水にぬれたTシャツが女性の肌にぴったりと張り付き、ブラジャーや身体のラインが透けて露わになっている――。男性が見たら思わずドキッとするようなグラフィックをプリントしたTシャツが、この夏に発売されて話題になっている。
その名も「妄想スプラッシュTシャツ」。一風変わった商品を企画・制作する「エコードワークス」が発売した。白いTシャツの前側が水でぬれて、ブラジャーが透けているかのように見えるデザインだ。ツイッター上では「リアルすぎやばい」「二度見しそう」「天才か」などと面白がる声が多数あがっている。
一方で、こんなデザインのTシャツを着た女性を街で見かけたら、セクシーすぎて公共の場にふさわしくない、と感じる人もいるかもしれない。全裸で街を歩けば、公然わいせつ罪の可能性があるが、このTシャツを公の場所で着た場合、何らかの罪に問われることはあるのだろうか。中村憲昭弁護士に聞いた。
●「性器」が露出しているかのようなデザインだとアウト
「考えられるとすれば、『わいせつ物陳列罪』ですが、現時点では摘発されることはありません」
中村弁護士はこう切り出した。どうして、そういえるのだろうか。
「『わいせつ物陳列罪』とは、『わいせつ物』を不特定または多数の人が目にする状態に置くことです。
ですから、仮に、このTシャツが『わいせつ物』に該当すれば、街中で着て歩くことは『わいせつ物』を『陳列』する行為に該当します。
しかし、実際に販売されているTシャツのデザインは、ブラジャーが透けて見える程度のものです。
これくらいであれば、一般的な社会通念に照らしても、『いたずらに性欲を興奮または刺激させ』たり、『普通の人の正常な性的羞恥心を害する』ものとまではいえないでしょう。『わいせつ物』に該当せず、正常な『妄想』の範囲内です(笑)」
どういう場合に、「わいせつ物陳列罪」に問われるのだろうか。
「たとえば、性器そのものが露出しているかのようなデザインのズボンを着用すれば、たとえそれが性器そのものでなかったとしても、普通の人の正常な性的羞恥心を害するものとして、『わいせつ物陳列罪』に該当するおそれがあります」
●「わいせつ概念」のあいまいさ
中村弁護士は「問題なのは『わいせつ概念』のあいまいさです」と説明を加える。
「女優の樋口可南子さんのヌード写真集が発売される前は、陰毛が写っている写真は『わいせつ物』とされていました。
マルキ・ド・サドの『悪徳の栄え』という小説を翻訳・出版したことも、最高裁で有罪とされましたが、今では普通に書店で販売されています。
昭和から平成にかけて、『わいせつ物』の判断は合法化の方向で緩められてきました。
しかし、今後どうなるかはわかりません。大正デモクラシーの時代も『エロ・グロ・ナンセンス』に対して寛容でした。やがて、それらが取り締まられるようになり、昭和の時代に戦争に突入しました。
『わいせつ概念』の変化は、市民の自由度を測るバロメーターでもあります。こんなTシャツもギャグとして笑い飛ばせる時代が続くと良いですね」
中村弁護士はこのように述べていた。