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罰走で疲労骨折…学校再開で病院に駆け込む子どもたち 「選手生命潰すな」整形外科医訴え
罰走など過度な指導を批判するDrごん@整形外科さん(本人提供画像)

罰走で疲労骨折…学校再開で病院に駆け込む子どもたち 「選手生命潰すな」整形外科医訴え

5月末から全国各地で学校が再開した途端に、部活やクラブの運動で体を傷めたという報告が相次いでいるという。スポーツ傷害を専門として、子どもからプロアスリートまで診察する整形外科医は「罰走など過度な指導で子どもたちが潰されている」と訴える。

●休校明け2週間で子どもが病院に駆け込んでくる

関東の病院で整形外科医として働く「Drごん@整形外科」さんは6月13日、「六月なってほんの2週間で疲労骨折作り出してくる指導者さん、本当にやめてください。本日診た2/4人は明らかに罰走が原因です。無くなれ、罰走、連帯責任!」とツイッターに投稿した。

投稿は6600以上リツイートされ、1万2000のいいねが押されている(6月23日現在)。罰走は「傷害罪」や「虐待」だと指摘する意見や、「選手のコンディションすら把握できずオーバーワークをさせる人に指導者の資格はありません」と断罪する意見も多く寄せられた。

問題提起をした理由をドクターに聞いた。

ーー休校明けに整形外科を訪れる子どもは増えていますか

はい。ツイートした後も疲労骨折の痛みを訴える子どもの来院数は減っていません(取材日は6月22日)。投稿で触れた4人は疲労骨折でしたが、そのうち2人は罰走が原因のものでした。

テニスのクラブチームでは、試合に負けたらコート10周全力疾走。サッカーでも負けたらチーム全員で35分間走があったそうです。いわゆる罰走ですが、通常のトレーニングの範囲で走るのではなく、「負けたから」「ミスをしたから」という理由で課されるペナルティーのことです。

約2カ月の自粛期間から再始動してすぐに元の運動量に戻すのは危険です。実戦練習はもとより、ウォーミングアップも含めて、自粛中に行なっていた軽い運動から徐々に負荷を増やす必要があります。

●罰走によってのみ得られる唯一無二のものは存在しない

ーードクターは罰走を問題視していますが、投稿には「罰走肯定派」の意見も寄せられていました

はい。「忍耐力が鍛えられる」、「練習の集中力が高められる」、「苦しい時代を乗り越えれば、その後の人生が楽になる」などの意見が見られます。しかしながら、私は「罰走によってのみ得られる唯一無二のものはない」と考えています。

罰走がなくても、メンタルの負荷はかけられるし、集中力を高めるトレーニングはいくらでもあります。

●体罰である「罰走」はなぜなくならないのか

ーー体罰等の許されない指導として、文科省のガイドライン(平成25年)では、「社会通念、医・科学に基づいた健康管理、安全確保の点から認め難い又は限度を超えたような肉体的、精神的負荷を課す」こともあげられています

水を飲ませない指導と同じで罰走も間接的な暴力だと思います。罰走でできた疲労骨折は故意的に作られた怪我ですし、体罰として扱われてもしかたがないのに、罰走はなかなかなくなりません。

ーーどうして罰走はなくならないのでしょう

自身の成功体験に縛られている指導者の存在が大きいです。「罰走で鍛えられた。今の俺があるのは罰走のおかげだ」と考える指導者が少なくありません。

また、部活より、クラブチームで罰走・疲労骨折が繰り返されています。選手層が厚いので、数人の故障者が出ても、チームを組んで試合出場が成立してしまうからです。

学校の部活では、競技経験のない教師が顧問になることがあります。指導する知識がない人がやりがちなのが「とりあえず走らせておけばいい」「走らせることに間違いはない」という指導です。

●勝利の美談の陰にいる「選手生命潰された子」

ーー罰走は指導力のなさを露呈する恥ずかしい行為とも考えられそうですね

そうですね。それでも実力を持つ子が集まると、試合に勝ててしまう。結果として、罰走に間違いはなかったと結論づけられてしまいます。

メディアの影響も考えていただきたいです。敗者より勝者への取材が増えると思いますが、罰走が美しい勝者の成功体験として紹介されることがあります。取材した勝利チームの中には、罰走で選手生命を潰された子もいると思います。罰走で疲労骨折を起こすのは指導者として失格。持ち上げるべきではありません。

●外国人プロ選手の疑問「なぜ殴り返さない?」

ーープロの選手は罰走をどのようにとらえているのでしょうか

私の患者にはプロ野球やJリーグなどのプロ選手もいます。特に外国人の選手は「なぜ日本人は指導者から叩かれたとき、殴り返さないんだ。なぜあんなに走るんだ。子どもに体罰をしてなぜクビにならないんだ」と日本のスポーツ界に疑問を持っています。

子どもたちが指導者の言うことを鵜呑みにして、考えずに走り続けてしまうことも不思議に思っています。自発的に考えて動く「自主性」を伸ばさない指導も問題視しています。

ーー子どもは罰走を受け入れているのでしょうか

子どもたち自身は「いつもよりミスして、走らされたな」という感覚です。「罰走がおかしい」ことに気づける子は少ないし、指導者に「罰走っておかしい」と言える子はもっと少数です。

ただ、診察時に親から「うちの子、ずっと走らされるんです」と伝えてくれるケースが増えてきたことは救いです。親に問題意識が広がれば、チームを変えたり、指導者に影響を与えたりすることができるのではないかと期待しています。

ーー医師は罰走で怪我した子のために、所属する部活やクラブチームに何か具体的に行動を起こせますか

子どもに疲労骨折のMRI画像を渡して、指導者に見せてと言うくらいでしょうか。これは指導に対するせめてもの嫌味です。指導に口出しをする慣習はありません。

指導者の講習会や、プロ選手を外部コーチとして招聘することなど地道な活動が必要だと思います。

●「超回復」長期休養のメリットに注目できないか

新型コロナで地方大会、全国大会がなくなった子どもたちは本当にかわいそうです。ただ、「自粛期間中に疲労骨折がなくなった」、「慢性的な関節の痛みが消えた」などの報告もありました。

休養するとレギュラーを外される子どもは、痛みを我慢して運動してしまいます。怪我をしている選手にとって、この2カ月は極めて有益な期間だったと思います。

全国の子どもたちがこれだけ休養を取れた例は過去にありません。オフの期間を設けたら、パフォーマンスを上げられる、選手生命を伸ばせるという考えも示すことができたことにも着目してもらいたいです。

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