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2020年07月29日 10時05分

特殊部隊の元自衛官が“小説”で描いた「拉致被害者の救出シナリオ」、リアルな作戦描写が話題

塚田賢慎 塚田賢慎
特殊部隊の元自衛官が“小説”で描いた「拉致被害者の救出シナリオ」、リアルな作戦描写が話題
伊藤祐靖氏(2020年6月、弁護士ドットコム撮影)

北朝鮮でクーデター勃発、人間の盾とされた日本人拉致被害者を救出すべく、自衛隊特殊部隊に秘匿作戦命令がくだされた――。

日本初の特殊部隊、海上自衛隊「特別警備隊」を創設した元自衛官・伊藤祐靖氏が上梓したドキュメント・ノベル「邦人奪還 自衛隊特殊部隊が動くとき」(新潮社)では、壮絶な救出作戦の全貌が、とても小説とは思えないほどリアルに描かれている。

伊藤氏はかつて、尖閣諸島・魚釣島に上陸し、日本国旗を掲げたことがある。インタビュー前編で上陸の舞台裏を語ってくれた伊藤氏が、後編の本記事で現在も尖閣諸島をめぐって気を抜けない対中情勢、対半島情勢を語る。有事における心構えとはいかに。(編集部・塚田賢慎)

●拉致被害者を取り戻すため、自衛隊が北朝鮮で実戦を経験するとしたら

ーー前編で語られた魚釣島上陸の実体験があるからこそ、本の中で描かれた魚釣島での特殊部隊の行動はリアルでした。悪臭を放つ蛇や、虫の鳴き声など、上陸したからこそ描けるんでしょうね。この本も「ドキュメント・ノベル」という手法で描かれています

そうですね。守秘義務があるので自衛隊での活動を書くには制約があったため、このような形で小説として描いています。

ーーそれゆえに、北朝鮮から6人の拉致被害者を「奪還」する過程にもリアリティーがありました

北朝鮮のミサイル発射の動きを察知したアメリカがピンポイント爆撃に踏み切る可能性が高まる。しかし、その標的近くに、日本人拉致被害者がいるとの情報がもたらされた。日本政府は拉致被害者を救出するべく、自衛隊の投入を決める…。総理大臣、官房長官、防衛大臣が自衛隊投入の法的な制約をクリアにするため、激論をかわす。結果、特殊部隊の投入が決まった、というのがストーリーです。

ーーでは、同様の事態が現実で起きたとき、本当に自衛隊が動くのでしょうか

「邦人奪還」のケースを例にすれば、目的は「北朝鮮にいる拉致被害者たちを生きて取り戻す」ということです。解決方法はたくさんあって、自衛隊や特殊部隊の投入は、人命を危険にさらすというリスクを負う以上、最後の手段だと思います。

「アメリカに爆撃中止をお願いする」「首相がとにかく土下座する」「北朝鮮に数億円のお金を払って返してもらう」「アメリカの農作物を数兆円で買うからピンポイント爆撃はやめてくれと頼む」。他にいくらでも方法はありうるはずです。

あらゆる方法の中で、武力で取り戻すことを選んだ場合には、一番向いているのは自衛隊特殊部隊の投入だということです。どんなに強くても100人のプロレスラーが現地に行ったとしてもどうしようもない。警察や海上保安庁もあるけれど、こういった目的に転用できる「装備」や「技術」も持っているのが特殊部隊だからです。

画像タイトル 「海から上陸する訓練の際の一枚」(提供:新潮社)

ーー伊藤さんが設立にもかかわられた特殊部隊は、そういった「邦人救出」の目的も見込まれて設立されたのでしょうか

当時の政府、自衛隊幹部にどういう狙いがあったのかはわかりません。しかし、この部隊が何をきっかけとして設立されたのかは、よく知っています。それは明確に、能登半島沖不審船事案です(日本の領海を侵犯した北朝鮮工作船と思しき不審船に対処した1999年の出来事)。

●中国、朝鮮半島情勢。自衛隊員の読み方

ーー現在、尖閣諸島周辺の接続水域で中国当局の船が海上保安庁の巡視船によって確認されています。国有化以降、最長記録を更新中です(7月12日時点で90日連続)。石垣市は尖閣諸島の住所を「登野城」から「登野城尖閣」に変更する議案を可決しました。中国も「固有の領土だ」と主張し、譲らぬ姿勢をみせています。中国が船を尖閣周辺に繰り出す意図は?

「我が国は領土問題で日本に一歩も引かないですよ。押していますよ」というイメージを与えたいのではないでしょうか。中国国内向けのアピール、プロパガンダとしての可能性もゼロではないと思います。

ーー朝鮮半島も最近はピリピリしていました。韓国の脱北者らが金正恩朝鮮労働党委員長を批判するビラを飛ばし、北朝鮮側は南北共同連絡事務所を爆破するというショッキングな出来事も報じられています

なぜ爆破か。なぜ感情的な批判を繰り広げているのか。どこまで本気なのかがわからないですよね。しかし、両国の思惑というものはにじみ出てしまうものだと思っています。

いくつかの起きた事象をジッと真剣に見ていると、意図という一本の筋のようなものが浮かび上がってきます。思惑というものかもしれません。これは「偵察」の基本なんです。そして、ここまで見えないうちに偵察終了にはなりません。なぜ相手はそんなことを仕掛けてきたのかを推察するのが偵察の目的ですから。

爆破という漢字2文字の持つイメージが頭の中を走りがちですよね。爆破といっても幅があり、ケガ人が出ないように最初に通告していた可能性もあるわけで、もし爆破してケガ人がいなかったならその理由を考えることが大切だと思います。

見えてくる一本の筋、にじみ出てくる思惑を読む姿勢がなければ、転がったボールに選手のほとんどがわっと集まってしまう初心者の小学生のサッカーのように、狭い視野で事象(ボール)だけを見つめながら、それを追い、それに踊らされ、翻弄され、常に後手後手にまわることになってしまうと思います。

●有事に考えるべきこと

ーー「邦人奪還」のような出来事が現実に起きうるものとして、備える必要があるのでしょうか

人質の奪還という意味であれば、たとえば1977年、日本赤軍がダッカ(バングラデシュ)で飛行機をハイジャックし、人質をとって日本政府を脅すダッカ事件がありました。

福田赳夫首相は「超法規的措置」として要求に従い、収監されていた赤軍メンバーの釈放および、人質解放のための身代金を提供しました。

私は小学生でしたが、内閣総理大臣が決心すれば、人道上、国際法上、日本の法律上、憲法上でも許されていないことができてしまうんだと驚いたことを覚えています(編注:福田首相は「人命は地球より重い」と発言し、テロリストの要求を受け入れた。釈放に反対した当時の福田一法務大臣が引責辞任したほか、国内外から批判を浴びたが、結果として人質全員が無事に解放された)。

ダッカ事件こそ非常時です。非常時とは、既存のルールを守っていればこと足りるという状況ではなくなったときのことだと思っています。

であれば、非常時に行動の根拠を法律や既存のルールに求めるのはナンセンスです。しかし、だからといって非常時に何をしてもよいものでもありません。非常時は、そのときに組織を動かす立場の人が、法律、ルールを作った目的を考えて、今何をすべきか決心し、断行することが大切だと思います。

その一番よい例がダッカ事件です。自国民の命を守るという目的がしっかりとしていたからやれた。「やればできてしまう」という事実でもありますよね。

ーー最後になりますが、本の中で紹介されていた特殊部隊の隊員同士が互いの感覚を共有して視覚や思考を理解し合うという意思疎通法「マインドセット」が興味深かったです。実際の特殊部隊でもテレパシーのようなやりとりが可能なのですか

サッカー選手がゴール前で互いの動きを目で見ずにパスを出しますね。「ゾーン」とも呼ばれるものですが、あれに近いです。意図的にゾーンに入るための訓練もします。訓練を深めるうちに、相手が自分に何を望んでいるのかがかなり細かく伝わり、意思疎通が取れることがわかってきます。

【著者プロフィール】伊藤 祐靖(いとう すけやす)。1964年生まれ。日本体育大学から海上自衛隊へ入隊。「みょうこう」航海長在任中の1999年に能登半島沖不審船事件に遭遇。自衛隊初の特殊部隊「特別警備隊」(海上自衛隊)創設に携わる。2007年の退官後、国内外の警察、軍隊、自衛隊員に知識・経験を伝えている。

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