北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(キム・ジョンナム)氏が、マレーシアで殺害された事件で、マレーシア警察が2月16日までに、事件に関与した疑いで、ベトナム旅券を持つ女性と、インドネシア旅券を持つ女性を逮捕したと報じられた。
報道によると、マレーシアのクアラルンプール国際空港で2月13日、金正男氏が体調不良を訴え、病院へ搬送される途中で死亡した。韓国の情報機関は、北朝鮮の工作員が毒物で殺害したという見方を示しているという。
具体的な殺害方法については、情報が錯綜しているが「背後から毒物を含んだ布をかぶせられた」「毒物を吹きかけられた」「毒の塗った針で刺された」などが報じられている。一方、ベトナムの旅券を持つ女性(防犯カメラの映像に出てくる「LOL」と書かれたTシャツを着ている女性)は、男から「悪ふざけをしようともちかけられた」、「殺害する意図はなかった」などと主張しているという。
仮に女性が、ほんとうに悪ふざけだと信じて、背後から布をかぶせる(スプレーや液体をふりかける)といった行為をした場合、意図せず殺害行為に加担してしまったことになる。
今後の捜査によって、多くのことが明らかになるのだろうが、そういった「弁解」は、日本国内の刑事事件でもありうるかもしれない。一般的に、日本において、自分が殺害行為に加担しているとはまったく気づかずに、殺害行為を実行してしまったような場合、罪に問われる可能性があるのか。また、犯罪行為を実行していなくても、ウソをついて実行させた人物は罪に問われるのか。西口竜司弁護士に聞いた。
●「故意」がないとされる場合は、殺人罪は成立しない
「緊急速報をみたとき『本当』と思ってしまいました。驚き以外の何ものでもありませんでした。まず、『悪ふざけ』という言葉で許されるわけがないのは当然のことです」
西口弁護士はこのように述べる。一般的に、日本の刑法のもとではどのように考えることができるのか。
「一般的に、日本において自分が殺害行為に加担しているとはまったく気づかずに、殺害行為を実行してしまったような場合でも殺人罪の問題になってきます。
ただし、殺人罪が成立するための故意が認められる必要があります。
自分の行為が全く犯罪にあたらないと思っていたような事案では、犯罪事実を認識・認容しているとはいえず、故意の成立を認めるのは難しいでしょう。
したがって、殺人罪まで成立せず、不注意な点を捉えて過失致死罪どまりになります」
他人を利用して犯罪を実行することは、どう考えればいいのか。
「殺害の実行行為を行っていないが、人に『悪ふざけ』だとウソをついて毒物を渡した場合、人を道具として利用する犯罪である殺人罪の間接正犯とされる可能性があります。
要は人が道具といえるような状況にあったかがポイントになります。今回の場合でも、自分のしていることを全く悪くないと思っているのであれば、利用された女性は道具といえそうですので、殺人罪の間接正犯になりそうですね。
正男氏のご冥福を祈るばかりです」