仮釈放中の性犯罪加害者らにGPS機器を所持させ、位置情報を把握する──。法務省が、そんな「実証実験」を来年度から始める方針を固めたと報じられている。
再犯防止につながるのであれば、GPSによる位置情報の把握は有効な手段にも思える。一方で、対象者の行動を継続的に把握することになるため、プライバシーとの兼ね合いが問題になる。
報道によると、今回の実証実験では、本人の「同意」を得ることが前提とされている。しかし、仮釈放を望む受刑者にとって、GPS機器の所持を断ることが不利に働くのであれば、それを本当に自由な意思による「同意」と呼べるのだろうか。
読売新聞によると、実証実験で使用する機器は、身体に装着するものではなく、持ち運びできるものが想定されているという。
テレビ朝日によると、対象として検討しているのは、仮釈放中の人や、保護観察付きの執行猶予判決を受けた人などだという。
GPS機器を持たせることは、再犯の防止につながることが期待される一方で、プライバシー保護との関係も問題になる。
再犯防止とプライバシー保護をどう両立させるのか。そして、将来的に本格導入するのであれば、どのような仕組みが望ましいのか。刑事事件にくわしい神尾尊礼弁護士に聞いた。
●そもそも「仮釈放」とは
まず、仮釈放の制度について簡単に説明をします。
仮釈放とは、一定期間服役した受刑者のうち、「改悛の状」がある人について、刑期を終える前に釈放する制度です(刑法28条)。再犯のおそれがないことなども判断基準となります(社会内処遇規則参照)。
仮釈放中は、守らなければならない「遵守条件」が定められることがほとんどです。これに違反したり、新たに犯罪をしたりした場合には、仮釈放が取り消されて、再び収監されることになります。
●GPSによる監視、メリットと問題点は?
GPS機器を用いる最大の利点は、監視されているという意識による再犯の抑止効果でしょう。海外では、GPSによる監視によって再犯率が低下したとする研究報告もあります。
一方で、問題点もあります。
まず、居場所や行動を継続的に把握されることによるプライバシー侵害です。また、身体に装着する方式など、周囲からGPS機器を使用していることがわかるような方法であれば、対象者への「レッテル貼り」につながり、社会復帰を妨げるおそれも指摘されています。
●実証実験で注意すべき4つのポイント
海外の研究結果が日本でも当てはまるのか見極めるためにも、本格導入の前に実証実験をおこなうこと自体は重要でしょう。
ただし、今回報じられている実験方法については、いくつか注意すべき点があります。
(1)「同意」が事実上の強制にならないか
今回は、本人の同意を得たうえでGPS機器を持たせるとされています。あくまで実験段階であることを考えれば、同意を条件とすることは穏当だと思います。
ただ、問題はその「同意」が本当に自由な意思によるものなのかという点です。
先ほど説明したように、仮釈放には遵守条件が定められます。たとえば、GPS機器の所持を事実上の条件として「同意しないと仮釈放を認めない」という運用になれば、対象者にとっては断りにくく、半ば強制になってしまいます。
実験を始める前の仮釈放の運用との整合性にも注意が必要です。これまでであればGPS機器を持たなくても仮釈放が認められていたケースについて、実験開始後に「GPSに同意しないから認めない」とするのであれば、従来の基準が事実上変更されることになりそうです。
そうした意味でも、実験では対象者から「真の同意」を得ることが重要です。
結果として同意する人が少なかったとしても、それ自体が制度を検討するうえで重要なデータとなるでしょう。
なお、「実証実験への参加に本人の同意を求めるべきか」という問題と、「将来、制度として導入する場合にも本人の同意を必要とすべきか」という問題は分けて考える必要があります。
(2)なぜ「持ち運び型」なのか
今回の実証実験では、身体に取り付ける「装着型」ではなく、「持ち運び型」のGPS機器が想定されていると報じられています。
ただ、制度の効果を検証するのであれば、装着型を実験対象とする方法もあり得たと思います。
もちろん、まだ実験段階ですから、本人の自由な意思による同意を得ることが前提です。そのうえで、持ち運び型と装着型でどのような違いがあるのかも、今後の制度設計を考える材料になるでしょう。
(3)誰を対象にするのか
どのような犯罪を対象にするのかも重要です。
たとえばストーカー犯罪を対象にするのであれば、加害者側だけでなく、被害者側にも対応する機器を持ってもらう方法が考えられます。
加害者が被害者から一定の距離以内に近づいた場合に警告を出すなど、GPSを単に「居場所を監視するための道具」としてではなく、被害者を具体的に守るために活用することも考えられるからです。
(4)本当にGPSの効果なのか
実証実験では、「GPSを持たせた結果、再犯が減った」と単純に評価できるとは限りません。
どのような人を対象にするのか、GPSを持たない人とどう比較するのかなど、比較の方法によって結果は大きく変わります。
対象者の属性などに違いがあれば、GPSとは別の要因によって再犯率に差が生じる可能性もあります。
過去のデータとの比較も含め、GPSそのものにどの程度の効果があったのかを検証できるような実験設計が重要になるでしょう。
●本格導入するなら「誰が決めるのか」
私自身、弁護士としてストーカー被害を扱ってきました。
特に著名人が被害者となるケースでは、なかなか有効な対策が取れず、もどかしい思いをした経験があります。
そのため、弁護士の中ではGPS機器の導入に比較的寛容なほうだと思っています。
社会内処遇規則でも「社会の感情が(仮釈放を)是認すると認められないとき」は仮釈放を認めないとされています。仮釈放という制度自体、受刑者本人の事情だけでなく、社会的な要請を考慮することが想定されているのだと思います。
ただ、最終的にはバランスの問題だと思います。
一口に性犯罪といっても、その内容や程度はさまざまです。ストーカー犯罪であれば、すべての行動を把握するのではなく、特定の人物や場所への接近を制限すれば、目的を達成できるかもしれません。
どこまで「社会の感情」を考慮するのか。そして、GPSを使用するかどうかを誰が判断するのか。いずれも難しい問題です。
●裁判所が判断する仕組みが望ましい
個人的には、GPS機器の使用を仮釈放の基準や遵守条件の問題として扱うと、運用があいまいになるおそれがあると考えています。
むしろ、本格的に制度化するのであれば、GPS機器の装着を刑罰の一種と明確に位置付けるなどして、裁判所がその必要性を個別に判断する仕組みのほうが望ましいのではないでしょうか。
参考になる制度として、保釈された被告人の国外逃亡を防ぐために位置測定端末を装着させる制度があります。刑訴法98条の12以下では、位置測定端末を装着させるかどうかについて、裁判所が判断する仕組みとなっています。