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「公開法廷で録音」弁護士の半数以上が好意的、アンケートで見えた裁判制度の欠陥
画像はイメージです(背景:yakiniku / PIXTA)

「公開法廷で録音」弁護士の半数以上が好意的、アンケートで見えた裁判制度の欠陥

海外にはアメリカのように裁判の模様が中継されたり、ウェブで配信されたりする国がある。一方、日本では裁判の録音・録画は原則認められていない。誰でも傍聴できる公開法廷であっても、裁判所の許可が必要だ。公開範囲が狭い分、プライバシーが守られている面もあるが、こうした決まりに疑問を抱く弁護士も一定数いる。

弁護士ドットコムが今年11月、会員弁護士を対象に公開法廷での録音の是非を尋ねたところ、およそ6割の弁護士が「認めても良い」と回答した。

アンケート後の12月には、大阪地裁に係属する刑事事件で、公判の録音を求めて譲らなかった国選弁護人が裁判所から解任される出来事もあった。なぜ録音にこだわる弁護士がいるのか。アンケート結果からは裁判制度の欠陥が垣間見える。

●賛成と反対は「6:4」

アンケートは11月8日〜14日に実施した。企画のきっかけは、10月にあった国の指定代理人による弁論準備手続の無断録音。非公開の手続きであることに加え、相手方と裁判所との個別聴取を「盗聴」したことが問題視された。では、公開法廷だったらどうかという趣旨だ。

アンケートの結果、回答者は66人と多くはないものの、録音を認めても良いとした弁護士は59.1%だった。ただし、その中でも録音を許可する範囲についてはグラデーションがあった。

内訳は範囲が狭い順に、当事者や代理人に限って認めるべき(31.8%)、メディア関係者も許可して良い(9.1%)、傍聴人すべてに認めるべき(18.2%)だった。以下で各立場の意見を見ていきたい。

●録音なしだと「裁判所の責任逃れ」を許す

「当事者や代理人に限って認めるべき」(31.8%)とした弁護士からは、流出のリスクはあるが、適正な訴訟活動のために録音が必要という意見が多く見られた。代表的な意見を2つ紹介する。

「録音を禁止することで、裁判官の不当な発言や訴訟指揮を立証することが困難になっている」
「調書が全てという前時代的な制度はやめるべきだが、ネットに流出するとプライバシー侵害につながる恐れがある。録音は当事者や代理人に限定し、かつ、流出させた場合の罰則を定めるべき」

法廷での証言などについては、裁判所に録音され、文字起こし(調書)がつくられるが、人の話し言葉は書き言葉のように整然とはしていない。テキスト化の過程で発言が丸められ、発言の意味やニュアンスが変わる可能性がある。

ところが、裁判所は一部の例外を除いて、録音データそのものは基本的に公開していない。裁判所以外にも録音が認められないと、調書の間違いや裁判官の非を指摘することが難しい。録音を求める声には、そうした実務的な理由が隠れているようだ。

●裁判の公開とプライバシーのバランス

一方、「メディア関係者も許可して良い」(9.1%)や「傍聴人すべてに認めるべき」(18.2%)という意見は、プライバシーの面にも踏み込み、憲法に規定された「裁判の公開」を意識した意見と整理できそうだ。それぞれの代表的なコメントを紹介する。

「報道を通じて裁判の公正について世に問う点で意味がある。当事者のプライバシーにも関わるので、その点について配慮できるノウハウがあり、裁判で責任を問われる可能性も認識して対応できるメディア関係者までに留めるのがいいのではないか」
「公開の法廷での会話に秘密性はなく、当事者間の会話と同じで録音に問題はないと考える」

もちろん、音声の流出や言葉尻を捉えた批判の増加、録音の切り取りなどを理由に「録音を認めるべきではない」とする弁護士も40.9%おり、「公開派」が大多数ではないことには留意が必要だ。

とはいえ、反対派の中にも以下のような意見もあり、より検証に堪える裁判の仕組みを検討する余地はあるのではないだろうか。

「裁判所に録音させ、調書訂正のための資料としてのみ用いるのであればよいが、基本的には当事者を含め録音を認めるべきではない」

このほど大阪地裁から国選弁護人を解任された中道一政弁護士も取材に対して、以下のように録音を認めないなら、裁判所がデータを開示すべきと話していた。

「録音の開示すら認められないにもかかわらず弁護人が法廷録音をできないということであれば、弁護人としては、もはや、録音反訳の正確性を検証できない」

なお、中道弁護士によると、過去には録音を許可してくれた裁判官もいたという。

●編集後記:メディア側からも問題提起を

2018年6月、日本で初めて「刑事免責」という制度を適用した刑事裁判を傍聴したときのことだ。閉廷後、近くの席に座っていた20~30代と思しき男性記者が近くにいた傍聴人を捕まえて、いきなり説教を始めた。

「私、見ていましたよ。あなた、スマホで録音していましたよね。私たち(マスコミ)だって、そういうことはできないんですよ」

その傍聴人はおろおろするばかりで、そのまま裁判所の職員に引き渡された。捕まえた記者の横顔は得意げにみえた。のちに裁判所広報に確認したところ、「録音は削除してもらった」という。

それから1カ月後。その記者が書いたのかは定かではないが、同じ裁判所であった刑事裁判の記事で、あるメディアが被告人の発言を間違って掲載し、訂正した。聞き間違えとみられるが、発言内容がほぼ真逆の意味になっていたため、ネットで物議を醸した。

裁判所が録音データをもとにつくった調書ですら、異議を申し立てられる可能性があるのだから、メディアは常に誤報のリスクを抱えていると言える。

それゆえだろう、同年の1月には新聞記者がある殺人事件の裁判員裁判で録音していたことが発覚。裁判所から厳重注意を受けている。所属先の新聞社は「報道の信頼性を損なう事案」と謝罪したが、むしろ信頼を損なうのはデータの流出や、誤った報道をしてしまったときのはずだ。

どういう仕組みが望ましいかについては、プライバシーや公平性への配慮など、さまざまな論点があるだろう。録音禁止を前提に記者が技術を磨くべきとか、そもそも詳細な裁判報道は必要なのかといった議論も予想される。

ただ、報じる側も「ルールだから」と無批判に受け入れるのではなく、ルールそのものに疑問を持つことぐらいはしても良いのではないだろうか。(編集部・園田昌也)

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