来年4月から始まる有期雇用者の大規模な無期転換(5年ルール)をめぐり、東京大学で労使の激しいやり取りが続いている。
改正労働契約法では、2013年4月を起点に同じ職場に5年連続で勤めた有期雇用者について、次の契約更新で本人が望めば無期雇用に転換しなければならない。一方、東大は2004年の大学法人化以来、有期の契約上限を5年に設定している。労働組合が交渉しても、上限を変え、無期転換に対応するそぶりはないという。
組合によれば、東大の消極姿勢は法改正当時の対応にも見られるという。たとえば、東大は、法改正後の2012年11月に有期を雇い直す際のクーリング(空白)期間を3か月から6か月に延長した。改正法上、クーリング3か月だと連続雇用とみなされ、無期転換の対象になってしまうが、6か月あければ、それまでの5年間はリセットできる。
国公立を中心に大学では無期転換に消極的な傾向が見られるという。こうした大学の対応は、労契法の趣旨に照らして、どう考えられるのか、川岸卓哉弁護士に聞いた。
●「適法」だけど「不当」な労働条件、変えさせるにはどうしたら良い?
ーーそもそも労契法の趣旨は?
無期転換ルールの目的は、「名ばかり有期契約労働者」の雇用の安定化を図ることにあります。
有期雇用契約であっても契約更新を繰り返し、実際は正社員と同じように長期間、雇用されている有期労働者が多くいます。しかし、「契約期間満了」という理由だけで、突然雇い止めされ、路頭に迷う危険があります。このような有期雇用の労働者の地位を安定させるために、通算5年の契約更新期間を上限とし、労働者に無期転換を求める権利が保障されました。
有期労働契約の場合、使用者側は、契約期間満了時に自由に雇い止めできるのが原則です(もっとも、雇用継続の合理的期待がある場合等には労働法の保護が及ぶ場合があります)。
他方、有期労働契約が無期転換化すれば、労働法で定められた厳格な解雇規制が及ぶことになり、使用者側は客観的合理的理由なく労働者を解雇することはできなくなります。
ーーなぜ東大は揉めているのか?
無期転換ルールの導入に伴い、有期雇用の上限を設けて、適用を免れる雇用契約が増えています。
これまで、更新回数の上限が決まっておらず、会社が途中の契約更新から上限を定めてきた場合は、雇用契約継続の合理的期待が認められれば、無期転換ルールの適用を受けられる可能性があります。
他方、東大のように、当初から有期労働契約の上限が定められている場合には、法的に無期転換ルールの適用を争うのは困難です。
ーー東大は法改正に合わせて、クーリング期間を変えている。これも有効なのか?
クーリング期間を労契法にあわせて6か月以上に変更することも、クーリング期間に派遣や請負など別の形式で雇うなど脱法的な意図が明らかな場合を除き、法的に違法性を争うのは簡単でありません。
ーーということは、労働者は諦めなければならない?
労働条件が「不当」であるが「適法」な場合、労働法が保障した闘い方は、労働者が団結して労働組合として交渉し、数の力の労働運動で「不当」な労働条件をあらためさせることです。
実際に、日本郵政グループ労働組合などは、有期雇用社員が積極的に労働組合に加入し、会社と交渉することにより、無期転換制度の法定前に8万人もの無期転換を実現しています。
本来、無期転換ルールは、使用者にとっても業務に習熟した人材を確保するメリットがあります。雇用が安定した良い労働環境の職場には、優秀な人材が集まります。労働者を使い捨てるようないわゆる「ブラック企業」は、淘汰されなければなりません。労働組合を中心に結集し職場環境を改善することが求められます。