小学生の息子がサッカー中に他の子どもとぶつかって、相手の「前歯の神経」を傷つけてしまった。賠償の義務はあるのか? 弁護士ドットコムの法律相談コーナーに、こんな相談が寄せられた。
投稿者によると、小学校2年生の息子が休み時間にサッカーをしていたところ、友達と衝突。そのとき、衝突した相手の前歯の神経が損傷し、長期の治療が必要な状態になってしまったのだそうだ。投稿者の息子にケガはなかったという。
先方からは、今回の件で話し合いたいとの申出があり、投稿者は「恐らく治療費や賠償を求められるのでは」と心配している。ただ、サッカー中の事故ということで「当方に賠償の義務はあるのでしょうか?」と疑問も感じているようだ。
サッカーやラグビーなどのスポーツは、相手との身体的な接触が多くある。そのようなスポーツをしている最中に、相手とぶつかり、けがを負わせてしまった場合、賠償責任は生じるのだろうか。好川久治弁護士に聞いた。
●ルールに基づき適切に行われているか?
「他人に損害賠償を求めるためには、前提として、行為が違法でなければなりません。
サッカーやラグビーなどのスポーツは、その競技の性質上、他人との身体的接触(危険)が予想されるものですから、仮にそれによって他人に怪我を負わせたとしても、それがルールに基づき適切に行われている限り、違法とはされません。
スポーツが遊びの一環として行われている場合でも同様です。つまり、法的には、社会的に容認されている行為ということになります。
したがって、スポーツ中の不慮の事故で怪我をしても、原則として、原因を与えた競技者に損害賠償を求めることはできません」
今回、投稿があったケースでも、損害賠償責任は負わないのだろうか?
「投稿者のお子さんの事例も、競技中にやむをえず衝突してしまったということであれば、結果に対して賠償責任を負いません。
これに対し、競技中にルールを無視した危険な行為があったとか、暴力的な行為、悪ふざけがエスカレートして一方的に怪我をさせてしまったなど、スポーツや遊びとして社会的に許容されない行為が怪我の原因であった場合には、加害者は結果に対して賠償責任を負わなければなりません。
ただ、投稿者のケースの場合、お子さんは小学校2年生で、自分の行為が法的責任を問われることを理解できるだけの能力(責任能力)がまだありません。そこで、お子さんに代わり、両親または、学校で児童を監督する責任を負う教員、学校、自治体などが責任を負うことになります」
●「災害共済給付制度」を利用できる可能性
「ところで、賠償責任が発生するかどうかにかかわらず、投稿者の事故は、学校の休み時間中の事故のようですから、独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度を利用できる可能性があります。
同制度は、被害児童の損害の全てをカバーするわけではありませんが、治療費と前歯の欠損が後遺障害と認定された場合の障害見舞金が一定程度支給されますので、損害を一部回復することが可能です。
子ども同士の遊びに怪我は付き物です。お互い様の面もありますので、全てを法的問題にするのは現実的ではありません。
ただ、怪我をした児童は痛い思いをし、メンタルな面でも経済的な面でも、負担が発生していますので、これを加害児童側が無視するわけにはいきません。
その後の学校生活のこともありますので、加害児童側としては、そのような被害者側の気持ちに配慮しながら、定期的な見舞いと災害共済給付制度の利用を促すなど経済的負担の軽減に努めるべきでしょう」
好川弁護士はこのように指摘した。
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