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毒親からの「分籍手続」で自分の人生を取り戻す…弁護士に聞く「決別方法」
画像はイメージです(よっちゃん必撮仕事人 / PIXTA)

毒親からの「分籍手続」で自分の人生を取り戻す…弁護士に聞く「決別方法」

親の好みに合わない、という理由で結婚を反対されてしまった。大人になったのに、親からいつも行動を監視されて困っている。職場にまで親が電話をかけてくるーー。子どもの行動や考え方に過度に干渉し、悪影響を与える「毒親」に関する悩みを、法律で解決することはできるのでしょうか。

小さい頃から親との関係に悩んできた自らの経験をもとに、毒親問題の解決に取り組む、福尾美希弁護士に話を聞きました。(取材・構成/ ライター・吉田彩乃)

●離婚・男女問題に関する相談の背景に「毒親」の存在

ーー福尾弁護士が、この問題に取り組み始めたきっかけを教えてください。

依頼者の方からの相談を受けていると、離婚や男女問題の背景には、「毒親」問題が潜んでいる場合が多いのではないかと思うようになったことです。私自身が、弁護士になる以前から、親との関係、パートナーとの関係に悩んできており、敏感だったこともあるのかもしれません。

離婚、男女問題のより良い解決のために、「毒親」の視点を持っておくことが有効ではないかと思うようになったのです。

たとえば、ある男性から「妻の実家からの干渉が厳しくて、結婚生活を続けるのが苦痛になってきた」という相談がありました。また、結婚などを機に実家を出た女性からは「毎日のように親から電話がかかってきて、実家に立ち寄ることを強要されて困っている」という話を聞いたこともあります。

ーー毒親問題に法的なアプローチはあるのでしょうか。

親からの執拗な電話や干渉により、子どもの日常生活に支障をきたしている場合には、弁護士から親に内容証明を郵送し、干渉を控えるよう、子どもに代わって交渉を進めていくことができます。

弁護士からの通知により、それ以上干渉することはやめておこうと思う人もいるでしょう。また、いわゆる「毒親」は世間体を気にする人が多いので、内容証明が来た時点で「このまま事が大ごとになってしまうとマズイ」と考えて行動を控えるようになることも期待できます。

ただ、親子関係へ司法が介入するのは難しく、救済しきれていないのが現状ではないかと思います。当事者が親から受けている被害の内容に着目すれば、既存の法律では、DV防止法やストーカー規制法が、救済するための法律としては近いものかと思います。しかし、どちらも親子問題に対応した法律ではありません。

また、18歳未満であれば児童福祉法の適用対象となりますが、大人になってから問題が表面化するケースも多く、そのようなケースについては、直接対応できる法律は残念ながらないと言わざるを得ません。

ーー毒親を持つ方からは、「縁を切りたい」という相談が寄せられることが多いと聞きました。

残念ながら法律上、「縁を切る」方法はありません。ただし、親元を離れて暮らしている場合には、「分籍手続」により親と戸籍を別にした上で、住民票に閲覧制限をかけることができます。

この方法をとっても、親が子どもの住所を調べることを100%阻止できるわけではありません。ただ、親と離れて暮らし、戸籍を分けるということは、当事者にとっては「親との決別」という儀式となり、自分の人生を取り戻し生き直していくための大きな一歩になるのではないでしょうか。

さらに深刻な場合には、親から捜索届を出される場合に備えて、あらかじめ弁護士を通じて警察と連携を取っておくことなどもできます。

●大人になってからも残る「毒」の影響

ーー法的に問題のある「毒親」とは、どのような人たちなのでしょうか。

そもそも「毒親」という言葉は、アメリカの精神医学者、スーザン・フォワードによる「毒になる親」という本のタイトルに由来しています。

一言で表現するのはとても難しいのですが、ごくざっくりいうと、子どもがいつも安心して自分を信じていられる環境を作ることができず、むしろ子どもに対して常に完璧でいなければならないとか、常に周りの人の機嫌をとらなければならないなど、家庭内で子どもに不健全なメッセージを与え続ける親のことを指します。

暴力や性的虐待はわかりやすいケースですが、子どもの人格や感情を否定するような暴言を吐き続ける、子どもの生活を管理しすぎるなどの、精神的虐待のケースもあてはまります。

ーー毒親をもった子どもたちには、どのような影響があるのでしょうか。

子どもは安心してのびのびと自分らしさを伸ばしていくことができません。また、親との関係は、人生で初めての人間関係ですから、その後の人生での対人関係に大きく影響します。 完璧な自分以外を認めることができずに自己肯定感が極端に低くなったり、自分の感情やニーズがよくわからず常に人の顔色を窺うような性格になったりしやすいです。

また、「毒親」は、自分自身も人間関係が希薄であったり、過度に干渉して子どもの交友関係を制限したりといったことをします。子どもが親以外の人との関係を広げて対人関係のスキルを身につけたり、自分の居場所を確保したりする機会を奪う傾向もあります。悪循環ともいえるでしょう。

ーー子どもにとって、非常にストレスが大きい環境と言えそうです。

本当にそうです。このような状況でも本人が特に問題を感じていなければよいですが、ほとんどのケースでは生きづらさを抱えています。子どもが安心して、自分らしく育っていける環境として機能していない家庭を「機能不全家庭」と呼ぶことがあります。毒親はまさに家庭を「機能不全」にしてしまいます。

小さいころから親にされ続けた不健全な行為や、与えられ続けた不健全なメッセージが「毒」としてその人に染みわたり、大人になってからもなかなかその影響から抜けられない、そんな状態に子どもを置いてしまうのが「毒親」なのです。

大人になってからその「毒」に気付き、カウンセラーや精神科の医師の力を借りながら解毒作業をしていくことで、ようやく人生を取り戻せる、そんなケースも多いです。当事者にとっては本当に一生に関わる大きな問題です。ちなみに、機能不全家庭で育ち、大人になってからも何らかの生きづらさを抱えている人たちが「アダルトチルドレン」です。

ーー親としては、子どものために良かれと思ってやっているケースもありそうです。

まさにその通りで、親本人は「子どものため」と思い込み、周囲からも「子ども思いで良い親御さん」と思われていることが多いです。精神的虐待の場合は被害が目に見えないこともあり、毒親の元で育った人は、自分が抱えている悩みや置かれている状況の深刻さを、なかなか周りに理解してもらえません。

そのため、子ども時代には問題に気付くことができず、大人になってから職場で人間関係につまずいたり、パートナーとの関係で苦しんだり、自分が親の立場になって子育てがうまくいかないといった場面に直面してようやく意識できるケースも非常に多いです。

●「辛さは当事者にしかわからないことも多い」

ーー毒親問題を解決するにあたって、福尾弁護士はどのようなことを心がけていますか?

私自身が小さいころから親との関係に悩んできましたから、その経験をもとに、相談に来た方の立場や気持ちに配慮してじっくり話を聴くことを大切にしています。一方で、弁護士としてできること、法律という枠組みでできることが何かという点をきちんと提示することも心がけています。

「毒親」にお悩みの方は、身近な人に「親の干渉に困っている」と相談しても「他の家も同じだよ」と、一蹴されてしまうケースが少なくありません。また、「過去にいつまでもこだわって」という言い方をされることもあるでしょう。

しかし、その辛さは当事者にしかわからないことも多いです。また、過去から続いていることだとしても、現に今、親から執拗に連絡が来たり、職場に押しかけてきたりといった問題がある場合、もはや過去だけの問題ではありません。

周りの人に理解や共感を得られない場合、自分がおかしいのではないかなどと思ってしまう方も多いと思いますが、決して自分が大げさだとか、忍耐力がないと考えたりせずに、まずは自分の感覚を信じてみてほしいと思います。親子関係について困ったことがあれば相談に来てください。悩みを解決する方法を、一緒に探っていきましょう。

(弁護士ドットコムライフ)

プロフィール

吉田 美希
吉田 美希(よしだ みき)弁護士 法律事務所クロリス
幼少時からの虐待を含む自身の家庭での経験を踏まえ、親子問題(毒親・機能不全家族の問題)に積極的に取り組む。親子問題のうち、子の立場に立脚した弁護活動に特化しており、2015年の事務所開設以来、相談に乗ってきた子の立場の相談者はのべ700名を超える。親との間で問題を抱える人たちが、問題を解決し、前向きな人生を歩むための出発点に立てるよう、弁護活動に加えて、自身の体験や日々の発見をベースに、毒親や機能不全家族で悩む人たちに向けた情報発信も行っている。note:https://note.com/yoshida_miki/

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