陸上自衛隊の演習場で2021年8月、自衛官だった五ノ井里奈さんに格闘技の技をかけて押し倒し、衣服を着たまま腰を振って、下半身を押し付けたなどとして、元上司3人が強制わいせつの罪に問われた刑事裁判で、福島地裁は懲役2年・執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。
裁判の大きな争点は「強制わいせつ」が成立するかどうか。報道によると、被告人のうちの1人は「腰を振ったが、笑いをとるため」と性的な意図を否定して、無罪を主張していた。
しかし、福島地裁は「腰を振る行為は性的な意味合いが強く、性的意図がなかったとしても『わいせつな行為』に当たるかどうかの判断に影響を及ぼさない」と退けたという。
今回の判決について、刑事事件にくわしい澤井康生弁護士に聞いた。
●かつては「性的な意図」が必要とされていた
強制わいせつ罪(2023年の刑法改正で現在は「不同意わいせつ罪」)においては、「性的な意図」が必要かどうかが、争点の1つとなります。これまでに実務・判例にも変遷がありました。
かつては、強制わいせつ罪において、犯人の主観的要件として「性的な意図」が必要とされていました。
最高裁は「強制わいせつ罪が成立するためにはその行為が犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行われることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であってもこれらが専らその婦女に報復し、侮辱し、虐待する目的に出たときは強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつ罪は成立しない」と判断していました(昭和45年1月29日)。
つまり、客観的にわいせつな行為をしても、犯人に「性的な意図」がなければ、強制わいせつ罪が成立しないとされていたのです。
この判例に対しては、当然のことながら、被害者の「性的自由」が侵害されているのだから、犯人の目的や動機によって、強制わいせつ罪の成否が左右されるのは不当であると批判されてきました。
●客観的に明らかにわいせつ行為と言えれば「強制わいせつ」成立
それから50年近くして、最高裁は「強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては、被害者の受けた性的な被害の有無やその内容、程度にこそ目を向けるべきである。故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは妥当ではなく、昭和45年判決の見解は変更されるべきである」として判例を変更したのです(平成29年11月29日)。
ただし、客観的に「わいせつ行為」にあたるのか微妙な場合には、行為者の目的など、主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があるともされました。
要は、客観的に明らかにわいせつ行為と言えれば、犯人の「性的な意図」にかかわらず、強制わいせつ罪が成立するということです。
今回の事件でいえば、報道されている起訴状の内容から、被告人らは、格闘技の技をかけて被害者をベッドにあおむけに倒して、覆いかぶさって、下半身を押し付けるなどしたとされています。
こうした行為がわいせつ行為にあたるのは明らかといえます。したがって、仮に被告人に「笑いをとる」という意図があったとした場合であっても、強制わいせつ罪が成立するという結論になります。