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留置施設に「ブラトップ」差し入れ、京都府警が許可「声上げれば変わる」 5年前に乗り込んだ男性弁護士の思い引き継ぐ
貴谷悠加弁護士(本人提供)

留置施設に「ブラトップ」差し入れ、京都府警が許可「声上げれば変わる」 5年前に乗り込んだ男性弁護士の思い引き継ぐ

京都府警の留置施設で女性被疑者に「ブラトップ」を差入れしようとしたところ、許可を得られなかったとして、女性弁護士が京都府警に改善の申し入れをした。その後、一転して認められたことがわかった。

全国の警察の留置施設では一般的にブラジャーなど「ひも状」の衣服は自傷や自死などのおそれから禁止されているとみられる。

同じ関西の大阪府警では、2018年から袖があり、カップが縫い付けられているタイプのブラトップであれば着用が認められており、ブラトップ使用による自傷や自死は確認されていない。

大阪で着用を認めさせたのは、男性の弁護士だった。警察本部で複数の警察官に囲まれながらも、頑なに「おかしい」と主張を続けたという。弁護士らは全国的に着用が認められるべきと呼びかける。(ニュース編集部・塚田賢慎)

●胸を張って警察の取調べや接見をうけられない女性たち「尊厳を傷つけるもの」

京都府警に「ブラトップ」着用の改善を申し入れたのは、貴谷悠加弁護士だ。貴谷弁護士によると、大麻取締法違反で逮捕され、中京署に勾留された10代の女性被疑者は留置施設内でブラジャーの着用を禁じられたという。

恥ずかしさから、接見でも腕を前で組んで話す女性にブラトップ(タンクトップ型)を差入れしようとしたが、同署は認めなかったという。貴谷弁護士は10月20日、女性の人格権を侵害するとして、同署長や京都府警本部長などに申し入れた。

過去の事件で担当した女性被疑者の中にも、下着を付けられず、取り調べで嫌な思いをした人がいたという。

「夏場にはTシャツ1枚にもなるため『気になるどころの話じゃない』と話してくれた方もいました。羞恥心は年齢や体型によっても差があると思いますが、体型がグラマラスな方であれば、なおさら嫌な思いをするでしょう。

取調べも接見も胸を張って受けられないことは問題です。私だったら接見であっても早く終わってほしいと思うはず。女性の尊厳を傷つけるものだと思うし、接見にも影響があり、防御権侵害でもあると思います」

その後、改めてブラトップを差入れたところ、10月31日付で認められたことがわかったという。

「差入れが認められ、京都府警の運用が変わった点は意義があると思います。差入れを希望した女性も『留置所では人権ないと聞いていたけど本当だった。スマホが触れないとかそういう甘いことではなくて、ノーブラで透けている状態で男の人の前に立たなければいけないのは本当にストレスだった』と話されていました」

粘り強く差入れを続けたのは、ブラトップ着用を警察に認めさせた「先人」の活動を知っていたからだ。「全国でも大阪の警察だけ着用が認められていました」(貴谷弁護士)

●ブラジャーがダメってなんで? おかしいと気づいたのは男性弁護士だった

ブラトップ(カップ付きインナー)の着用を認めているのが、大阪府警だ。

大阪府警本部の総務部留置管理課によると、2018年12月から、すべての留置施設内外で、女性被疑者が望めば、着用を認めるように全警察署に通知したという。

ブラトップであっても、キャミソールやタンクトップなど肩の部分がひも状になっている形状のものなどは認めておらず、袖があるものに限る。

ワイヤーの入ったブラジャーも、全面的に禁止しているわけではなく、裁判への出廷や「引き当たり捜査」(被疑者を連れて行く捜査)など、外に出ていくときは、保安状不適当と認める事情があるときを除き、本人の希望があれば着用を認めている。

刑事事件の被疑者になればブラジャーをつけられない。おかしいと感じた思いを即行動に移したのが、大阪弁護士会所属の赤嶺雄大弁護士だった。

画像タイトル 赤嶺雄大弁護士(本人提供)

2018年、大阪府警本部の留置施設に勾留されていた少女と接見した際、ブラジャーを着けていないことに気づいた。

「最初は着用禁止のルールがあることも知らず、何らかの事情があって着けていないのかと思ったが、その子も恥ずかしがっている感じがするし、こっちだって気まずい。差入れをしようかと聞いたら、『ありがたい』と言っていた」

翌日、ブラジャーを差入れしようとしたが警察に断られた。自傷や自死を防ぐためというのが理由だという。

●乗り込んだ大阪府警本部…女性警察官に「あなたもブラジャー脱げるのか?」

だが「どう考えてもおかしい」と徹底抗戦の覚悟を決めた赤嶺弁護士は、翌々日に持参したブラトップの差入れも断られると、大阪府警本部の留置施設で警察官相手に主張を繰り広げたという。

「これが認められないのはおかしいと、1〜2時間揉めに揉めました。建物の奥からどんどん屈強な警察官が出てきて、囲まれましたが、差入れを認めるまでは絶対に動かないと決めて、主張は曲げませんでした」

ときには、女性警察官相手に「おかしくないというなら、あなたもここでブラジャー脱いでください」と詰め寄った。「イヤでしょう? 被疑者だって同じようにイヤなんだ」

最終的に、大阪府警本部はブラトップの差入れと着用をその日のうちに認めたという。

本部が認めたのであれば、大阪の全警察署で認められるのが筋だ。大阪弁護士会は大阪府警に取り調べなどの際のブラトップ着用について改善命令を申し入れ、大阪府警本部が2018年12月に正式運用を始めた。

赤嶺弁護士は「大阪だけでなく、京都でも全国でもブラトップ着用が認められるべきだと思います。ブラトップが自傷自殺の道具になるなら、あらゆる衣類・道具が自傷自殺道具になりえる。こじつけ以外の何ものでもない」と話す。

ブラトップで何か問題があればまだしも、大阪府警は取材に、2018年の運用開始後、ブラトップを使った自傷や自死などは確認できていないと答えた。

貴谷弁護士は「現在は、大阪府警を除く多くの警察でブラトップの差入れや着用すら認められていない状況ですが、そもそもTシャツ型のブラトップを着用したまま逮捕される女性もなかなかいないと思います。全国の留置施設で、女性がブラトップを自弁で購入したり、官品として貸出を受けたりできる状況にならない限り、この問題は残り続けていくと思います」と指摘し、今後も改善の動きを求めていく考えだ。

大阪府警と同様の運用をしている全国の警察署の存在について問い合わせたが、警察庁は統計を取っておらず答えられないとしている。

「全国の大阪以外の警察署でどのような運用がされているかはわかりません。ぜひ、このニュースをご覧になった法律家には、女性被留置者に対して『こんなニュースがあったけど、必要やったら差入れしてみよか?』と声をかけてみてもらいたいです」(貴谷弁護士)

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