肺がん検診でがんを見落とされ、症状が悪化して精神的苦痛を受けたとして、東京都杉並区の70代男性が2月28日、がん検診を行う杉並区と社会医療法人「河北医療財団」を相手取り、約1600万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
●レントゲン再検証で発覚
訴状などによると、男性は2017年8月21日、財団が運営する河北健診クリニックでがん検診を受け、「異常所見なし」とされた。ところが2018年1月にあった検診で同じく「異常所見なし」とされた女性が、実はがんで、2018年6月に亡くなったことが判明した。
この事態を受け、杉並区は胸部レントゲン画像(2014年9月以降、約9400人分)を再び読影するよう指示。結果として44人が「精密検査が必要」との判断に変わった。うち1人が今回の原告男性だったという。
男性は2018年7月に改めてがん検診を受け、「肺がんの疑い」との結果に。8月には「ステージIIIB」であるとの説明を受け、以降は治療に専念。高齢で、切除するには腫瘍が大きすぎるとの理由で手術はできず、放射線治療などの通院治療を別の病院で受けている。
●探すこともなく「ここ」と言えるレベル
原告側が、別の医療機関の呼吸器内科専門医に実際に見落とされた胸部レントゲンを示して見落としのレベルを聞いたところ、「明らかな異常所見で、探すこともなく『ここ』と言えるレベル」との話があったという。
こうしたことから、原告側は、河北健診クリニックによる見落としはきわめて初歩的なミスで、信頼を裏切った度合いも大きいと指摘。1年前の時点でわかっていれば、より初期の「ステージⅠA2」で発見されていたはずだったとしている。
また、がん検診を行い、この問題を防げなかった杉並区にも落ち度があると主張している。
男性は抗がん剤の副作用などから、治療前に行っていたアルバイトはできない日々が続いている。年金収入があるとはいえ、今後さらに治療費がかさむことなどを踏まえれば、不安を募らせているという。
東京・霞が関の司法記者クラブでこの日開いた会見で、原告代理人の梶浦明裕弁護士は「原告側としては、治療費などの仮払いに被告側が応じれば、和解する可能性は十分あると思っている。男性は少しでも早く解決してほしいという意向だ」と述べた。
●杉並区「内容をよく精査する」
提訴を受け、杉並区では田中良区長が次のようにコメントした。
「いまなお、懸命に闘病を続けているご本人様に対し、一刻も早く病状が回復されますよう、心よりお祈り申し上げます。訴状が届き次第、内容をよく精査させていただいたうえで、今後の対応について検討してまいります」
河北医療財団は取材に対し、「コメントは致しかねます」(広報担当)とした。