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大阪市、運動会の「ピラミッド」全面禁止 「自治体の判断として妥当」と弁護士
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大阪市、運動会の「ピラミッド」全面禁止 「自治体の判断として妥当」と弁護士

骨折などの事故が相次いでいる運動会の「組体操」をめぐって、大阪市教育委員会は2月9日、市立小中高校で実施する「ピラミッド」や「タワー」を新年度から禁止する方針を決めた。

報道によると、市教委は2015年9月、子どもたちが四つん這いになって重なる「ピラミッド」の高さは5段に、肩の上などに立って塔をつくる「タワー」は3段に制限する方針を決めた。しかし、制限後も骨折事故が起きていた。

このため、市教委は9日の会議で、特に危険性が高いとして「ピラミッド」と「タワー」を市立学校で行うことを禁止すると決め、組体操のほかの技も認めるべきか検討することになった。文部科学省によると、自治体が「ピラミッド」「タワー」を全面禁止するのは全国でも初めてだという。

組体操をめぐっては、相次ぐ事故に保護者や教師から疑問視する声が出ている一方で、「団結力」を育むなどの教育的効果を指摘する声もあるなど、実施の是非を問う議論が続いている。今回、大阪市が全面禁止に踏み切ったことについて、どう評価すればいいのか。多田猛弁護士に聞いた。

●全面禁止の措置をとったことは妥当

私が2014年11月に弁護士ドットコムニュースの取材に応じた記事(「人間ピラミッド崩壊で「1億円賠償」判決もーー弁護士が指摘する「組体操」のリスク」https://www.bengo4.com/other/1146/1307/n_2232/)では、人間ピラミッドについて、どちらかと言えば否定的なコメントをさせていただきました。また、指導教諭らの責任が認められ、学校の設置者に対して、1億円を超える賠償が命じられた事例も紹介しました。

このように組体操に関する事故が相次いでおり、社会的にも批判が大きくなっている現状からすれば、今後、組体操で人間ピラミッドやタワーなどを行う場合、学校側の注意義務は、より増すことになるでしょう。「それほど危険なものだとは認識していなかった」という弁解は学校として通らなくなります。

したがって、子どもの安全を守る観点、同時に学校に過度な責任や負担をかけない観点からも、自治体として、全面禁止の措置をとったことは、妥当だと言えます。

●団結を高める教育手法は他にあるはず

一方で、「低い段数でも一律に規制するのはやり過ぎだ」との指摘もあり、その言い分も十分に理解はできます。もっとも、低い段数でも事故によって児童・生徒が重傷を負った報告事例もあります。文部科学省は、事故防止に向けたガイドラインを示す方針を明らかにしていますが、大阪市の対応を機に、組体操の必要性について、改めて議論すべきときではないでしょうか。

組体操を実施する趣旨が「団結」や「達成感」にあるというのであれば、何もこのようなリスクの高い方法をとらなくても、団結を高めるプログラムや教育手法は他にあるはずです。また、「保護者が感動するから」という理由も論拠が希薄です。親のための教育なのではなく、子どものための教育であらねばなりません。

「組体操をやりたい」と思う児童・生徒が多いのに禁止するのであれば、心苦しい部分もあります。しかし、それでも子どもたちの安心・安全を守るのが、大人の役目だと思います。

もちろん、この流れが「何でも危険なものはやめろ」という風潮に傾き過ぎるのもいけません。サッカー、野球、バスケットボール、マラソン、マットでの体操、などなど、危険がゼロのスポーツなどありえません。むしろ、そういう危険の可能性があるものを、いかに安全に楽しむかを学ばせるのも教育です。

ただ、今回の組体操の問題については、事故の報告件数、その重症度、理科系の学者からの理論面での危険性の指摘など、多くの要素を考えると危険性が高いわけで、そこから得られる利益と比較して検討した場合、危険度の高い競技を続ける必要性は高くないというのが、私の意見です。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

多田 猛
多田 猛(ただ たけし)弁護士 弁護士法人Next
弁護士法人Next 代表弁護士。第二東京弁護士会・子どもの権利に関する委員会 委員。ロースクールと法曹の未来を創る会 事務局次長。ベンチャー企業・中小企業を中心とした企業法務、子ども・家庭の法律問題をはじめ、幅広い分野で活躍。

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