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タクシー運転手「道わからない」、遠回りになって乗客ブチギレ…返金させることは可能?
写真はイメージ(Satoshi KOHNO / PIXTA)

タクシー運転手「道わからない」、遠回りになって乗客ブチギレ…返金させることは可能?

タクシーに「道が分からない」と遠回りされ、いつもは3500円なのに5000円も請求されたという男性(東京都内在住)が憤慨している。

「運転手に聞いたら、営業所はこの近くって言うんですよ。なんで、全然道を知らないんですかね。遠回りだと指摘したら、ふてくされるし。タクシー会社にクレームの電話を入れましたよ」

男性は「差額を払ってほしい」とは訴えなかったが、運転手の対応に納得していない様子だ。タクシーの遠回りは法的にどう考えられるのか。半田望弁護士に聞いた。

●ポイントは「注意を怠らなかった」といえるか

ーー遠回りで料金が水増しされた場合、タクシー会社に損害賠償を請求できるのでしょうか。

「タクシーの利用にあたっては、多くの場合、国土交通省の『一般乗用旅客自動車運送事業標準運送約款』が適用されると考えます。同約款では、タクシー会社は、会社または係員(乗務員)が運送について『注意を怠らなかった』ことを証明できた場合を除き、『運送に関し旅客が受けた損害を賠償する責任がある』と定めています(同約款8条)。

わざと遠回りをして料金を水増しした場合、乗務員の故意により利用客に損害を与えたことになりますので、タクシー会社が水増し分を賠償する義務があることは、疑いようがないでしょう」

ーー結果的に遠回りになった場合はどうなりますか。

「タクシーの運行にあたっては、利用客に利益となるよう合理的な経路を用いることが前提とされており、これが契約の内容になっていると考えられます。

『注意を怠らなかった』かどうかもこの前提で解釈すべきです。乗務員の不注意で合理的な経路を外れた場合は注意を怠ったことになりますから、やはり超過分の料金相当額の損害は発生しているものと考えます。

他方、乗務員が必要な注意をしても料金が普段よりかかった場合であれば、会社側は賠償責任を負いません」

ーー具体的に、どのような場合が考えられますか。

「渋滞に巻き込まれたり、道路規制で最短経路を通行できなかったりした場合が典型です。

また、最短経路だけが合理的なわけではないので、渋滞を回避するために迂回した場合など、その時々の状況において合理的な経路を利用した場合であれば、結果的に最短経路でなくても注意を怠らなかったといえるでしょう」

●道分からずに遠回り、賠償義務が生じる可能性も…

ーー乗務員が地理に不慣れで、道に迷った場合については、どうなりますか。

「当該タクシーの通常の商圏内であれば、よほど特殊な場合を除き、乗務員の勉強不足、あるいは会社の教育不十分ということで責任があると考えます。

他方、遠方などで通常業務をおこなっていない地域での運送であれば、利用客の指示がない、あるいは不適切だったために迷った可能性もあり、直ちに注意を怠ったとはならないものと思われます。

ただし、この場合でも乗務員が道を調べるなど必要な注意をすべきことは言うまでもありません。近年はカーナビが一般化していますので、ナビがあるのに使ってなければ必要な注意を怠ったと言えるでしょう。

多くの場合、乗務員はトラブルを防止するためにも利用客にコース確認をし、指示があった場合にはそれに従うものと考えられます。指示に従って走行した結果、遠回りとなった場合にも注意を怠らなかったといえます。

また、利用客が明らかに間違ったルートや目的地を指定している場合には、乗務員が間違いに気づいた時点で必要な確認をする必要があり、指示に従ったから必ず免責されるというわけではないことは注意すべきです」

ーー今回は運転手が「道が分からなかった」ために、結果的に遠回りとなったようです。

「今回の件についての詳しい事情は不明ですが、利用客の指示が間違っていたり不適切だったりしたのでなければ、タクシー会社には賠償義務があると考えられます。

同約款8条は『注意を怠らなかった』ことを証明する責任はタクシー会社が負うとしています。何らかの事情で結果的に遠回りになったケースでは、会社としては『注意を怠らなかった』ことの立証が可能かどうかをふまえて対応を検討することになります。本件では運転手も道に迷ったと言っている以上、免責の立証は困難だろうと思われます。

会社側に立証責任がある以上、タクシー会社や乗務員は、日々の運行において必要な注意をしていることを記録しておかなければ、不当なクレームがなされた場合であっても免責されません。

出発地と目的地を運行記録簿に付けるほか、車内を録画できるドライブレコーダーも利用客の指示や乗務員の説明を記録するうえで極めて有効なものと考えます」

●不満を「クレーム」に発展させないために

ーートラブル防止のために、タクシー会社はどのような点に注意すべきでしょうか。

「何よりも丁寧な対応と説明が不可欠です。具体的には、出発時に目的地のほか経路を確認すること、経路の指示があればよほど不合理ではない限りはその通り走行すること、指示されない場合でも、その経路を走行する理由を丁寧に説明することなどです。

乗務員にこれらの点を徹底しておくことがトラブル防止に役立つほか、結果的に利用客の満足にもつながり、売上げにも良い影響があるものと思われます。

今回の件でも、もし遠回りしたことに合理的な理由があったのであれば、乗務員からきちんとその理由を説明すべきでした。そうすれば、利用客も納得してクレームに発展することはなかったかもしれません。また、道を間違ったのであれば、やはりきちんと謝罪して、余分にかかった料金は返金される旨の説明をすべきでしょう。

利用客の不満がクレームに発展するとクレーム処理にともなう負担が増えるほか、会社の評判も落ちてしまいます。ただし、不当なクレームに対しては毅然と対応する必要があるため、前述した記録のルール化や、利用客とのトラブル対応についての社内教育の徹底など、日頃から対応を準備しておくことが望ましいでしょう」

プロフィール

半田 望
半田 望(はんだ のぞむ)弁護士 半田法律事務所
佐賀県小城市出身。主に交通事故や労働問題などの民事事件を取り扱うほか、日本弁護士連合会・接見交通権確立実行委員会の委員をつとめ、刑事弁護・接見交通の問題に力を入れている。また、地元大学で民事訴訟法の講義を担当するなど、各種講義、講演活動も積極的におこなっている。

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