「とにかくカスタマーハラスメント(カスハラ)が酷かったんです」。首都圏近郊の中規模都市のレンタルDVD店で数年間、深夜時間帯にアルバイトをしていた大学生・ユウタさんが、弁護士ドットコムニュース編集部に当時の様子を語った。
●電話でAVタイトルを復唱させる客
「印象的だったのは、電話で女性店員にアダルトビデオのタイトルを復唱させる客ですね」とユウタさんは振り返る。男性店員が対応すると即座に電話を切り、女性店員が対応すると、アダルトビデオの在庫検索をしてほしいと頼み、タイトルを復唱させようとするのだ。
ユウタさんのこの体験談については、弁護士ドットコムニュースで既に記事にしている(レンタルDVD店、女性店員に「AVタイトルを復唱」させる客からの電話…犯罪では? )。この記事では、寺林智栄弁護士が、電話の頻度などによって、業務妨害罪や傷害罪が適用される可能性を指摘している。
ユウタさんは店内でも、「ちょっと来てほしい」と女性店員だけをしきりにアダルトビデオのコーナーに連れて行こうとする男性客を見たことがあり、あきれてしまったという。
●トイレの貸し出しを断られ、返却ボックスに放尿
ユウタさんは「アダルト系以外にも、ハラスメントはたくさんありました。ハラスメントのなかった日はほとんどありませんでした」と語る。特に悪質だったのが、トイレに関するトラブルだという。
ある晩、いつものようにレジで返却されたDVDのチェックをしていたユウタさんのもとに、30代ぐらいの男性が訪れた。男性から「トイレを貸してほしい」と頼まれたが、店はトイレの貸し出しを禁止しており、扉にも明記していた。トイレの窓から商品を外に出され、万引きされる事態があったからだ。
ユウタさんは男性にトイレの貸し出しができない旨を伝えたが、男性は「なんでトイレくらい貸せないわけ」と聞く耳を持たず。先輩に相談しても、貸し出しはダメの一点張り。ユウタさんが謝りながらそのことを伝えると、男性は毒づきながら去っていった。
毒づかれたものの「あの人はまだマシだったんです」。というのも、別の日に先輩から恐ろしい話を聞かされたからだ。
ユウタさんが初めて屋外の返却ボックスの処理をしていたときのことだ。ボックスの扉あたりから、鼻を刺す異様なアンモニア臭がしていた。作業を終えたユウタさんが先輩に尋ねてみると、過去にトイレの貸し出しを断られた高齢男性が、逆上して返却ボックスに放尿したという恐怖エピソードを聞かされた。
「愕然とした」ユウタさんだが、ふだん目の当たりにしている客の態度の悪さから、あってもおかしくないと思ったという。
●1カ月以上経って、中古ゲームの返金を求める客
レンタルDVD店は中古品も扱っているため、中古品をめぐるクレームも多い。
ユウタさんがレジの点検をしている時にやってきた中年の男性客は、特に悪質な1人だった。開口一番、ゲーム機とゲームソフトの返金を求めてきた。中古品を扱っている以上、不意の動作不良による返金はままあるが、男性の提示してきたレシートが1カ月以上も前のものだった。
ユウタさんの勤務店では、中古ゲームの動作不良については、購入から1週間以内の場合にのみ返金しており、購入時にも説明している。ユウタさんは返金は出来ないことを伝えたが、男性は「忙しくてずっとつけられなかった。今日つけたら動かなかった」と言って引かず、次第に「なんでだ!」と語気を荒げていったという。困り果てたところに先輩バイトが助け舟を出してくれた。
「お客さん前も同じことやったでしょ。次やったら警察呼びますからね」。この一言でようやく退いた。そう、彼は過去にも同じようなクレームをつけていたのだ。
●免許証を持っていないのに、車で帰っていく客
先輩のアルバイトは頼りになる存在だが、時に残酷だと感じることもあった。在庫をめぐるトラブルで、バイトリーダーが土下座を要求されたことがあったという。「店舗は基本的にバイトがまわしていて、社員が1人もいないことも多い」ため、問題が起きたときに対処しきれないこともある。
トラブルは思い出すときりがない。地域の祭りの際に、無断で駐車場を利用する客や、深夜帯にもかかわらず泣いている赤ちゃんを連れて来る客もいた。会員カードの更新で、身分証明書としての運転免許証を「持っていない」と言ったにも関わらず、車で帰っていく客もいた。小銭を投げる、店の前で暴れる、罵声をあげる、といった客も。
悪質クレーマーは社会問題になっており、UAゼンセンが2018年9月に発表した悪質クレーム対策の調査結果でも、業務中に来店客からの迷惑行為に遭遇したことのあると回答した割合が7割にのぼった。内容としては、暴言が最も多く、何回も同じ内容を繰り返すクレームや、権威的態度、威嚇・脅迫などが多かった。
弁護士ドットコムニュースでは悪質クレームに関する記事を何度も掲載してきた。「悪質クレーマーには『刑事告訴も辞さない態度を』…土下座強要、大声など7割が経験」の記事では、石崎冬貴弁護士が「不当な要求に対して、はっきりと『NO!』ということです。エスカレートするようであれば、刑事告訴も辞さない毅然とした態度が必要になります」と解説している。
最近の流れについて、ユウタさんは「注目されているのはいいことだと思います。末端のアルバイトが苦しむことのないようにしてほしい」と話している。