犬または猫の引取りをその所有者から求められたときは、これを引き取らなければならない」との規定がある。

【※2】環境省の平成18年告示第26号(最終改正:令和4年告示第54号)には、「都道府県知事等は、所有者の判明しない犬又は猫の引取りをその拾得者その他の者から求められたときは、周辺の生活環境が損なわれる事態が生ずるおそれがあると認められる場合又は動物の健康や安全を保持するために必要と認められる場合は、引取りを行うこと」との規定がある。

公園内ではあちこちで猫の姿を見ることができる(古川琢也撮影) 公園内ではあちこちで猫の姿を見ることができる(古川琢也撮影)

●シェルター設置後も続くボランティア活動

川崎市・みどりの保全整備課によれば、ボランティア団体との話し合いを経て決定されたシェルターの設置予定場所は、今回の工事区域からは外れるが安全のため仮囲いがなされる富士通スタジアム川崎付近の一角。ここに約3.8坪(床面積約7.6畳)タイプのユニットハウスを4月中旬までに設置し、同月中にエアコンも取り付けるという。

5期4年が予定されている全工程のうち、猫たちの主要な住処にかかわる3期までの工事が終了する24年9月末までのおよそ1年半、この場所で猫の飼養が行われることになる。

また公園南側にある市民庭園も工事区画に含まれているが、この庭園の池に生息している鯉、亀などについても、生かす方向での検討を進めているという。

市の決定を受けて「犬猫救済の輪」では公園内の猫たちをシェルターに隔離するための捕獲活動をすでに始めており、シェルター開設までのあいだ捕獲した猫を預かってくれる預かりボランティアや永続的な里親になってくれる人を募集している。

またシェルターの設置こそ決まったものの、工事期間中の猫の餌代や医療費(検査費用含む)は、すべて「犬猫救済の輪」をはじめとするボランティアの負担で賄われることになることから、同団体ではカンパも募集している。詳細は「犬猫救済の輪」のウェブサイトまで(http://inunekokyusainowa.la.coocan.jp/)。

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