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事件当時「少年だった」逮捕者の実名を誤って発表、法的にどんな問題があるのか?
画像はイメージです(Satoshi KOHNO/PIXTA)

事件当時「少年だった」逮捕者の実名を誤って発表、法的にどんな問題があるのか?

少女とみだらな行為をした疑いで逮捕された20歳男性が、事件発生当時、未成年だったのにもかかわらず、誤って実名で発表されて、しかも報道もされていたことが問題になっている。

報道によると、宮崎県警は6月11日、県内在住の18歳未満の少女にみだらな行為をしたとして、大阪府在住の20歳男性を県青少年健全育成条例違反の疑いで逮捕した。その際、男性の実名や住所、職業などを報道機関に発表。これを受けて、地元紙などが実名報道した。

ところがその後、事件当時、男性はまだ19歳だったことがわかったというのだ。県警はミスを認めて、男性とその家族に謝罪したという。今回のケースは、法的にどのような問題があるのだろうか。神尾尊礼弁護士に聞いた。

●国家公安委員会が定めたルールに反する

今回のケースは、県警が事件当時少年だった男性の実名などを報道機関に発表したことに端を発してる。県警の対応に法的問題はなかったのだろうか。

「警察官は、国家公安委員会が定めた『犯罪捜査規範』という規則を守る必要があります。この規則は『犯罪の捜査を行うに当たって守るべき心構え、捜査の方法、手続その他捜査に関し必要な事項』が定められています(1条)。

法律ではないので、破ったからといって、ただちに違法ではありませんが、警察官の行動規範となっています。

この規則では、『新聞その他の報道機関に発表する場合においても、当該少年の氏名または住居を告げ、その他その者を推知することができるようなことはしてはならない』と定められています(209条)。

今回のケースでは、実名などを発表してしまったことから、この規則に反したといえるでしょう」

●実名報道も「少年法」に反する

同じような規定として、氏名や年齢などの掲載を禁止した少年法61条が知られている。

「これらの規定は、少年のプライバシーの保護、少年の更生や社会復帰の助けなどを目的としています。

たとえば、公開捜査のように必要性が高い場合は、実名発表も認められる余地があるかもしれませんが、今回のケースはすでに逮捕されていますし、性犯罪であれば被害者とされる女性の情報にもつながってしまうおそれもあります。

やはり今回のケースにおいて、実名発表は、この規定の趣旨に反していると考えられます。

なお、少年法61条は、報道機関を対象にしています。警察発表を真に受けて、よくたしかめず実名報道をしてしまったのであれば、逮捕段階であったとしても、少年法61条に反したといえるでしょう」

●実名報道は本当に必要なのか?

もし、これらの規定に反したということになった場合、どうなるのだろうか。

「少年を保護する要請を上回るような社会的利益は、今回のケースではないでしょうから、損害賠償が認められる余地があるでしょう。

ただ、実名報道の一番の問題は、報道してしまったら取り返しがつかない場合が多いということです。ネット上の情報は、なかなか消せませんし、拡散してしまいます。ネットに出たために、仕事に支障が出たり、不起訴になってもクビになったりする場合もあります。

少年に限らず、成人についても、実名報道が本当に必要なのか、必要だとしてどのような場合なのか、考えていく必要がありそうです」

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

神尾 尊礼
神尾 尊礼(かみお たかひろ)弁護士 東京スタートアップ法律事務所
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。一般民事事件、刑事事件から家事事件、企業法務まで幅広く担当。企業法務は特に医療分野と教育分野に力を入れている。

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