コロナ禍を乗り切るドイツの政治力、日本とどう違うのか 岩間陽子教授に聞く
メルケル首相(連邦政府HPより)

コロナ禍を乗り切るドイツの政治力、日本とどう違うのか 岩間陽子教授に聞く

早い段階に新型コロナウイルスの感染爆発が起きたヨーロッパ。イタリアやスペインなどが厳しい状況に置かれる中で、ドイツは比較的影響が軽く済んだ。8月12日段階の死者数で比較すると、イタリアの3万5000人、スペインの2万8000人に対して、ドイツは9000人台に抑えている。

この背景には、メルケル首相の強力なリーダーシップと、州単位での封じ込め対策があるという。ドイツのコロナ対策について、日本との比較の視点も交えながら、国際政治・ドイツ政治が専門の岩間陽子・政策研究大学院大学教授に聞いた。(ライター・拝田梓)

●ピンポイント対策がうまくいった

ーードイツのコロナ対策についてどのように評価しますか。

イタリアやスペインほどの大混乱は起きませんでした。政府の初動が早かったことや、病床ベッド数が足りているという医療体制の充実が、国民の安心感につながったのでしょう。

メルケル首相は国民に対して、迅速で適切な語りかけを頻繁に行い、その対応が国民に高く評価されています。

ドイツは連邦制なので、各州の首相が大きな権限を持って必要な処置を行う仕組みですが、メルケル首相は州首相とのコミュニケーションもオンラインを通じて頻繁に行っていました。その結果、州単位のピンポイント対応(行動制限)も上手くいっている印象を受けます。

ドイツ人は法を重視するため、訴訟が起きやすい国なのですが、コロナ対策でも行動制限が基本的人権を侵害しているとして、いくつかの州の行政裁判所で訴訟が起きました。これに対して、「行動制限は適切な規模にすべき」といった趣旨の判決も出ています。司法判断からも、エリアの全域ではなく、ピンポイント対応に注力するになった背景が見えてきます。

例えば、街の一部でクラスターが発生すると、その一帯の人の出入りを制限していますが、必要最小限度で、数百人から1000人程度の規模のことが多いようです。

――それでも、日本よりは行動制限がやりやすいということですか。

そうですね。州レベルで大きな権限をもって対処できる仕組みになっています。

岩間陽子教授 岩間陽子教授

●メルケル首相のリーダーシップで5日間の会議

――ドイツはコロナ対策として、消費税(付加価値税)の減税を打ち出すなど、さまざまな経済対策を実現していますが、なぜ可能なのでしょうか。

メルケル政権は財政均衡を重視していて、今までほとんど黒字でやってきました。なので、コロナ以前はあまり財政支出に積極的ではありませんでした。

しかし、非常事態には特別な対応が必要だと認識して、様々な措置を打ち出しています。これまで黒字でやってきたので体力があるのだと思いますね。

――日本でも減税の話が出ていますが、どのような違いがありますか。

日本の消費税は10%ですが、ドイツは元々付加価値税が高く、今回は標準税率19%を16%、軽減税率を7%から5%に、7月から12月末まで下げるという話です。日本とは状況が異なります。

ーードイツにとって、EU経済の動向は、どうドイツに影響を及ぼすのでしょうか。

ドイツも経済のパフォーマンスが落ちています。EUは広いですから、ドイツだけがいくら頑張ってもその他の国々を助けないと、ドイツの経済も成り立ちません。

そこでもメルケルは頑張りました。EUの議長国としてEU首脳会議を開催し、コロナでダメージを受けた国への7500億ユーロの支援パッケージが決まるまで引き下がらず、最終的には5日間首脳会議を続けました。

ーーEU共同でコロナ債を発行し、イタリアやスペインといった酷い被害を受けた国へ支援を行う、「復興基金」のことですね。援助金と借款の割合で揉めていた中、これまで倹約家の立場だったドイツが援助を推進したことが意外でした。

それぞれの国に色々な哲学があり、オランダ・デンマーク・スウェーデン・オーストリアという「倹約4カ国」が返済不要の補助金よりも、返済が必要な融資の割合を高くすべきと主張してきました。

こういった国際会議で、缶詰めになって徹夜で議論するのはよくある光景ですが、今回は、5日間も連続してやりました。メルケル首相がやる気でないと、持ち帰りになっていたでしょう。イタリアやスペインでは、反EU感情が強まっているので、頑張らなければと思ったんでしょうね。

今回、債務の共同化という形で、EUとして借金を引き受けていくことになりましたが、倹約的だったドイツの姿勢も変わりましたね。

ーードイツがEU全体に対して責任を持たざるを得ないようになってきたんでしょうか。

コロナ禍は広範囲で悲惨な状況になってますし、各国でEUに対する不信感が募っています。不満がボディブローのように効いていて、ドイツでも危機感が共有されるようになったのでしょう。

EUがなくなるとドイツは様々な意味で困ります。EU圏内の広範囲から移動労働者が入ってきていますし、ドイツ企業の工場も周辺国にあります。

今までフランスのマクロン大統領が、EUの改革案を出しても、ドイツ側から反応がなくて、メルケル首相はEUに関心がないのかと思って見ていたのですが、突如目覚めたような印象です。

ーー目覚めたのはどういった理由なんでしょう。

メルケル首相にはある種の倫理観、人道主義があるのだと思います。病気で困っている人は助けないと、ということがしっくりきたんじゃないでしょうか。 

●日本の場合、政治ではなく、国民が頑張ったから何とかなっている

ーードイツと比較して、日本の政治的リーダーシップをどうみますか。

先ほども説明したように、ドイツでも国全体で非常事態宣言をしているわけではなく、国と州で役割分担をして、行動制限は州レベルで行われています。日本の場合は、いわゆる「特措法」がありますが、ピンポイントの行動制限ができていません。

自治体も法的根拠がないままに、現実の対応を迫られているのが心配です。今後、類似の感染症が起きた時、国と地方自治体の権限と費用負担の仕分けをはっきりして、知事に裁量を与えるべきでしょう。災害や病気は基本的に知事の対応とし、狭い範囲で強制的な力を使える仕組みがないと社会的コストが高くなると思います。

4月の最初の感染の山の時は、日本は比較的うまくいったといっていますが、これはみんなが家にこもって頑張った結果です。制度のたてつけが10か0になっていて、狭い範囲の特定の人や地域だけを制限する制度は用意されていません。

緊急事態宣言をためらって対応が不十分だと、ずるずると広がって医療崩壊となり、結果的に社会的コストが高くなってしまいます。

ーー強力な法の存在が必要でしょうか。

コロナ対策は移動の自由への制限など、基本的人権の制限なので、制限が行き過ぎだったら止めさせる仕組みが必要です。期間を限定して、延長には議会の承認が必要だとか、行政裁判ができるといった仕組みですね。

日本国民は文句を言いながらも従って、訴えを起こすわけでもありませんが、権利を守る仕組みがないのはまずいと思います。

自治体からの休業要請については、罰則もないのに守らなかった店名を公表するなどということが起きています。法律もないのに「休業して」といって、強制ではないと言いながら店名を公表するというのはおかしいですよね。

――世界の中で日本はコロナの被害が少ない方ですが、それでも安倍政権の支持率は下がっていく状況です。

安倍首相は、初動は早かったのですが、第二波対応では働いていないですよね。政治が頑張ったからこの程度に収まっているわけではなく、国民が必死になって頑張ったからこの程度に収まっているのだと思います。その過程で、教育を受ける権利などが犠牲になっています。

今年の2月末に、学校の休校を決めた時「子どもたちの命を守るため」と言われましたが、あの時点で子どもの方がはるかにリスクは低いことは分かっていたわけで、「子どもたちの命を守るため」という表現は誠実さに欠けていました。

「子どもたちの教育機会を奪うことは辛いけども、高齢者の命を守るために、これがとりあえず迅速に取れる対応策なので、大変申し訳ないが我慢してほしい」と言って頂ければ良かったのですが、安易な表現に流れてしまった。その後も公立校では、一向にオンライン授業対応は進んでいません。

私は安全保障など、安倍首相を評価している面もありますが、コロナ対策に関しては、国民とのコミュニケ―ションがうまくいっていません。自民党は二世議員が多く、首相の周りを固める官僚も東大卒が圧倒的、社会の実情が見えていないのではと思うときがあります。もっと政策担当者に多様性が必要だと思います。

日本の社会全体がは硬直化して来ているので、変化に対応できなくなっています。風通しを良くして、柔軟性を高めて多様性がある社会を構築して欲しいと思います。各国のコロナとの戦い方が、今後のそれぞれの国の活力の明暗をわけることになるでしょう。

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