コロナ禍の影響なのか、客が店舗の従業員に暴力を振るうケースが散見される。アルコールが絡むこともある飲食店では、警察沙汰になることもある。
たとえば、北海道の飲食店では4月12日、飲み物を持ち込んでいた80歳の女性客が、注意されたことに「逆ギレ」。16歳の女性アルバイト店員の顔を殴り、傷害の疑いで逮捕されている。
北海道では1月にも、焼き鳥屋で「タバコを吸うなら換気扇を回してください」と声をかけられた60代の男性客が、男性店員に暴力をふるって逮捕された。
暴行シーンが映像に残っている場合も。ツイッターでは3月30日、都内の飲食店内で、客と見られる男性が女性店員の髪をつかむなど乱暴している動画が投稿され、話題になった。
客商売だけに警察を嫌う店舗もあるようだが、自身もホルモン屋を経営する石崎冬貴弁護士は、「暴力は論外。客でもなんでもないので、早く通報すべき」と強調する。
●通り魔と一緒、弱い立場が狙われる
飲食や小売などサービス業の産別労組「UAゼンセン」が2020年におこなった調査によると、直近2年間で最も印象に残った客からの迷惑行為として「暴力」をあげた労働者は1.4%いた。
割合自体は低いが、飲食業界の労働者数を考えると無視できない割合だ。
「顧問先も含め、客が暴れるということは定期的に起きます。飲食店は薄利多売なので、接客する相手も多い。それだけ問題のある人に当たる確率も高くなる」(石崎弁護士)
加えて、飲食店側はどうしても低く見られがちだ。
「通り魔が『誰でも良かった』と言って、非力そうな人を狙うのと一緒。飲食は客商売だからみんなニコニコ優しい。今はコロナ禍で閉塞感もありますし、そこをはき違えて、自分のモヤモヤをぶつけてしまう人が多いのだと思います」
●警察は「暴力なら飛んでくる」
だからこそ、飲食店はカスタマーハラスメント(カスハラ)や事件は避けられないという前提で設計しないといけない。従業員を守ることは経営者の義務だ。
「そもそも暴力はカスハラ以前に犯罪です。手をあげられたらすぐ警察を呼ぶこと。警察はクレーマーの業務妨害だとなかなか動いてくれないけれど、暴力なら飛んでくる」
通報は客がやっても良い。
「下手に止めに入っても、何をやられるか分からない。エスカレートすることもあるし、警察を呼んで、一時的にその場を収めることが大事。最終的に『店が被害届を出しませんでした』でも良いわけです」
●カスハラ対策にも「レシピ」と「メニュー」を
いっぽうで、暴力などまでに至らないクレームへの対応には難しさもあるという。
「極論、クレームは面倒だから無視するか全て弁護士や警察に相談するという対応だってよいわけです。ただ、そんなお店は誰も行きたがりません。その意味では、カスハラ対応も広い意味で顧客対応ですから、サービスの一環と言うことができます。
カスハラは定義があるわけではありません。当然、正当なクレームもあるし、冒頭の事件のような犯罪行為まで様々です。
正当なクレームや犯罪行為の場合、対応はあまり悩みません。でも犯罪ではないしつこいクレーム、こういったものが問題になるわけです。そういう『中間領域』への対応にはお店としての『姿勢』が出ます」
大事なのは、クレーム対応のマニュアルをつくり、きちんと基準を定めておくことだという。
たとえば、こんなケースがあったという。客単価が数万円する高級店で、毎回スタッフに執拗にクレームをつける常連がいた。現場が疲弊して、その人の予約がある日は休みを希望する人も。結局、その後の来店は断わるようにしたという。
高級店ですら断ることがあるのだから、ワンコインのファストフード店なら、基準はより低くなるだろう。
「クレーム対応についてのマニュアルや基準がないということは、味や値段にも基準がないと言っているのと一緒です。
クレーム対応にも『レシピ』や『メニュー』がいるんです。レシピがないのに料理を作れ、と言われても現場のスタッフは困りますよね。クレーム対応も同じです。
そのうえで『ここから先は上司の方で対応します』と逃げ道をつくってあげると、スタッフも安心できるお店になると思います」
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