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日弁連人権大会 デジタル社会の制度設計要求など4決議採択 アイヌ民族の権利保障巡り一時紛糾
日弁連の人権擁護大会であいさつする旭川弁護士会の池田めぐみ会長(2022年9月29日、北海道旭川市、弁護士ドットコムニュース撮影)

日弁連人権大会 デジタル社会の制度設計要求など4決議採択 アイヌ民族の権利保障巡り一時紛糾

日弁連の人権擁護大会が9月30日、北海道旭川市の市民文化会館で開かれ、「デジタル社会において人間の自律性と民主主義を守るため、自己情報コントロール権を確保したデジタル社会の制度設計を求める」などの4つの決議案を採択した。

このうち、公害対策・環境保全委員会アイヌ民族権利保障プロジェクトチームが提案した「アイヌ民族の権利の保障を求める決議案」の採決では、日本の安全保障上の観点から、国際交流委員会から委員長名での総意として反対意見が出され、賛成側の複数の弁護士が反論し、一時紛糾する事態となった。

討論では、担当したアイヌ民族の女性を原告とした訴訟を挙げ「反対意見を聞いてショックを受けている。これまで人権大会に四十数年出てきて、このような意見は初めて聞いた」との発言もあった。

●デジタル規制「民間事業者と行政の議論は区別すべき」の意見も

「デジタル〜」の決議では、スマホの普及やSNSの利用拡大に伴い、GAFAに代表されるデジタルプラットフォーマーが利用者の膨大な情報を記録、収集していることを問題視。「プライバシーの危機を招いている」とした。

また、アルゴリズムによって似た意見ばかりに触れて自然な意思形成ができないこともあるとし「市民が自己決定するのに十分な情報へのアクセスを確保し、民主主義社会に参加できる制度が必要である」とまとめ、現行法の改正や新たな法制定を提案した。

満場一致で採択されたが、会場からは「デジタルプラットフォーマー規制と、行政機関による個人情報の利活用については問題状況が違うため、区別して議論すべきではないか」などの意見も上がった。

●再審法改正に向けた特別報告も

「デジタル社会」「アイヌ民族」のほかの決議は「高レベル放射性廃棄物の地層処分方針を見直し、将来世代に対し責任を持てる持続可能な社会の実現を求める」「旧優生保護法下において実施された優生手術等に関する全面的な被害回復の措置を求める」だった。

再審法改正に向けた特別報告も今年6月にできた実現本部からあり、「60年前から4度にわたって世に問うてきたが改正できていない。一丸となって協力したい」と全国の単位弁護士会に呼びかけた。

次回は、2023年に長野県で開催される。

なお、アイヌ民族決議案の採決で、日弁連国際交流委員会の総意として読み上げられた反対意見は以下の通り。

アイヌを含めた少数民族の権利保護は、非常に重要なテーマであることは、当委員会としても理解しております。
そして、標題の人権大会のためにご尽力されている正副会長会、運営委員会及び関連委員会の皆様、並びに旭川及び北海道の会員の皆様にも、心より感謝し、敬意を表します。

しかしながら、当委員会としては、本案に対して、以下の理由により反対せざるを得ません。

本案は、固有の漁労・狩猟の権利等、主権国家の権利・権益に関わるような権利保護のあり方が提唱されており、政治的・外交的には非常にセンシティブな問題であって、この時期に、日弁連会長の名で宣言・声明を出すことは、将来にわたりロシアの領土的侵攻(北海道、北方四島)の口実として利用されるおそれがございます。

ロシア(以下、旧ソ連を含む呼称として使用します)の領土主張や領土的侵攻が、当地の少数民族やロシア系住民の保護を口実として実行されてきたという、過去の歴史的事実を看過することはできません。

これまで、アフガニスタン、チェチェン、南オセチア(ジョージア)、シリア、クリミア(ウクライナ)、ドンバス(ウクライナ)等は、すべてロシアが、当地の少数民族やロシア系住民の保護を口実として、領土的侵攻を行ってきたものです。

現下の国際情勢に鑑みれば、日本の安全保障上、このような声明がロシアによる領土的侵攻等の政治的口実として悪用されることが強く懸念されます。

以上により、当委員会としては、本案に反対いたします。今回は、そもそも本案を決議案に入れるべきではございません。

そして、仮に、それでも決議されるという場合には、公表するにあたり、何らかの方法で次のような趣旨を反映した付記をして頂くことを希望します。

「現在の世界を取り巻く情勢を考えると、民族の自律権、民族の自律的尊重・保護が、特定の国家権力の武力介入の理由となっていることを看過することはできない。民族の文化、民族の自律の問題は、各民族がその属する国家との間で平和的、理性的に話し合いながら解決されるべきもので、連合会の本決議もその文脈でとらえられるべきであり、決して国家間紛争におけるにおける国家介入の理由となるように解釈されるべきでない。」

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