出会い系サイトで知り合った女子高生(当時16歳)に、お金を渡して、みだらな行為をしたとして、児童買春・児童ポルノ禁止法違反に問われた男性医師の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部(大久保正道裁判長)は2018年11月14日、罰金50万円とした1審判決を破棄して、無罪判決を言い渡した(その後、検察官上告により、公訴棄却)。控訴審から担当した奥村徹弁護士に、逆転判決になったポイントを聞いた。
●女子高生は「21歳」と自称していた
判決などによると、この男性医師は2017年9月、沖縄県那覇市のラブホテルで、出会い系サイトで知り合った女子高生(当時16歳)が18歳未満であることを知りながら、お金を渡すと約束して、みだらな行為をした疑いが持たれた。
1審の沖縄簡裁で争点となったのは、男性医師が「18歳未満である」と認識していたかどうかだ。
出会い系サイトを登録する際、運転免許証などによる年齢確認がある。この女子高生は、成人している友人から免許証を借りて、その画像を加工して、サイトに登録。プロフィールも「20代前半」としていた。さらに、男性医師がホテルの部屋で、年齢をたずねたところ、女子高生は「21歳」と答えていた。
男性医師は、県警の取り調べに対して、当初「18歳未満と知らなかった」と供述して、容疑を否認していたが、その後の取り調べで、自白に転じた。男性医師は公判に入ってから、「否認していたために勾留され、経営する医院での診療ができなくなって多くの患者に迷惑をかけたことから、早期に釈放されるために虚偽の自白をした」と主張した。
1審の沖縄簡裁は今年4月、男性の取り調べ段階の自白は「十分に信用できる」としたうえで、女子高生の顔つきや体型、会話内容などから、「18歳未満である」可能性を十分に認識しながらあえて買春したという「未必の故意」で有罪とした。しかし、福岡高裁那覇支部は「自白の信用性を肯定するだけの積極的な根拠となる事情は見当たらない」として、「未必の故意も認められない」として、逆転無罪判決を言い渡した。
●「いったん自白してしまうと、後から挽回することは困難だ」
――逆転無罪となったポイントは何か?
控訴審で採用された証拠は、(1)被害児童(女子高生)の身長体重の変化、(2)法医学の文献(顔貌では年齢は推定できない)、(3)年齢別性別の体格の政府統計、(4)捜査段階での弁護人との接見状況――です。それだけでひっくり返りました。
控訴審では、弁護側の証拠開示請求によって、被害前後の被害児童の体格データ(身長体重1年分のグラフ)が明らかになりました。日本人女性の18歳の平均より少し下くらいだったこと、体格もできあがっていて増減がないこと、このまま18歳になると予想されることから、要するに、言動や体格から見て、必ずしも18歳未満とは疑えないことが明らかになったのです。犯行当時に被告人だけが児童と知っていたわけがない事案でした。
――どうして自白してしまったのか?
今回のケースのような場合、否認か黙秘を続けていれば、10日で釈放されて、後日起訴猶予になったと思われます。そういうことを知らず、弁護士にも相談しないで、本人が「自白しないと、裁判になる」「自白すれば、罰金になって、10日で釈放される」と素人考えで思い込んだのです。
また、児童の年齢知情の認定方法についてくわしい弁護士も少なく、捜査段階で適切なアドバイスもできず、公判でも有効な反論・反証ができなかったと思われます。その結果、確たる証拠もないのに、有罪となってしまったのです。
――どうすれば良かったのか?
児童ポルノ・児童買春事件で、相手が児童と知らなかった場合や、強制性交(177条後段)・強制わいせつ罪(176条後段)で相手が13歳未満と知らなかった場合、黙秘したり、要領良く「年齢を知らなかった」と主張したりすれば、起訴されないことが多いです。
弁護人は、逮捕当初に接見して、そういう方針を見極めて、黙秘や否認の要領をアドバイスして、頻繁に接見して精神的に支えることが必要です。いったん自白してしまうと、後から挽回することは困難ですから、最初だけでも、この種の刑事事件にくわしい弁護士に接見して相談してほしいところです。