大手予備校「駿台予備学校」の現代文の講師が執筆したセンター試験用の漢字問題集に、性的な表現が掲載されているとしてネット上で波紋をよんだ問題で、駿台予備校などを運営する学校法人「駿河台学園」(東京都)は1月13日、問題集の自主回収を決めた。駿河台学園の広報部の担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し「ご不快な思いをさせたのは我々の本位ではありませんでした。真摯な対応策として、自主回収を決めた」と話した。
問題となった「生きるセンター漢字・小説語句」(駿台文庫)は、例文中のカタカナを漢字に置き換え、選択肢の中から同じ漢字がある語句を選ぶ形式の設問だが、その例文に不適切な表現が含まれていた。
たとえば、「きみのエキスをチュウシュツ(抽出)して飲み干したい」「彼女のなだらかなキュウリョウ(丘陵)をうっとりと眺めた」「彼女の体のユル(緩)やかなラインが僕をほっとさせる」「胸のでかさに俺はキョソ(挙措)を失った」などといった内容で、「教材」としては首をかしげるような例文だ。
駿河台学園によれば、1月14日の朝から自主回収を求めて、書店へFAXを送り始めた。「著者と編集者が『生徒や学生さんに使いやすいものを』と考えたようですが、本を読んだ学生さんに、ご不快な思いをさせたのは間違いありません」と広報部は話す。部数は2万8000部、そのうち、7000部が市場に流通していた。
ところで、この問題集をめぐっては、ネット上で「セクハラ」と不快感を指摘する人の声もあった。実際に「セクハラ」にあたるとされることはあるのだろうか? 足立敬太弁護士に見解を聞いた。
●どのような場合に「セクハラ」となるか?
「セクシャル・ハラスメントとは日本語で性的嫌がらせのことですが、性的に不快な思いをさせればすべて違法、というわけではありません。
行為の態様や加害者の地位、年齢、被害者の年齢や両者の関係、行為が繰り返し行われたかなど、様々な要素を判断して、被害者の性的自由や人間の尊厳を踏みにじるような行為がセクシャル・ハラスメントとして違法(民法709条の不法行為)だと判断されます」
今回のテキストはどのように判断されるだろうか?
「このテキストには性的な連想をさせるフレーズや女性蔑視の表現が複数掲載されています。読んで不快に思う者も多数いるでしょうが、しょうもないテキストだと呆れる者もいるでしょうし、不快な部分を飛ばし読みしてしまう者もいるでしょう。
そもそもこんな下品なテキストを買わない自由もあります。不快ではありますが、テキスト掲載のフレーズだけで、セクハラとまでは言えないでしょう」
足立弁護士は、仮定の話として、下記のような場合には違法性があると指摘する。
「しかし、このテキストが例えば講座の必須教材と指定された場合には、受講生は嫌でも購入を強制されることになります。講座やその予習復習で性的な連想をさせるフレーズや女性蔑視の表現を嫌でも目にしなければならなくなります。セクハラ認定の可能性が増します。
さらに性的な連想をさせるフレーズについて、講師が受講生を指名して音読や板書を強制させるなどすれば、受講生の苦痛は我慢の限界を超えています。そうなれば、もはやセクハラとして違法と評価される可能性が高いです。
講座の必須教材とされたり、音読や板書を強制されたりした場合には、講師に不法行為責任(民法709条)、予備校側に使用者責任(民法715条)があるとして、精神的苦痛に対する慰謝料請求が認められる可能性があるといえます」
なお、駿河台学園は「駿台予備校では、高校の教科書にあたるオリジナルのテキストを使っています。学生の中には、購入していた者もいるかもしれませんが、通常の市販のテキストであり、授業では使っていません」と話している。どうやら、今回の件に関しては、違法性があるとは言えないようだ。