選挙ポスターなどによる名誉毀損の容疑で書類送検されていた政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首らが去年12月に不起訴となったことを受けて、立憲民主党の石垣のりこ参院議員が1月20日、不起訴を不服として仙台検察審査会に審査を申し立てたことが報じられました。
報道によると、立花氏と、昨年7月の参院選の候補者だった男性、党関係者の女性は、選挙ポスターを通じて石垣議員の名誉を毀損した疑いで書類送検されていましたが、仙台地検は昨年12月に不起訴処分としました。
ニュースでときどき出てくる「検察審査会」という言葉ですが、そもそもどのような制度なのでしょうか。基本的な仕組みを解説します。
●検察審査会とは何か
検察審査会とは、検察官の不起訴処分が適切だったかどうかを市民がチェックする制度です。
刑事事件では、警察が捜査した事件を検察官が受け取り、起訴するかどうかを判断します。検察官が「不起訴」と判断すれば、刑事裁判は開かれません。
しかし、被害者や告訴・告発をした人からすれば、「なぜ不起訴なのか納得できない」と感じることもあります。
そこで、検察官の判断が妥当だったかどうかを市民の視点から審査する仕組みとして、検察審査会が設けられているのです。
●検察審査会の審査員はくじ引きで選ばれる?
検察審査会は、選挙権を持つ国民の中からくじで選ばれた11人の審査員で構成されます。
審査員は、裁判員制度の裁判員と同じように、一般の国民から無作為に選ばれます。法律の専門家ではない普通の市民が、検察官の判断をチェックするのです。
この仕組みは、「検察官の判断に市民感覚を反映させる」という目的で設けられています。
●検察審査会の議決にはどんな種類があるのか
検察審査会は、審査の結果、次のいずれかの議決をします。
(1)起訴相当:起訴すべきだという議決
(2)不起訴不当:不起訴は不当だという議決
(3)不起訴相当:不起訴が妥当だという議決
「起訴相当」と「不起訴不当」という言葉は大変紛らわしいですが、別の意味なので注意が必要です。
どちらも「不起訴処分はおかしい」という判断をしていることは同じなのですが、「起訴相当」の方が強い意見表明であり、後でみるように、その後の手続きに少し差が出てきます。
令和6年(2024年)の統計によると、検察審査会が処理した2,870人のうち、起訴相当は8人、不起訴不当は83人、不起訴相当は2,378人でした(犯罪白書令和7年版)。
多くのケースで「不起訴相当」となっており、検察官の判断が支持されることが多いといえるでしょう。
●「起訴相当」の議決が出たらどうなるのか
検察審査会が「起訴相当」の議決をした場合、検察官は事件を再捜査し、あらためて起訴・不起訴を判断します。
それでもなお検察官が不起訴と判断した場合、もう一度、検察審査会で審査されます。
そして2回目の審査で再び「起訴相当」の議決が出た場合、裁判所が指定する弁護士が検察官の代わりに起訴することになります。これを「強制起訴」といいます。
強制起訴された事件は、通常の刑事裁判と同じように裁判所で審理され、有罪か無罪かが判断されます。
●「不起訴不当」の議決が出たらどうなるのか
「不起訴不当」の議決が出た場合も、検察官は事件を再検討します。
ただし、「起訴相当」と違い、再び不起訴と判断した場合でも、それ以上の手続きはありません。強制起訴には至らないのです。
つまり、「不起訴不当」は検察官に再考を促す意見表明ですが、「起訴相当」ほどの強い拘束力はないということです。
令和6年(2024年)の統計では、「起訴相当」または「不起訴不当」の議決が出た78件のうち、検察官が起訴したのは15件で、起訴率は19.2%でした。残りの63件は不起訴が維持されています(犯罪白書令和7年版)。
●検察審査会の議決に法的拘束力はあるのか
「起訴相当」の議決が2回出た場合は、強制起訴となるため、法的拘束力があるといえます。
一方、「不起訴不当」や1回目の「起訴相当」の議決には、検察官に再考を促す効果はありますが、最終的に検察官が不起訴と判断すれば、それで終わりです(2回目の「起訴相当」を除く)。
「不起訴相当」の議決が出た場合は、検察官の判断が妥当だったと認められたことになり、それ以上の手続きはありません。
検察審査会の手続きの流れ(画像作成には一部AIを使用しています)
●検察審査会を経て起訴された事件の有罪率
検察審査会の議決を経て起訴された事件(検察官が再考して起訴した場合と強制起訴の両方を含む)は、通常の起訴事件と比べれば有罪率が低い傾向にあります。
通常、検察官が起訴する事件の有罪率は99%を超えるといわれています。検察官は「確実に有罪にできる」と判断した場合にのみ起訴するためです。
一方、検察審査会を経て起訴された事件は、検察官が一度は不起訴と判断したものです。不起訴の理由は「嫌疑不十分(証拠が不十分)」の場合もあれば、「起訴猶予(犯罪は成立すると考えているが、諸事情を考慮して起訴しない)」の場合もあります。
犯罪白書(令和7年版)によると、昭和24年(1949年)から令和6年(2024年)までの間、検察審査会の議決後に起訴された事件のうち、第一審で有罪判決を受けたのは1,576人、無罪判決(免訴や控訴棄却を含む)を受けたのは107人でした。有罪率は約94%です。
通常の起訴事件の有罪率(99%超)と比べれば低いものの、検察審査会を経て起訴された事件でも、約94%は有罪となっています。一度不起訴となった事件だからといって、必ずしも無罪になるわけではないのです。
検察審査会制度の目的は「検察官の判断の妥当性を市民がチェックすること」にあります。結果として無罪となるケースもありますが、市民が刑事司法に参加する意義は大きいといえます。
●今回の立花氏のケースはどうなるのか
今回、石垣議員が検察審査会に申し立てを行ったことにより、仙台検察審査会が審査を開始します。
検察審査会は、立花氏らに対する不起訴処分が妥当だったかどうかを、市民の視点から審査することになります。
審査の結果、「起訴相当」「不起訴不当」「不起訴相当」のいずれかの議決が出されます。 「起訴相当」や「不起訴不当」の議決が出れば、検察官は再検討を行い、改めて起訴・不起訴を判断することになります。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)