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2018年11月01日 09時18分

パワハラでうつ病、証拠は「ツイート数の激減」 執念で調べあげた遺族、自殺との関係認定

パワハラでうつ病、証拠は「ツイート数の激減」 執念で調べあげた遺族、自殺との関係認定
画像はイメージです(shimi / PIXTA)

長時間労働やパワハラが原因で、うつ状態に陥り、自殺してしまうという痛ましい事案が後を立たない。会社に対して損害賠償を求める裁判になった場合には、業務が原因でうつ病を発症していたか、そして業務と自殺との間に因果関係があるかどうかが争点になることも多い。

生前に精神科に通院していなかった場合、当時の行動や言動などから判断されることになるが、証拠として亡くなった女性のツイッターを提出した事件がある。

2012年に職場でパワハラを受け女性社員(当時21)が自殺した「加野青果事件」。控訴審の名古屋高裁は2017年11月30日、趣味のアニメに関するツイートが減ったことなどの証拠から自殺直前にうつ病を発症していたと認定、約5500万円の支払いを命じた。

ツイッターが証拠になるというのは驚きだが、証拠提出まではどのような経緯があったのだろうか。遺族側代理人の岡村晴美弁護士に聞いた。

●「新しい仕事で目が回る」

ーー証拠として、時間外労働時間や同居していた家族のエピソードなども共に提出しています。これに加えて、ツイートを提出したのにはどのような狙いがあったのでしょうか

「ツイートの内容に着目したためです。具体的には次のような、職場での長時間労働やパワハラ、いじめが疑われるツイートを提出しました」

「疲れた。眠い。こんだけ必死に仕事して固定残業とかマジでないわ…っていうかせめて七月の残業代くらいは倍くれてもいいんじゃないの?」(2011年8月2日)

「女性がタバコ吸うと何か悪いの?お酒飲むと何か悪いの?」(同年10月28日)

「忙しいなんてレベルじゃないぞこれ。」(同年11月21日)

「現状が辛すぎてなんかもう消えたい。」(2012年2月23日)

「新しい仕事で目が回る。」(同年3月1日)

「仕事大量に残ってるから朝早くでてこなかん。」(同年6月19日)

ーー名古屋地裁判決は、いじめがあったことは認定しましたが、うつ病の発症やいじめと自殺の因果関係は否定しました。裁判所はツイートについて、どう判断したのですか

「名古屋地裁は、被告側の『女性がアニメ・ゲーム・ツイッターに深夜までのめり込んでいたことにより疲労した可能性がある』という主張とはまた異なった観点から、女性のツイッターについて捉えました。

『(ツイッターの)大部分がアニメ、ゲーム等の趣味に関するものであるところ、その全体を検討した場合には、本件労災認定の際に提出されたツイッター記録の抜粋のみを検討した場合と比べて、女性の心身の状況について受ける印象がかなり異なる点が少なくない』と認定したのです。

簡潔に言うと、趣味に関するツイートが多く、女性が職場のパワハラ・いじめに悩んでいたという印象を持てなかったということです」

ーー控訴審ではどうしたのですか

「一審判決後、亡くなった女性の母親が『判決が指摘するほど、娘は、ゲーム・アニメ・ツイッターにのめり込んではいなかったのですが』と話したんです。

裁判所が抱いた印象を払拭するにはどうしたらよいか。考えた結果、パワハラ・いじめが始まった2011年夏以降のツイート数を調べてみました。すると、アニメ等に関するツイートが減少していることが分かりました。非常に細かい作業となりましたが、女性の母親が執念で調べ上げ、高裁判決でも引用されました」

●ツイッターは証拠として有効?

ーーツイッターは証拠としてどのような価値がありますか

「ツイッターの内容面の証拠価値としては、後に改ざんしにくいという点で優れた証拠だと思います。ただ、日記と異なり、他者が見ることを前提としています。素直な気持ちが綴られているとばかりはいえません。ツイッターの中だけ元気にふるまう人もいるでしょうし、ツイッター上のキャラを演じている人もいると思います」

ーーツイッターのつぶやきが心理分析の一つとして認められたことで、今後の同種の裁判へどのような影響がありますか

「ツイッターやSNSの投稿の増減、内容について注目されることは、避けがたい流れでしょう。ただ、増えたから元気で、減ったからうつ病といった単純な認定は有害だと思います。ツイッターを証拠とするにあたっては、その意味づけについては様々な解釈がつきまといます。

結果論として、控訴審では、ツイッター数の減少がうつ病の発症を認める形で引用されました。一方で、精神的に追い詰められた労働者が、うっぷん晴らし・気晴らしを目的として、趣味に逃げ込むことも可能性として十分あると思います。

ツイート数の増減は、一つの間接事実ではありますが、過労自殺のケースで最も重要なことは、職場で過度のストレスを受ける状態であったのかどうかということです」

●自殺との因果関係、認定ハードルは高い

ーー女性は精神科への通院歴がなく、亡くなった後に自殺当時うつ病を発症していたかどうか証明する必要がありました。こうしたケースの難しさを教えて下さい

「パワハラ・いじめの事実が認定されても、自殺との因果関係や予見可能だったか認定されるハードルは高いです。

亡くなった女性は自殺の前夜、ハラスメントの加害者から電話がかかり、電話を切ったあと肩をふるわせ、声もなく泣き続けました。母親が『そんなに辛いなら仕事を辞めていい』と声をかけています。ただ、電話でどのような叱責が行われたのかは分かりませんでした。

翌朝、飛び降り自殺をしていることからすると、職場に関連すると考えますが、それだけを理由に自殺との因果関係が認められるほど裁判は甘くはありません。

周囲の人が被害者のうつ病発症に気づかなくても、自殺のリスクは高まっています。実際にいじめ・パワハラが認定され、周囲の人も気づいているような場合に、被害者本人が元気そうにふるまってしまったことで救済されないのは間違っていると思います。

裁判所には、自殺との因果関係や予見可能性を判断する際にも、職場で過度のストレスを受ける状態であったのかどうか、その状態を認識できたかどうかという点を重視していただきたいと思います」

●<加野青果事件の概要>

女性は2009年4月、青果の仲卸を行う「加野青果」(名古屋市)に入社した。ミスをすると、先輩の女性社員から「てめえ」「あんた、同じミスばかりして」などと厳しい口調で叱責された。2012年3月に営業事務へと配置転換した後も、別の先輩女性社員が強い口調で注意や叱責をし、同じ叱責を繰り返したり、叱責が長時間にわたったりすることもあった。加えて、過重な業務を担当させられ、時間外労働は増加。その年の6月に自殺した。

女性のツイート数は2011年6月の1カ月間に460ツイートだったのが、同年10月には59ツイートと2桁台に減少。亡くなる1カ月前の2012年5月は15ツイート、自殺した6月は16ツイートだった。

名古屋高裁はアニメ等に関するツイートが減少していることなどから、「疲労性が認められ、身なりを構わなくなっているということも考慮すると、アニメ等に対する関心が従前よりも薄れていると認めるのが相当」と判断。うつ病の診断ガイドラインの一つである「興味の喪失」に該当するとした。賠償額は165万円とした一審名古屋地裁判決から大幅に増加した。

(弁護士ドットコムニュース)

岡村 晴美(おかむら・はるみ)弁護士
2007年1月に弁護士登録。DV、ストーカー、性被害事件など、女性の権利擁護に関する事件を中心に取り組む。小学校時代にいじめられた経験から、被害者の心理状態への共感度が高く、いじめ・ハラスメントの事件では、残された証拠からどういう事実があったのかを
導き出す作業を中心に担当している。

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