ハードディスクなど記憶媒体のデータ復旧を依頼したものの復旧できず、契約への誘導や説明のあり方に問題があったなどとして、消費者5人がサービスを提供する東京都内の会社を相手取り損害賠償を求めた訴訟は、東京地裁で和解が成立した。和解は6月3日付。
原告側が6月4日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開き、請求がほぼ全面的に認められた「勝訴的和解」と説明。「データ復旧会社を相手取った訴訟で、消費者側が勝訴的和解に至ったのはおそらく初めて」とした。
原告の1人である山形大学教授の松田友美さんは「大切なデータを失って、わらにもすがる思いで依頼をした。泣き寝入りをする人が減るようにという思いで裁判を頑張ってきた」 と語った。
一方、被告の業者側は弁護士ドットコムニュースの取材に対して「和解は原告の主張を認めたものではない」と説明している。
●守秘義務の対象外となった原告が会見
和解では、原告4人に口外禁止条項が設けられたが、和解金額を除き守秘義務の対象とならなかった松田さんと代理人の山中眞人弁護士が会見で経緯を説明した。
訴状などによると、原告らはコンピューターのHDDやSSDのデータ復旧を依頼して業者と契約したが、結局データは復旧されなかったという。
原告らが問題視したのは、結果そのものもそうだが、契約締結に至るまでの説明や勧誘のあり方だった。
山中弁護士は「勧誘の仕方や事後報告の仕方に問題があった」と指摘する。
●「復旧率95.2%」表示への疑問
原告によると、依頼当時、サービスのウェブサイトには「復旧率最高値95.2%」などと記載され、小さな文字で「復旧率=データ復旧件数/データ復旧ご依頼件数」などと説明が添えられていたという。
ただ、その「復旧」が、データの完全復旧か、一部でも復旧できたことを示すのかといった事情は明確ではなかったとしている。
●「復旧できなくても解約できない」とされたクラウドサービス
松田さんは2023年6月、机から落としてデータを読み込めなくなったハードディスクを業者に発送し、無料の初期診断を受けた。
その後、同月22日に担当者から「データ復旧の可能性がある」と連絡があり、当日中に費用などの説明を受けて契約したという。
データの大半は仕事に関するもので、学生の授業で使用する資料など、早急に必要なものだった。
訴状によると、松田さんは当初、90万円超の費用を提示され、支払いが難しいと伝えたところ、(1)77万〜82万円の通常プランと、(2)クラウドバックアップサービス付帯プランの2つを提案されたという。
後者は復旧費用が十数万円に下がる一方、容量2000GB・月額4万9800円のクラウドサービス(最低1年間は解約不可)への加入が条件とされ、松田さんはこのプランを契約したという。
しかし、契約から約2週間後の7月7日、「復旧できなかった」との報告を受けた。
原告側によると、このクラウドサービスは復旧されたデータを格納するためのものだったというが、データが復旧できなくても解約できず、利用料の支払いが続いたという。
●初期診断時点でわかっていた「極めて難易度が高い」状態
原告側によると、作業報告書に添付されていたHDDの症例写真は「サンプル」であり、「あなたのケースはサンプル2に該当」といった記載があるのみで、松田さんのHDDの写真はなかったとしている。
また、作業報告書には、初期診断でハードディスクの磁気ディスクに傷(スクラッチ)が確認されていたことが記載されていた。原告が示した報告書には、
「スクラッチが発生しているハードディスクからのデータの抽出は極めて難易度が高いものの、オリジナルを一時的に修復し、正常なハードディスクにデータを移行することで、ご希望データを復旧できる可能性があると判断いたしました」
と記されていた。
しかし、原告側は、契約時に「極めて難易度が高い」との診断結果について説明がなかったと主張している。
契約の判断に影響を与えうる重要な情報が、契約後の作業報告書で明らかになったことに、松田さんは不信感を抱いたという。
●弁護士が指摘する「問題点」
原告らは2024年6月、東京地裁へ提訴した。
原告らは訴訟で「95.2%以上の確率で復旧ができ、まったくデータが取り出せないことはない」と誤認したと主張した。
山中弁護士は、今回の問題点として次の4点を挙げた。
(1)「95.2%」という復旧率が何を基準にした数字か不明確なこと
(2)ハードディスクに傷がある「物理障害」では復旧が極めて困難なのに、その事前診断結果を事後にしか伝えなかったこと
(3)見積書の有効期限が当日で契約を急がせるような形だったこと
(4)復旧できなくても解約できないクラウドサービスが抱き合わせで販売されていたこと
和解金額は守秘義務の対象とされたが、原告側によると、慰謝料含めて請求金額は全額認められたという。
●「泣き寝入りを減らしたい」統一ルールのない業界へ一石
原告側は、今回のケースに限らず、「業界に統一された価格基準やルールがない」(山中弁護士)点も問題視している。
トラブルが起きても泣き寝入りする利用者が少なくないといい、松田さんは「泣き寝入りする人が1人でも減るようにしたかった」と語った。
山中弁護士によると、訴訟提起後、同社のウェブサイトは「復旧率」の表示方法が変更されて、「完全復旧」と「一部復旧」を分けて示す形になったという。
なお、「復旧率95.2%」という数字をめぐっては、埼玉県の適格消費者団体が表示の使用停止などを企業に求め、今年2月に表示が変更された。
●サービス提供会社「原告の主張を認めたものではない」
一方、被告の企業は6月5日、弁護士ドットコムニュースの取材に対して回答した。
同社は「和解にあたっては原告の主張を認めたものではございません」と説明。そのうえで「詳細につきましては、本件には守秘義務に関わる事項が含まれるため、ご説明申し上げたい点もございますが、コメントを差し控えさせていただきます」とした。
さらに「弊社といたしましては、今後もお客様一人ひとりに対して誠実な対応を心がけてまいります」としている。
編集部は同社に対して、和解に対する見解のほか、次の点も質問した。
・ウェブサイト等で表示されているデータ復旧率(「95.2%」等)の算定根拠・対象期間、および「データ復旧」を成功と判断する基準について、ご説明ください。
・見積書の有効期限を当日限りとされている場合、その理由をお聞かせください。
・クラウドバックアップサービスを付帯したプランの趣旨、解約条件の考え方についてご説明ください。
・近時、サイト上の表示を「完全復旧」「一部復旧」に分ける形へ変更されたとみられますが、その経緯・理由をお聞かせください。
(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)