酒に酔っているときは、普段では考えられないような行動に出てしまうことがあります。弁護士ドットコムにも、「ビルで放尿してしまった」という人からの相談が寄せられています。
酩酊するほど酒を飲んでしまった相談者は、帰宅時にビルの6階にある階段から真下に放尿してしまいました。ビルの管理業者から後日連絡があり、吹き抜けの階段だったこともあり、1〜6階までの壁の清掃代として「約90万円」を請求されてしまったようです。
相談者としては、反省して一定の弁償をするつもりでいますが、約90万円の清掃代は「法外な金額ではないか」と考えています。もっとも、「清掃代が支払えない場合は被害届を出す」と言われ、逮捕されてしまわないか不安を感じており、言われた金額を払うしかないのかどうか悩んでいるようです。
酔っていたとはいえ、ビルの階段で放尿してしまった以上、何らかの弁償は必要でしょう。とはいえ、妥当でないと思った金額を支払うよう求められた場合、どう対応すべきでしょうか。また放尿で壁を汚したとして、逮捕される可能性はあるのでしょうか。寺林智栄弁護士に聞きました。
●刑事訴追される可能性あり…清掃費についても「慎重な対応を」
——ビルの階段から放尿した行為は犯罪になるのでしょうか。
今回の事件については、かなり微妙ではないかと思いますが、建造物損壊罪(刑法260条)が成立する可能性はあると思います。
放尿してビルを汚したことが「損壊」に該当するかどうかが問題になりますが、損壊には、物質的に建造物の形態を変更または滅尽させる場合だけでなく、事実上その用法にしたがい使用することができない状態に至らせた場合も含むという判例があります。
この判例によれば、放尿により、1階から6階という広範囲の壁を清掃しなければ使用に耐えない状況になったのであれば、損壊に該当すると判断される可能性があると思われます。
——今回のケースで、逮捕される可能性はあるのでしょうか。
逮捕される可能性は極めて低いと思われます。仮に捜査が行われるとしても、任意捜査という形で身体拘束されずに事情聴取される可能性が極めて高いと思われます。
——清掃費用「約90万円」というのは法外な金額なのでしょうか。
一概には何とも言えないところですが、かなり広範囲な汚損の清掃ですので、人件費等を考慮すると法外な金額ともいえないように思います。
——請求された清掃費用が妥当でないと考えた場合、どのような対応が考えられますか。
まず、先方から見積書を出してもらうという方法があります。それを同業他社の方に見せて、評価してもらうのが良いのではないでしょうか。
仮に不当な金額であることが判明した場合には、自分から「●●円を支払うがどうか」と逆に提案して交渉することが考えられます。
しかし、今回のようなケースは、刑事訴追される可能性がありますので、このようなやり取りをする場合には、弁護士を入れて慎重に行うことが必要だと思います。