「医師の働き方改革に関する検討会」が3月13日、東京・霞が関の厚生労働省であった。年度末の取りまとめに向け報告書案が示されたが、例外的に勤務医の残業を「年1860時間」まで認める案などへの意見が尽きず、承認には至らなかった。次回は3月15日に開かれる。
●「年1860時間」適用にはいくつものハードル
報告書案では、まず前提として、医師も一般労働者と同等の残業時間規制とし、上限を「年360時間」とすることを明記。そのうえで、業務の大幅増など休日出勤がなければまわらない状況に直面したら、休日労働込みで「年960時間」まで認めるとした。
2024年4月時点で、こうした水準をすべての勤務医が達成している状況を目指す。ただ、現実的には、医師不足の地域などでは未達となるケースも想定される。このため、「地域医療確保暫定特例水準」という特例を設け、「年1860時間」まで容認するとした。
この特例の適用は2035年度末まで。具体的には、地域に十分な医療を提供するうえで真にやむをえないかどうか、都道府県が判断し、対象となる医療機関を特定する。特定されないと、「年1860時間」まで勤務医を働かせることは許されない。
さらに、行政による特定だけでなく、勤務医の睡眠時間(1日6時間程度)を確保し、疲労回復ができるよう勤務間インターバルや代休を与えるなどの健康確保措置を義務づける。
また、研修医が技術を重点的に磨く過程においても、医療機関が行政による特定を受け、健康確保措置をとることを条件に「年1860時間」まで認めるとした。
●「過労で命を落とす医師もいる」
「年1860時間」は、いわゆる過労死ラインを大幅に超える水準だ。すべての勤務医に適用されない例外的なものとはいえ、制度として位置づけられることに対し、検討会を見守る現役医師や過労死遺族たちは強い懸念の声をあげている。
この日の検討会でもさまざまな意見が出された。
連合の村上陽子氏は「1860時間が安易に認められることはないことは重々承知しているが、過労で命を落とす医師もいる。1860時間という時間には賛同できない」と発言。
救急医の赤星昂己氏は「守れるルールを作るのが一番大事かなと思う。960時間にすると、表面上このように見せかける病院が出て、本末転倒なことになるかもしれない」。
日本病院会副会長の岡留健一郎氏は「960とか1860は医療界にとって非常に厳しい数字だが、医療界が総力をあげて取り込んでいくことが大事。早く目標を決めて、4月以降、具体的な実行をしていくことが大事」と述べた。
「年1860時間」という数字がひとり歩きしているなどとして、報道への不満も複数聞かれた。ただ、どの意見も具体的な媒体を名指ししたものではなかった。
●副座長が辞任、「若手の医師が希望を持てるよう」
検討会では、2月22日付で副座長の渋谷健司・東大院教授が辞任したことも報告された。
医療系メディア「m3.com」が伝えたところによると、渋谷氏は「1860時間に納得できるロジックがあるわけではないので、前に進めるのならば僕ではない人を副座長に選んでまとめていただきたいと思っている」と語ったという。
座長の岩村正彦氏(東大院教授)は「渋谷さんが残念ながら辞任された。渋谷さんが、『若手の医師が希望を持てるような改革でなければならない』とおっしゃっていたのが印象的だった。そういう観点からも次回の議論を深めたい」と述べた。