東ヨーロッパに位置する「ベラルーシ共和国」で5月上旬に可決された法案に、日本でも注目が集まっている。1年のうち半年間「無職」で納税しなかった国民や永住者に対して、罰金を科すという。日本のネット住民の間では「ニート罰金法」との呼び名がつけられた。
罰金の額は日本円にして約3万円。支払わない場合は拘束され、地域のボランティアをするよう命じられる。国民に健康な就労を促し、国家財政への貢献を義務付ける狙いだという。未成年者や身体に障害がある国民、55歳以上の女性と60歳以上の男性は対象外だ。
この法律は、国際人権連盟などからは「人権上問題がある」「奴隷制度と等しい」と大批判を浴びている。一方で、日本のネット掲示板を見ると「いいことだ」「是非日本でもやるべき」と肯定的な意見を述べている人が少なくない。
しかし、無職で所得のない人に「罰金」を科し、支払わなければ強制的に労働させるような法律を、日本で制定できるのか?憲法問題にくわしい村上英樹弁護士に聞いた。
●「ニート罰金法は憲法違反の疑いが強い」
「ニート罰金法を日本で創設することは、憲法違反の疑いが強く、困難だと思います」
村上弁護士はこのように切り出した。
「たしかに、憲法の27条は『全て国民は、勤労の権利を有し、義務を負う』と定めています。勤労は国民の三大義務の一つであり、憲法の根底において、勤労の尊さの価値が認められているのは間違いありません。
しかし、だからといって、法律で国民に勤労を強制できるかといえば、別問題でしょう」
なぜだろうか?
「働くことが尊いとわかっていても、すぐには働くことができない人はたくさんいます。
健康上の理由だけでなく、人それぞれのいろいろな事情や経済・社会環境などの要因が、その背景にはあります。
また、就職して就労関係が成り立つのは、個人の努力によるところもありますが、それだけでは何ともならない『縁』のような部分もあります。刑罰を背景にして、働くことを強制するのは無理があるでしょう」
●日本で制定されたら「憲法13条」に違反する?
もし仮に、日本で「ニート罰金法」のような法律が定められたとしても、「『生命、自由及び幸福に対する国民の権利』を保障する憲法13条に違反する疑いが強い」と村上弁護士は指摘する。
「もちろん、憲法は、働かないことを推奨しているわけではなく、国民が健全な勤労生活を送ることを求めています。
ですが、それを実現する方法として、ニート罰金法のような無理なやり方ではなく、多くの人が個人の能力を高めて、それを活かせる『働きやすい社会環境』を整備するような方策が求められているのだと思います」
この法案を提案した、ベラルーシのルカシェンコ大統領は、1994年から20年以上も実権を握り続けていることから「欧州最後の独裁者」とも称される人物だ。そんな国だからこそ成立した法案と思いたいが・・・。