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役員から2年半にわたる性被害、高裁で「400万円」の高額賠償が認められた理由は?
取材に応じた女性(左)と判決文の一部

役員から2年半にわたる性被害、高裁で「400万円」の高額賠償が認められた理由は?

2022年2月10日、会社役員の男性から受けていた継続的な性被害をめぐって東京高裁で争われた訴訟で、ある画期的な判決があった。

2年半に及ぶ性被害について「一連のものとして捉えるべき」と不法行為を認めた上で、「圧倒的な上下関係を利用してなされたもの」として会社の使用者責任も認め、男性と会社に慰謝料400万円(弁護士費用40万円)の賠償を命じたものだ(被告側が上告中)。

被害を訴えたのは、映画関連会社(神奈川県川崎市多摩区)に勤めていた女性(被害当時30代)。1審では、会社役員の男性Aと女性が「交際していた」と認定されたため、30万円の慰謝料しか認められず、会社に対する請求も棄却されていた。

一方、高裁判決は、無力感や諦めから抵抗できず、関係が継続することも多い性暴力被害の実態を正確に捉えている。なぜ、1審と2審でここまで判断が変わったのだろうか。代理人の川口彩子弁護士に話を聞いた。

(この記事には性暴力に関する記述があります)

●繰り返し性的関係を強要

判決文によると、女性は2014年6月、知り合いだった男性から誘われたことをきっかけに勤務を始め、経理部で事務などを担当していた。男性は代表取締役の息子で、役員でもあった。

2014年8月にあった会社の飲み会で男性から強い酒を飲まされ、意識を失っている間に自宅に連れて行かれ、性的暴行を受けた。しかし、男性は次期社長と言われており、被害を訴えたら会社から消されると思ったこと、せっかく正社員になれたこと、そもそも被害が被害だけに口に出すことも精神的に困難で、誰にも相談することができなかった。

その後も、上司と部下という地位を利用して繰り返し性的関係を強要され、人格を否定するような言動を受け続けた。男性は女性が帰宅後や就寝後であっても呼び出すなどして、強引に飲酒の席に付き合わせ、自宅に連れ帰りたびたび自分勝手な性行為に及んだ。2016年には妊娠し流産したとみられる兆候が2〜3回あった。

男性から受けている被害について、女性は2016年9月に代表取締役に手紙で訴えたが、なんら対応してもらえなかった。

2017年2月には、男性から車内で「辞表を書こっか」「死んでくんねえ」などと言われ首を絞められ、解雇を通告された。女性は精神的に不安定な状態が続き、現在も病院へ通院している。

●1審では「交際関係」と却下されてしまう

継続的な性暴力被害があると、無力感などから、強い暴行や脅迫を受けていなくても抵抗できず、途中で諦めたり迎合するような反応を見せたりする人もいる。

こうした被害者の抵抗の実態に関する複数の文献を1審でも提出したが、「交際関係にあった」と認定されほとんどの主張が却下された。

高裁では、同意のない性交が起こるプロセスについて分析した『性暴力被害の実際』(金剛出版)などを引用し、雇用上における地位・関係性を利用した性暴力であることを強調した。川口弁護士は「性行為が続いていたとしても、必ずしも同意があるものではなく、断れない心理があることを示しました」と話す。

東京高裁は、2014年8月の性暴力から女性が解雇されるまでの行為を、分断されたエピソードとしてではなく「一連のものとして捉えるべき」として、不法行為責任を認めた。

・2014年8月の飲み会の後に、意に反する性的暴力を行い、この行為は準強制性交に当たる不法行為であることは明らか

・その後も2年以上の間、深夜までスナックや家に連れ回して、避妊せずに自己本位な性的行為に及ぶことを繰り返し、女性の体調などに配慮することなく、自らの欲望の充足を優先させていた

・会社の取締役であり代表取締役の息子であり次期代表取締役と目され、女性をいつでも辞めさせることができる実質的権限を有しており、女性は解雇を恐れて男性の要求に従い続け、妊娠および流産と思われる兆候を繰り返し体調を悪化させていた

・女性が横暴に耐えきれず、これまでの言動を批判して反抗的な態度を見せるや否や、男性は女性に対し、死んでくれなどの暴言と共に解雇を通告した

・一連の行為は、女性が男性の要求を拒否することが困難な状況にあることを利用して、女性の性的自由を侵害し、意に反する行動を強要して健康を外させると共に現在に至るまで通院を必要とする多大な精神的ダメージを負わせるなど人格権を侵害することは明らか

川口弁護士は「本件は事実認定での逆転勝訴であり、他の裁判でも引用できるような『被害者の心理状態』には言及していないものの、実態を直視し、女性が長らく望まぬ関係を強いられてきたことを正面から認めてくれた」と評価する。

●#MeToo運動「判決にも影響を与えている」

また画期的だったのは、「男性の行為は、会社の事業の執行と密接な関連性を有する」と会社の使用者責任も認められたことだ。

「会社の飲み会のあとにセクハラ被害を受けたとして使用者責任が認められた事例はありますが、今回は終業後だけでなく休日に家に呼び出されたケースも含まれている。上司という立場を利用したという点で長年の被害について全面的に会社の責任を認めたのは画期的です」(川口弁護士)

慰謝料も400万円と高額だ。川口弁護士は「性暴力は被害者の心身に深刻なダメージを与えるもの、という社会的な認識が確立していった上での判決ではないか」とみている。

「判決は性的自由の侵害にとどまらず、人格権を侵害する問題だと指摘しています。2017年ごろからの#MeToo運動があったからこそ、性暴力被害に対する社会的な認知が進み、判決にも影響を与えていると思います。こうした事例で高額賠償が認められたことで、今被害を受けている女性たちにエンパワメントできたなら嬉しいです」(川口弁護士)

●女性へのインタビューはこちら

役員からの人格否定、続いた性暴力 「価値のない自分が悪い」思い込まされていた2年半 https://www.bengo4.com/c_5/n_14247/

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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