「終電帰りの満員電車の中で後ろにいた女性に吐かれてしまいました」。ネットの掲示板にこのような嘆きの声が掲載されていた。
投稿者が異変に気づいて電車から降りたら、女性が「ごめんなさい〜。フードのところにかけてしまいました」と涙目になって近づいてきたという。さらにかけられるのを恐れて「もういいです」と言ったら、相手は去ってしまったそうだ。
フードは取り外しが可能で他は無害だったが、洗っている最中も酒臭くて、米粒も見えて、とても不快だったそうだ。このような場合、法的に考えて、相手に弁償させることは可能なのだろうか。浜田諭弁護士に聞いた。
●「トラブル時点での衣類の価値が基準」
「弁償が認められる可能性はありますが、衣類を購入したときと同じ金額の弁償を得ることは難しいと思われます」
それはなぜだろうか。
「普通の衣類は、購入時からその価値が下がっていきます。たとえば、1万円で購入した衣類を半年後にリサイクルショップ等に持ち込んだ場合、たとえ一度も着用していなくても、購入額より安い金額で引き取られますよね。
今回のようなトラブルに巻き込まれて、衣類を購入したときと同じ金額の弁償を得られるとすると、トラブル時の衣類の価値との差額分だけ得することになってしまいます。これはおかしいでしょう。
トラブル時点での衣類の価値が、損害賠償額を決める基準と考えるべきです」
●減価償却で「衣類の価値」を算定する
では、どうやってトラブル時点での価値を算定するのだろうか。
「基本的には、被害を受けたそれぞれの品について、通常の使用期間を考慮して、トラブル時点までの減価償却を行って算定することになります。使用期間とは、商品購入時から着用しなくなるまでの平均的な期間のことです。
たとえば、5万円で購入したスーツについて、通常の使用期間が5年であると仮定してみましょう。購入時点からトラブル時までに4年が経過していたら、4年分の価値が減ったものと考えて、トラブル時の価値は1万円と算定します。この場合、スーツ代としては1万円の弁償が得られると考えます。
また、現在では既に購入できない衣類についても、この考え方で『弁償を得られる額』が計算できます」
浜田弁護士はこのように述べていた。