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佐野研二郎氏が手がけた「トートバッグ」の「盗用疑惑」 弁護士が法的問題を検証

佐野研二郎氏が手がけた「トートバッグ」の「盗用疑惑」 弁護士が法的問題を検証

サントリーは8月13日、アートディレクター佐野研二郎氏が手掛けたトートバッグについて、同社のキャンペーンの賞品から取り下げると発表した。30種類のうち、8種類が発送中止となった。佐野氏からの申し出とのことだが、これらの商品には「盗用」疑惑が浮上している。

たとえば、トートバッグに描かれたフランスパンのデザインは、「パンレビュー」という個人ブログに掲載された画像(http://panreviews.blogspot.jp/2014/06/baguette-pompadour.html)と酷似していると指摘されている。他のトートバッグについても、よく似た画像を複数並べて比較する画像が、ネットで出回っている。

佐野氏については、2020年東京オリンピックの公式エンブレムの盗用疑惑が浮上したが、事実無根を主張している。しかし、新たな盗用疑惑が明らかとなり、波紋が広がっている。今回の盗用疑惑を法的にどう考えればいいのか。知的財産権にくわしい齋藤理央弁護士に聞いた。

●「パン自体」の著作物性と「パンを撮影した写真」の著作物性

「個人ブログに掲載されたバゲット(フランスパン)の画像が、トートバックに使われたデザインと仮に一致するとしても、バゲットの画像転用が著作権法に違反するかどうかは難しい判断を含んでいます」

このように、齋藤弁護士は切り出した。著作権侵害になるかどうかの前提として、まず、転用された対象が「著作物」にあたるかどうかの問題があるという。

「まず、今回問題となっているバゲットそのものは、著作権法の保護を受ける『著作物』に該当しないと考えられます。バゲットなどのパンは、一般的に意匠法との兼ね合いで、著作権法が保護対象としている美術の範囲に属さないと考えられています。また、バゲットの形状はありふれたもので、創作性を認める余地もないように思われます。

しかし、バゲットそのものだけでなく、バゲットを撮影した『写真』の著作物性も考える必要があります。版画写真事件(東京地判平成10年11月30日)の裁判例を参考に説明します。

この裁判例では、写真の著作物性を否定するポイントとして、版画の全体像を伝える写真を撮影するには、版画を正面から撮るしかアングルの選択肢がないことが挙げられました。バゲットのような細長いパンの全体像を紹介する目的で撮影する場合も、撮影角度が限られてしまうと考えれば、著作物性が否定される可能性もあるでしょう。

ただ一方で、パンの全体像を伝えるとしても、さまざまな角度、アングルを選択できると考える余地もあります。あとは、 露光などで写真撮影者がパンをおいしくみせるために創意工夫をしているかどうか、その程度などを勘案して、著作物性が判断されることになるでしょう」

●著作権侵害と判断される可能性も

パンそのものと写真が「著作物」であるかどうか、非常に難しい判断になりそうだ。では、もし写真が加工されている場合、どんな問題があるのだろうか。

「仮に、さきほど説明したような写真の『著作物性』が肯定された場合、写真を回転させたり、一部分を切り取って使用していると仮定すれば、翻案権侵害が問題となります。

具体的には、写真の表現上の特徴が残っているかどうかがポイントになります。バゲット自体の特徴は当然残っていますが、バゲットを撮影した写真の特徴が残っているかどうかが問題なのです。全体を伝える目的で撮影された写真を、回転させたうえで一部切り取って使っているため、写真そのものの本質的特徴は残っていない、と考える余地もあるでしょう。

しかし、トートバックに、バゲット自体の特徴に留まらず、写真によって引き出されたバゲットの魅力や持ち味も反映されていると考えれば、著作権侵害と判断される可能性も十分あるように思われます」

今回は、このバゲット以外にも、取り下げられたトートバッグがある。それらの盗作疑惑についてはどうだろうか。

「他のトートバッグでも、写真が流用されているものがあるとすれば、被写体にもよりますが、同じような議論になるでしょう。また、仮にイラストなどが流用されているものがあるとすれば、より直接的に著作権侵害の問題となるでしょう」

齋藤弁護士はこのように話していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

齋藤 理央
齋藤 理央(さいとう りお)弁護士 今井関口法律事務所
今井関口法律事務所。著作権などコンテンツiP(知的財産)やITトラブルなど情報法分野に重点をおいている。重点分野で最高裁判決、知財高裁判決などの担当案件の他、講演、書籍や論文執筆監修など多数。自身のウェブサイトでも活発に情報発信をしている。東京弁護士会所属。著作権法学会、日本知財学会会員、弁護士知財ネット、東弁IT法研究部等に所属。

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