国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長が米トランプ政権の制裁対象に指定されたことを受け、インターネット上で制裁の撤回を求める署名活動が始まり、9月29日までに17万4602筆が集まった。
署名を呼びかけた弁護士らでつくるグループは10月1日、東京・永田町の衆院第一議員会館で、尾﨑正直官房副長官に署名や要望書を提出した。
グループによると、尾﨑副長官からは、短期間で17万筆を超える署名が集まったことについて「非常に重く受け止めている」との趣旨の発言があったという。
署名は17万筆を超えた
●米国が赤根所長を「制裁対象」に
米国政府は8月18日、赤根所長を制裁対象に指定したと発表した。赤根所長は、米国内の資産凍結や米国への入国禁止、米国人や米国企業との取引制限などの対象となる。
これを受け、「Japan International Rule of Law network(JIRoL・ジロル)」と国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」は、署名サイト「Change.org」で、米国政府に制裁の即時撤回を求める署名キャンペーンを開始した。
JIRoLは、国際社会における「法の支配」を日本から支えることを目的に活動するネットワークで、メンバーには赤根所長が名古屋大法科大学院で教えていた当時の教え子らが参加している。
●「自分たちに何ができるのか」
署名は9月29日正午までに、Change.orgを通じたオンライン署名が17万2113筆、紙の署名が2489筆の計17万4602筆集まった。
署名活動について、JIRoLの今泉麻衣子弁護士は、過去に赤根所長を招いた講演会で、参加者から「ICCを応援したいが、自分たちに何ができるのか」との声が寄せられていたと説明。
今回、赤根所長が制裁対象になったことで、「声を上げることで赤根所長に応援の声を届ける方法がないか」と考え、署名活動を始めたという。
署名には、法曹関係者だけでなく、学生や未成年者を含む幅広い層からコメントが寄せられた。
JIRoL代表の上松健太郎弁護士は、17万筆を超えたことについて「想像がつかないくらいたくさんの方」に賛同してもらったとしたうえで、数字の大きさだけでなく、その背後に一人ひとりの市民がいることを強調した。
●小学生「1ミリでも世界が平和に」
会見では、署名に寄せられたコメントも紹介された。
「私は小学生で、ただの日本人の一人ですが、この署名をすることで、1ミリでも世界が平和に近づくことを心から願っております」
大学生からも「他人事で終わらせてはいけない、重大な出来事だと感じています」といった声が寄せられたという。
こうした声は、赤根所長本人にも届いている。
今泉弁護士によると、赤根所長は寄せられたコメントを「非常に喜んで」いるといい、会見では本人からのメッセージも紹介した。
「署名に寄せられたコメントの一つ一つを読むたびに、ここにも一人、あそこにも一人と、さらに光る星々に導かれる思いです。一人一人は小さいかもしれないけど、決して無力じゃない。署名してくださったみなさん、コメントを送ってくださったみなさん、ありがとうございます」
●日本政府に求めた「3つの行動」
署名では、赤根所長への制裁について「ICCの独立性を深刻に脅かし、ICCの活動そのものを著しく阻害する極めて不当な行動」と批判。ICC職員らへの制裁を認めた大統領令についても「国際司法への不当な介入」だとして撤回を求めている。
さらに日本政府に対して、ICC締約国として赤根所長への支持を明確にし、職務を円滑に遂行できるよう具体的に支援するとともに、米国政府に制裁撤回を働きかけるよう求めた。
JIRoL代表の上松健太郎弁護士は10月1日の会見で、日本政府に行動を求める理由について、米国はICCの設立条約であるローマ規程の締約国ではないとしたうえで、ICCがローマ規程に従って職務を果たしたことを理由に制裁を受けている以上、その独立を守るために米国と協議することは「締約国の役割」だと説明した。
特に日本は米国と信頼関係を築いており、「果たせる役割があると私たちは信じている」と述べた。
日本政府に求める行動としては、大きく3点を挙げた。
米国による制裁に反対する立場を明確にすること、制裁撤回に向けて米国政府と具体的かつ継続的に協議すること、そして赤根所長やICC職員が職務を続けられるよう実行可能な具体的支援策を検討することだ。
●尾﨑副長官「非常に重く受け止めている」
署名提出の様子(提供)
署名を受け取った尾﨑副長官からは、短期間で17万筆を超える署名が集まったことについて「非常に重く受け止めている」との趣旨の発言があったという。
また、日本政府は一貫して「法の支配」を重視し、ICCを支持してきた立場として、先日の日米首脳会談でも、日本側からICCを支持する立場を米国側に明確に伝えたという説明があったという。
日米首脳会談をめぐっては、高市早苗首相も9月25日の記者会見で、自らICCの問題を取り上げ、「日本は一貫してICCを支持してきたし、これからも支持していく」との立場を表明したと明らかにしている。
尾﨑副長官も、署名を提出したメンバーに対し、今後もこの問題について米国側と継続的に協議していくとの考えを説明したという。
JIRoL側は、こうした尾﨑副長官の発言について「非常に力強い言葉をいただいた」と受け止めている。一方、政府が今後どのような対応を取ったのかについて、事後的にも、市民が確認できる形で明らかにするよう求めている。
署名サイトは10月1日現在も開かれており、引き続き活動を続けるという。署名は米国政府にも届ける方針だが、具体的な提出方法については現時点では検討中としている。