入社してしばらく経つのに就業規則を会社側が見せてくれない。会社の対応に問題はないのかーー。こうした相談が、都道府県などに寄せられることがあるという。山形県庁は労働相談Q&Aのなかで、「労働基準法違反であることを申し入れ、就業規則の配布を求めてみてはどうか」と回答している。
実際、社員としては、「とやかく言ってくるうるさいやつだ」と思われる懸念もあり、求めるにしても神経を使いそうだ。就業規則の法的位置づけや、会社側がすべき対応について、光永享央弁護士に聞いた。
●就業規則は周知義務、見せないと30万円以下の罰金
「労働相談で、内容を問わず弁護士が真っ先に確認したいのは、労働契約書と就業規則(賃金規程等も含む)です。労働契約書については今さら説明するまでもないと思います」
ーーなぜ就業規則が重要なのでしょうか
「それは、労働契約書(今でも作成すらしていない企業も多い)に書かれていない事項については、就業規則の内容が契約内容として会社と労働者を拘束するからです(契約内容補充効)。ただし、労働基準法よりも不利な内容を定めても無効ですし(最低基準効)、合理的な労働条件に限ります」
ーー見せないこと自体が違法なのでしょうか
「就業規則は職場のルールブックとして大変重要なものですので、会社は労働者に対して周知しなければなりません。周知の方法としては、掲示、備置、配布、社内イントラネットへのアップ等、実質的に労働者がその内容をいつでも知りうる状態に置くことが必要です(労働基準法106条)。
したがって、労働者が閲覧を求めているにもかかわらず会社が拒否することは許されませんし、見せないということは犯罪行為でもあります(30万円以下の罰金)」
●閲覧拒否の証拠を集めておくべき
ーー見せようとしない会社の対応を変えるのは難しいのでしょうか
「意図的に開示を拒否する会社に正攻法でいっても応じる可能性は低いでしょう。そこで、就業規則の内容確認を重視する場合は、会社とのやりとりを証拠化(メール、録音等)して労働基準監督署に相談し、労基署から指導してもらうことをおすすめします。
それでも会社が開示しない場合は、厚生労働省の通達に基づき、労基署に届け出がなされている就業規則を閲覧することが可能です」
ーー在職中に行動に移すのはハードルが高そうです
「在職中に会社から目をつけられるリスクを回避したい場合は、就業規則の閲覧拒否の証拠(メール、録音等)を集めておき、退職後に残業代請求等の紛争となった際に改めて労基署や弁護士に相談して開示請求を行いましょう。
このとき、上記の閲覧拒否の証拠があれば、会社に有利な就業規則の規定の効力を『周知なし』として否定するという戦い方もありえます」