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パチンコで借金地獄、会社の金に手を付けた息子 ギャンブル依存症の家族が抱える苦悩
取材に応じたアヤコさん(仮名/3月18日/東京都内/弁護士ドットコム撮影)

パチンコで借金地獄、会社の金に手を付けた息子 ギャンブル依存症の家族が抱える苦悩

パチンコや競馬などにのめり込み、自分の意思でやめられなくなってしまう「ギャンブル依存症」。給料を使い果たし、消費者金融で借金を作ったり、家族や会社の金に手を出してしまうこともある。

千葉県在住のアヤコさん(仮名・60代女性)はかつて、ギャンブル依存症の長男のために借金を肩代わりしたり、弁護士に債務整理を依頼するなど奔走した。

しかし、「お金の問題が解決しても、ギャンブル依存症の問題がなくなるわけではない」と話す。自助グループにつながるまで、長男はギャンブルをやめられなかったという。

ギャンブル依存症者の家族の困難を取材した。

●家から消える生活費や商品券、ついには会社の金も…

アヤコさんには、夫と3人の息子がいる。「異変」に気づいたのは、約20年前。封筒に入れて保管していた生活費や、お歳暮でもらった商品券がなくなるようになったのだ。

封筒の現金すべてが抜かれているわけではなかった。ただ、いつの間にか、10万円、20万円…となくなっていく。夫や子どもたちに聞いても「知らない」の一点張り。「知らない間に自分で使ってしまったのではないか」と疑った。

しかし、現金や商品券がなくなる事態は続き、夫に「泥棒ではないか」と言われたアヤコさんは、警察に相談した。

「警察には『泥棒ならば、金目になるものも盗むはず。現金だけ抜くのは、泥棒ではない』と言われました。正直、家の中に泥棒がいるとも思えないので、誰が盗っているんだろうと疑問に思い続けていました」

そんな状況が続く中、消費者金融から長男宛に督促状が届くようになった。当時、長男は20代前半。大学を卒業し、自動車販売の仕事をしていた。

「長男は、毎日同じ時間に帰宅していました。パチンコ屋の閉店時間を過ぎたころに帰ってきていたんです。当時はまだホール内で喫煙できる時代だったので、服がタバコ臭かったです。大学生のころからパチンコ屋に出入りしているのは知っていましたが、借金をしたことはありませんでした」

画像タイトル 長男は仕事を終えた後にパチンコ屋に行き、閉店とともに帰路についていた(むらーぴー / PIXTA)

これに先立って長男は「財布をなくした」「会社のお金をトイレに忘れた」などと話していたことがある。真に受けたアヤコさんは警察に相談することをすすめたが、後に長男が会社の金に手をつけていたことがわかった。

「消費者金融から280万円を借りていました。封筒から現金を抜いていたのも長男でした。我が家に余裕がなかったため、私の母に300万円を借りて、借金は全額返済しました。近所のコンビニをまわり、返済したことを記憶しています。会社のお金は、私たち夫婦が支払って解決しました」

●「自分を大事にできない」病気

すべての支払いを終えたアヤコさんは「これで終わった」と安堵した。ところが、約2年後、その気持ちは打ち砕かれた。返済によって金を借りられるようになった長男は、再び消費者金融で借金を作っていたのだ。

「夫は、常に『(長男は)働いているから大丈夫』と話していましたが、資金源があるためにギャンブルに使ってしまうんだと思いました。長男は一度も家にお金を入れたことはなく、給料すべてをパチンコに使っていたんです。本人は『2000万円使った』と話していますが、食事も家でしていたので、実際はもっと多いと思います」

すぐに弁護士に相談し、債務整理をおこなった。問題は解決したかのようにみえたが、アヤコさんは不安だった。

「その後は、私が長男の給料を管理し、毎日小遣いを渡していました。ただ、私も仕事をしていたので、徐々に負担を感じるようになったんです。最終的に、本人に『自分でやって』と伝えました」

ところが、長男の金遣いは変わらず、パチンコ通いも止まらなかった。依存症を疑うようになったアヤコさんは、長男を連れて病院を受診。「ギャンブル依存症」と診断された。

「大学まで出て、社会でも働ける。でも、物事の優先順位がわからなくなり、お金の管理ができず、自分で生活できない。情けないやら悲しいやらで、最初はこの病気のことをまったく理解できませんでした。

でも、あるとき、夫がポツリと『自分を大事にできないんだな』と言ったんですよ。当時は都心に住んでいましたし、パチンコ以外にも魅力がある豊かな街なんですよね。それでも、長男はパチンコ以外のことにまったくお金を使うことがありませんでした」

長男は、ファッションやほかの娯楽にいっさいお金をかけることはなく、「パチンコのみ」に給料を注ぎ込んでいたという(momo / PIXTA) 長男は、ファッションやほかの娯楽にいっさいお金をかけることはなく、「パチンコのみ」に給料を注ぎ込んでいたという(momo / PIXTA)

長男は現在40代。紆余曲折あったものの、自助グループや回復支援団体などにつながり、以前働いていたのとは別の会社で働きながら、回復の道を歩み続けているという。

●弁護士の声かけが「回復」につながるケースも

アヤコさんも家族会につながり、同じように借金の肩代わりした経験を持つ「仲間」に出会った。「子どものためなら」という思いで、1000万円をこえる借金を返済した家族もいたという。

ギャンブルの問題に悩んでいるのは「自分だけではない」こと、「他人は変えられなくとも、自分を変えることはできる」ことに気づいた。

現在は、ギャンブル依存症の啓発活動に取り組む田中紀子さんが立ち上げた支援団体「ギャンブル依存症問題を考える会」を手伝ったり、ほかの家族の相談に応じたりしている。

これまでは「子どもがこんな風になってしまって、恥ずかしい」と思っていたアヤコさんだが、自分の経験が人の役に立つことで、自信を取り戻し始めたという。

「ギャンブル依存症問題を考える会」事務所(3月18日、東京都内、弁護士ドットコム撮影) 「ギャンブル依存症問題を考える会」事務所(3月18日、東京都内、弁護士ドットコム撮影)

家族会には、家庭内暴力で悩んだり、子どもが親の依存症問題に影響を受けたりするなど、さまざまな悩みを抱えた人たちが集まっている。

「ギャンブルの問題で、自分の家族を信じられなくなっている人もいます。追い討ちをかけるように、医師や弁護士、検察官など『先生』と思っている人から、心ない言葉を投げかけられ、人間不審に陥ってしまう家族もいます。依存症の理解が進むことを願っています」

一方で、弁護士の一言に救われることもある。ギャンブル依存症の場合、債務整理や破産など、金銭トラブルがつきまとうため、弁護士に相談する人も少なくない。

「弁護士に自助グループなどをすすめられたことをきっかけに、つながる当事者もいます。

私たち『家族』ではなく、『先生』に『ギャンブル依存症ではないですか?』と声かけしてもらったほうが、説得力があるんです。家族に向けた講演や、積極的な声かけをしてくれる弁護士もいて、救われている人もいます。

お金の問題が解決すると、どうしてもホッとしてしまい、根本的な問題に向き合わなくなってしまうんです。でも、最も大切なことは、まず依存症の問題を解決することだと思います」

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