国が被告になった労働裁判の弁論準備手続で、国側の指定代理人が、本来聞くことのできない原告側と裁判所との会話までも密かに録音していた事態を受け、原告側代理人の笠置裕亮弁護士が10月12日、会見を開いた。「再発防止のため、国は原因を究明してほしい」などと呼びかけた。
国側による録音が常態的におこなわれているとすれば大問題なのは当然として、笠置弁護士はそもそも疑念が生まれたこと自体が問題なのだと指摘する。
「弁論準備期日は非公開だからこそ、早期解決に向けて自由な議論ができる。ただでさえ録音は問題なのに、退席後の内容も録音しようとしており卑劣だ。話が筒抜けかもしれないと思ったら、裁判官に率直な話をするのは怖い。民事訴訟の運用に影響が出る」(笠置弁護士)
●米軍関係の事件「連絡を密にしたかった」?
この裁判の原告は、米海軍横須賀基地の従業員だった50代の女性。2014年7〜9月にかけて、ひと月当たり100〜120時間ほどの長時間残業を強いられ、精神疾患を発症した。2017年に労災認定を受けており、国に賠償を求めて2019年3月に提訴した。請求金額は現時点で約7500万円になるという。
10月11日に起きた今回の事態は、和解に向けて非公開の手続きが進められていた中で発生した。録音機は、国側の指定代理人のひとりが開いたままにしていた書類ファイルの裏側に置かれていた。
笠置弁護士によると、裁判所に問われた指定代理人は、「うっかり」だったとしながら、「本日だけ」「内々の打ち合わせでしか利用していない」などと矛盾する弁解をしていたという。
実際に裁判所が確認したところ、2022年7月と9月の弁論準備期日の録音が発見され、裁判所の指示によりその場で削除されたという。なお、法務省によると、この指定代理人は防衛省の職員だったという。
この裁判では米軍関係者も傍聴に訪れることがあったといい、日本国単独で解決する事案ではなく、情報共有を密にするために録音をしていた可能性も考えられそうだ。
笠置弁護士は、そもそも指定代理人がセンシティブな情報も含まれる訴訟記録を残して退席している点も問題視。録音と合わせ、「民事訴訟の根幹にかかわるものを国が理解していなかった」と苦言を呈した。
国側に再発防止などを求めるとともに、自身が所属する神奈川県弁護士会からも何らかの問題提起をしてもらうよう働きかけているという。