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複数恋愛のポリアモリー男性が抱える葛藤 「ひとりの女性を愛するのは怖い。傷つくのが怖いんです」
画像はイメージです(mits / PIXTA)

複数恋愛のポリアモリー男性が抱える葛藤 「ひとりの女性を愛するのは怖い。傷つくのが怖いんです」

多様な性のあり方がやっと可視化されてきた昨今、「ポリアモリー」という言葉を聞いたことがある人も多いだろう。複数の人々を同時に等しく愛するポリアモリーは、モノアモリー(1対1の関係)を基本にした社会では「性的指向」ではなく、「ライフスタイルの選択」と捉えられている。

実際に、アメリカの一部の町で、一夫一婦制ではない関係を法的なドメスティック・パートナーシップ(法的な婚姻ではないが、同居する家族として認定される)として認める動きも出ている。

だが、実際に複数の人を同時に愛するのは現実的なのか? 今回、ポリアモリーを約3年間実践している山本さん(仮名:独身・男性・30代)にポリアモリーの現実を聞いてみた。(ライター・竹本夕子)

●様々なカップルの形

まずは、カップルにも様々な“あり方”があることを知っているだろうか。

日本の社会規範である「モノアモリー」(1対1の関係)、モノアモリーが結婚すると「モノガミー」となり、その反義語がひとりが複数と結婚している関係である「ポリガミー」となる。

さらに、複数の人を感情的に堂々に愛して関係を結ぶ「ポリアモリー」、パートナー以外の人とリレーションシップ(関係)をもってもよいという同意に至ったカップルの関係を「オープン・マリッジ/オープン・リレーションシップ」と呼ぶこともある。

実に多種多様な関係性があるのだが、日本では「モノアモリー」(1対1の関係)以外の関係性を結ぶ人たちが社会で公言できるムードとは程遠いのが現状だろう。

●実際のところポリアモリーはうまくいくのか?

結婚をして何年も経った夫婦ならともかく、結婚もしていないのに、パートナーの同意を得て複数の人と関係をもつのは、現実的に難しいのではないだろうか。

ポリアモリーを約3年間実践している山本さん(独身)はこう答える。

「実際、ポリアモリー界隈での悩みはその点です。本当はポリアモリー同士で付き合うのが一番よいのですが、まだ多くの人に理解されていないのが現状。まず、誰かと付き合いたいと思っても、『私はポリアモリーなので……』と話したら、殆どの場合、ドン引きされます。

ウソをつきたくないので、マッチング・アプリではプロフィールにちゃんと『ポリアモリーの人を希望』と書いているんですが、結局、モノアモリー(1対1の関係)の人が来るんですよ。ポリアモリーの意味がよく分かっていないのかもしれません」と説明する山本さん。

さらにこう続ける。

「そもそもパイの小さいポリ(ポリアモリーの意。以下、同)の人と知り合ったとしても、その人と自分が恋に落ちるかどうかはまったく別の話ですよね。つまり、なかなかポリ同士で恋愛ができないんです……。だから、結局、非ポリの人と出会ってデートをしばらくして、やっと自分がポリだということをカミングアウトする。

そうして、ポリアモリーを受け入れてもらうか、別れが来るか、どちらかなんです。もちろん、最初は受け入れてくれたとしても、やはり嫌だという人も多いと聞いています。自分の気持ちには素直になりたいけど、それによって相手に嫌な思いをして欲しいわけではないから、こればかりはなかなか難しいです...」

結局のところ、ポリアモリーを受け入れてくれる人は希少だそうだ。現在、山本さんには付き合っている人が2人いるが、ひとりはポリを受け入れているが、もう一人には内緒にしているという。

●「愛は永遠に続かないという現実を受け入れて」

独身者の恋愛ではその先に結婚がちらついて、ポリアモリーに対する共感は得られないことは多そうだ。相手が既婚者ならどうだろうか。離婚したくても何らかの理由でできない既婚者なら、ポリアモリーの相手にはうってつけなのではないかーー。

そう山本さんに聞いてみたらこんな答えが返って来た。

「もちろん、既婚者のポリもいますが、私は既婚者とは付き合わないようにしています。なぜなら、書面で同意をとっていたとしても、既婚者の法的パートナーに慰謝料請求をされるケースがあると聞いているからです。

結婚を愛よりも、所有や義務と捉えているみたい。一度結婚したら、永遠の愛が保証されるわけはないのに。日本社会はやたらとモノアモリ―にこだわるくせに、セックスレスが多い。何か非常に歪んでいる気がします。

それよりも、『愛は永遠に続かない』という現実を受け入れて、相手を所有せずに尊重する成熟性が、私たちの社会には必要ではないでしょうか」

●元恋人たちに裏切られた経験が……

山本さんがポリアモリーに目覚めるきっかけは何かあったのだろうか。

30代の山本さんは恋愛経験も豊富で、これまで結婚寸前まで進んだ恋人も2人いた。女性のために家事をし、デートを計画するなど、尽くすのが大好きな山本さんは恋人の喜ぶ顔を見るのが好きで、恋人ができると彼女を目いっぱい甘やかすという。

「2人とはそれぞれ結婚を前提に同棲したこともあったんです。ところが2人とも、同棲前までは朗らかで明るくて優しい恋人だったのに、同棲後は意見の衝突があったときに簡単にキレるなど、別人になる。もう女性が信じられなくなりました」

こういった経験から女性不信になった山本さん。そんなときに付き合った女性がポリアモリーの女性だった。

「彼女にポリアモリーという愛の形を聞いて、僕に合うかもしれないと思いました。ポリアモリーの勉強会にも行き、理解を進めていきました。もう、ひとりの女性にすべてを賭けて愛するのは怖い。傷つくのが怖いんです」

冒頭でも記したように、現在、山本さんは2人の女性を愛している。ひとりは1年半、もうひとりとは半年つきあっている。だが、半年つきあっている女性はモノアモリーなので、山本さんは、別の女性と付き合っていることを隠している。

●ポリアモリーのジレンマとは?

山本さんの経験によると、ポリアモリーを理解し同意してくれる人は少なく、ここ3年間、ポリアモリーに同意してくれた女性は3人しかいなかったという。いま付き合っている女性のほかに、2人のポリの女性が過去にパートナーとしていたわけだが、どうして別れたのだろうか?

「その2人とは、他のパートナーのこともオープンに話し、健全なポリアモリーを実践していました。でも結局、ポリアモリーだとそれぞれに複数愛する人がいるので、会いたいときに、その人と会えるとは限らないんですよ。よくある問題として『今週末はどちらにいくのか』というのがありますね。

会いたいときに会えないから、長続きせず、自然消滅しました。それに複数のパートナーとそれぞれ会うのは精神的・肉体的に疲れるときもあります」

山本さんの話を聞くと、ポリアモリーのジレンマは大きく分けて3つあるようだ。

(1)ポリアモリーの人間が少ないから、モノアモリ―の人と付き合い、ウソをつくはめになる。あるいは、理解してもらうのに非常な努力が要る
(2)ポリアモリー同士では、それぞれに相手がいるから長続きさせるのが難しい
(3)複数のパートナーがいることによる肉体的・精神的ストレス

「よく誤解されるんですが、ポリアモリー=なんでもありの自由恋愛ではなくて、ポリアモリーの定義とは、複数の人それぞれ誠実に向き合って関係を持つ、ということなんです。極端な話、それぞれが合意していればどんな関係性でもよい。各パートナーとフルカスタムで契約書を作るようなものなので、とても誠実さと根気(そして時間やお金)がいるパートナーシップです。続けるだけでもそれなりにしんどい場面もあります」

「あと、自分のパートナーが自分以外の誰かと関係を持つことに嫉妬しないのか?とよく言われますが、それは正直ないんです。むしろパートナーがほかの恋人の話を幸せそうにするのを聞くとこちらもうれしくなるんです。それでも自分が後回しにされてるように感じる時は嫉妬することもありますよ。要はお互いが十分に愛を感じられている状態であることが大事なのだと思います」

●ポリアモリーのメリットとは?

反対に、ポリアモリーにしてよかったこととは何だろう?

「まずひとつは、自分の中にいる多様な自分を認めてあげられることですね。すべてを満たしてくれる相手はいないからと言って、自分の大切な欲求に蓋をしてしまうのは健全ではないですし、なにより自分自身に誠実でいられるからこそパートナーに対しても誠実になれると思うんです。

それと、マンネリの防止。モノアモリーと同様に愛情にも波があるんです。例えば、A子さんとマンネリ化してきて、B子さんと過ごすようになると、A子さんの良さを再確認する。そして、A子さんと過ごし始めるとB子さんの良さも思い出して、B子さんへの思慕が深まります」

さらに、「しばらく連絡が来ない」「ほかの人のほうが好きなのかな」というささやかな不安も恋心を刺激し、なれ合いを防ぐという。ある種の緊張感があるからこそ、相手をより尊重できるという山本さん。

「運命の人や完璧な人なんていないと思いつつ、心のどこかに『ひょっとしたら自分は本当の愛を知らないだけなのかも』『本当に心から愛する人が、ひとりで満足できるのかも』とよく考えます。まだポリアモリーを実践して3年ですし、いまはパートナーに隠しているから、中途半端なポリです。本当に愛って難しいですね……」

ポリアモリーに救われる人もいるだろう。だが、モノアモリーだろうが、ポリアモリーだろうが、パートナーシップを長期間継続するのは、この上なく難しいのが現実なのだ。

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