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改正ストーカー規制法に課題 「付きまといは恋愛感情だけじゃない」被害経験の内澤旬子さんが懸念
改正ストーカー規制法施行前に会見した荻上チキさん、内澤旬子さん、せやろがいおじさん(左から、2021年8月25日、弁護士ドットコムニュース撮影

改正ストーカー規制法に課題 「付きまといは恋愛感情だけじゃない」被害経験の内澤旬子さんが懸念

改正ストーカー規制法が8月26日に施行される。桶川ストーカー事件をきっかけに2000年に成立したストーカー規制法だが、ネットの普及や技術の進歩を背景に改正を重ね、これで3回目の改正となる。

今回の改正では、GPS機器などを用いた位置情報の無断取得に対する規制が盛り込まれた。アプリを悪用して相手のスマートフォンの位置情報を勝手に取得することも規制対象となる。

一方で、ストーカーの被害者からはさらなる対策を求める声も上がっている。

『ストーカーとの700日戦争』(文藝春秋)の著者で、文筆家の内澤旬子さんは8月25日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見し、自身が経験したストーカー被害について語った。今回の改正で実現しなかった「恋愛とそのもつれから」という動機の縛りをなくすことや、加害者の治療を義務化することを訴えた。

●「憎悪によるストーキングは適用外」

2016年、元交際相手から2度にわたるストーカー被害に遭った経験を持つ内澤さん。GPSを使用した監視行為がストーカー規制法の定める付きまとい行為にあたらないという最高裁判決(2020年7月)をきっかけに、ストーカー規制法の改正を求めて活動している。

内澤さんは元交際相手から、SNSを通じて大量のメッセージを送付されたが、当時のストーカー規制法では「電子メール」のみが対象だったため、「適用外」とされた(2017年から、SNSメッセージも規制対象となった)。

また、現行法では付きまとい行為を「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」と規定している(2条)。そのため、内澤さんの元交際相手は「すでに別れており、憎悪によるものから」とされ、これも「適用外」とされた。

●「加害者の治療義務化」の必要性

内澤さんに対する被害は、それぞれ「脅迫」と「名誉毀損」で立件されたものの、ストーカー規制法による、さらなる付きまといに対する禁止命令(5条)はやはり適用されない。

内澤さんも元交際相手に対して、禁止命令を出してほしいと警察署に相談したが、「憎悪によるものだから(ストーカー規制法による)禁止命令は出せない」と言われ、実現しなかったという。

内澤さんはストーキングは現行法の定める「恋愛感情」だけに由来しないことを訴えた。

「恋愛のもつれの感情以外の動機でも、付きまといや嫌がらせを受ける場合はあります。たとえば、金銭トラブルや、習い事の教室で自分にだけちゃんと教えてくれなかったなど。それから、元交際相手に付きまとった場合にも、適用されません。動機が違うだけで同じように付きまとわれているのに助けてもらえない人がいるのは、やっぱりおかしいのではないでしょうか」

また、内澤さんはストーカー行為は繰り返され、被害者への負担が大きいことから、「加害者の治療義務化」も必要だと指摘した。

「昨年の警察が加害者を医療につなげるための予算が全国で1000万円。執行金額は160万円。あまりにも進んでいないことに驚きました。

加害者治療制度を構築するのは時間がかかると思いますが、誰かが殺されてから初めて法改正が進むよりは、という思いで声をあげました。より被害実態にそった形で法改正していくことを願っています」(内澤さん)

●被害訴えられない人も

この日の会見には、社会調査支援機構チキラボ代表の荻上チキさんも出席した。内澤さんの依頼を受け、チキラボでは昨年12月から今年1月にかけて、付きまとい被害の実態調査を実施。その特徴について、荻上さんは次のように指摘した。

・オンラインストーカーはリアルストーカーと同程度の期間続き、実生活ともリンク

・被害者の大半は、複数のタイプの被害を同時に経験している

・少ない付きまとい被害は、動機の推定が困難であり、「恋愛要件」の限度がある

・「被害者のせいだ」「それくらい大したことない」が、相談を遠ざける

・9割の被害者が行動変容・行動制限を余儀なくされている

・女性被害者ほど、「相談先の啓発」「引っ越し代など資金援助」「加害者の治療」を求める

これらの調査結果を受けて、荻上さんも法改正の必要性を訴えた。

「ストーカー規制法は成立してから20年がたちますが、法律に不備があることは、多くの被害者の方が感じているところです。

何か大きな事件があれば、国会や世論が動き、社会的トラウマとなって立法や法改正が進みが、今回調査したように、どれだけの被害があるのか、どのような被害があるのか、その実態をもとにした立法もできるはずです。そうした調査をもとにした法改正への議論を進めたいと思っています」(荻上さん)

また、内澤さんの活動に賛同しているお笑い芸人で、ユーチューバーのせやろがいおじさん(榎森耕助さん)も会見に参加した。「ストーカーが処罰の対象であることは知っていましたが、ちゃんと運用されているのだろうと思っていました。こんな落とし穴があるのかと驚きました」と語った。

せやろがいおじさんはこの日夜、ストーカー規制法の改正についての動画をYouTubeにアップした。

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