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「残業が無理ならバイトになれ」「時短使うな」復職ママのトラブル、法的問題は?
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「残業が無理ならバイトになれ」「時短使うな」復職ママのトラブル、法的問題は?

産休・育休から復職した際、仕事の範囲が狭められたり、不本意な配置転換を命じられたりするトラブルを経験した人が、3割を超えることが、ベビーシッターサービス会社「キッズライン」(東京都港区)の調査でわかった。アンケートは、2017年3月にインターネット上で、同社の会員を対象に実施し、269人が回答した。

寄せられた体験談の中から、特徴的な事例を紹介するとともに、労働問題などを扱っている寒竹里江弁護士の見解を紹介したい。

●ケース1)「残業できないなら、アルバイトになれ」と詰められた

「残業ができないなら、アルバイトへと言われた。出産が繁忙期に重なったら、じゃあこの繁忙期どうするつもりなの? どうしてくれるの? と詰められた」

最初はこんな驚きの体験談です。「残業ができないならアルバイト」のような変更は認められるのでしょうか。また、これは、マタハラと呼べるものでしょうか。

【寒竹弁護士の見解】

正社員からアルバイトへの変更は、労働者にとって不利益な待遇変更と解釈されますので、使用者(企業など)が「妊娠・出産」のみを理由に、そのような不利益な待遇変更を行うことは、男女雇用機会均等法(第9条3項)違反となります。

また、「残業」は一定の必要性と時間的制限と割増賃金があることを前提に、使用者が労働者にお願いできる勤務形態です。しかし、正規の勤務時間外ですから、労働者側の都合や事情を無視して強制できません。ですから、「妊娠・出産のため残業ができない」と主張したとしても、そのことを理由に正社員からアルバイトに変更することは許されません。

「マタニティ・ハラスメント」(マタハラ)については、法的に明確な定義があるわけではありませんが、「出産が繁忙期に重なる」というのは、労働者自身でコントロールできる訳ではありませんので、「この繁忙期どうするつもりなの?どうしてくれるの?」と労働者を責めることは、「マタニティ・ハラスメント=妊娠・出産を理由とした不当な嫌がらせ」に該当するおそれがあります。

●ケース2)「両立は欲張り」と異動を潰された

「異動が決まっていたのに、前日にパワハラな部長との面談で、育児と仕事の両立しようというのは欲張り的な反応をされ、異動を潰された」2つ目の事例は、上司からの異動潰しです。法的に問題ないのでしょうか。

【寒竹弁護士の見解】

そもそも「パワハラな部長」である時点で問題がありそうです。

ですが、「育児と仕事の両立をしようというのは欲張り的な反応」自体は、個人の主観でもありますから、ただちに「違法」と言える訳ではありません。

例えば、その部長自身が、「仕事に全力投球するために妊娠・出産を諦めた人」であるかもしれないわけですから、各個人の価値判断が正しいかどうかを法的に論じても仕方ないでしょう。

また、「異動を潰された」の意味が、「異動先が自分のスキルや能力、キャリアの観点から適任で、昇級・昇格等の面でもメリットがあり、妊娠・出産・育児によって異動先の業務に支障をきたす心配も全くないのに、妊娠・出産・育児を理由に異動を取り消された」ということであれば、ケース1と同様に、男女雇用機会均等法第9条3項に反する「不利益な取り扱い」に該当する可能性があります。

ただ、異動前の部署の業務でも、妊娠・出産・育児によって一定の影響(例えば、産休期間や育児中の時短勤務や、子の発病の際の早退等)は避けられないでしょうから、会社や上司が、慣れない異動先の業務を「不適任」として異動を取り消したとしても、ただちに違法と言える訳ではないでしょう。

●ケース3)短時間勤務制度を「とらないで欲しい」

「時短をとっているのが社会人として恥ずかしくないのかと言われた」「育児短時間勤務制度があるが、周りにかなり負担なのでとらないで欲しいと言われた」

3番目は、短時間勤務をめぐるトラブルです。上司が短時間勤務制度を「とらないで欲しい」と言ったり、取得している人を責めるようなことを言った場合、どのような法的な問題があるのでしょうか。

【寒竹弁護士の見解】

育児等のための短時間勤務制度は、育児介護法第23条によって、一定の要件で事業者に義務づけられる制度です。会社や経営者が、法律や会社で定められた制度を利用して短時間勤務を取ることを妨害したり、時短勤務をする労働者を責めたりした場合は、育児介護法の潜脱行為として、違法となる可能性があります。

また、上司や同僚の立場であっても、同様のことをすれば、不当な嫌がらせ行為として不法行為となるおそれがあります。

ただ、会社と、短時間勤務制度を利用する労働者と、その他の労働者が業務の調整をすることは必要でしょうから、労働者に無理や不可能を強いない範囲で、「○○日には、時短勤務をとらないで欲しい。何とかこの日は通常勤務できないか?」等の要望や調整をすることまで違法となる訳ではありません。

ただし、たとえ「要望」であっても「時短勤務をとらないで欲しい」などと言われれば、労働者は萎縮して無理をしてしまうこともありえますので、就労先と職場での充分なコミュニケーションや、使用者・上司・同僚による出産・育児に対する理解は必要となるでしょう。

●ケース4)在宅勤務だからと給料がフルで支払われない

「責任は同じなのに、在宅勤務だからと給料がフルで支払われない」

4番目の事例は、在宅勤務であることを理由に、給料が下げられるような場合です。どのような問題があるのでしょうか。

【寒竹弁護士の見解】

現在の一般的な勤務形態は、「職場における時間的拘束」や「職場における出退勤時間管理」を伴うことが通常です。働いたことの成果以前に、正規の勤務時間内で、会社が定めた場所で勤務をすることが、賃金を査定するうえでの根拠となる場合が多いので、まず、会社が「どのような在宅勤務制度を採用しているのか?」が問題となります。

職場の他の労働者が、一定の条件のもとに在宅勤務を行って、その成果で給料や賃金が決まるのであれば、同じ成果を出しているにもかかわらず、「妊娠・出産・育児中の在宅勤務」であることを理由に給料が下げられるのは「雇用機会均等法第9条3項の不当な取り扱い」に該当するでしょう。

しかし、他の労働者が職場に出勤して働いている状況で、「妊娠・出産・育児を理由に在宅勤務をする」という場合、その就労形態が給料・賃金の査定をするうえで不利に働くことがあっても、ただちに違法とは言えないでしょう。 

●ケース5)2人目の妊娠を報告後、退職を促された

「復帰のときに二人目を妊娠中だったので、退職を促されました」

5番目は、退職をめぐるトラブルです。妊娠を理由に、退職を促すなどのマタハラをした場合、会社には罰則はあるのでしょうか。

【寒竹弁護士の見解】

男女雇用機会均等法第9条1項は「事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない」として、禁止規定を設けています。

しかし、事業主(会社)がこの禁止規定に違反した場合に、直接罰する罰則があるかというと、少なくとも男女雇用機会均等法には直接の罰則規定はなく、あくまで、厚生労働大臣や厚生労働省の調査や指導に対して、報告を怠ったり虚偽報告をしたりした場合に「20万円以下の過料の制裁」(男女雇用機会均等法第33条、第29条)が定められているだけです。

ただし、「妊娠を理由に退職させる」ことは、不当解雇ですので、「解雇無効」となる可能性があります。また、「妊娠を理由とする退職勧奨」が「ハラスメント」を構成する場合には、使用者の労働者に対する安全配慮義務違反やハラスメントを行った者に対する不法行為責任を問い、差止めや損害賠償請求が行える場合があります。

●具体的な相談先は?

育児を原因としたトラブルにあった場合、どこにどう相談すればいいのでしょうか。

【寒竹弁護士の見解】

最近では、一定の規模の企業は、セクハラ等のハラスメントに対する相談窓口を設けているところも多いですから、まず社内の相談窓口に相談することが考えられます。

また、労働組合のある企業であれば、組合に相談することもできるでしょう。地域の自治体やボランティア団体が運営するウィメンズ・プラザや女性センターといった組織でも、「育児を原因としたトラブル」の相談を受け付けているはずです。

弁護士会の法律相談窓口や日本司法支援センター(所謂「法テラス」)でも、相談を受け付けています(基本的には有料ですが、一定の要件で無料相談もできます)。

トラブルに対し、法的手続を検討せざるを得ない場合は、弁護士会や法テラス、ネット等の広告や情報から個別の法律事務所や弁護士を選んで相談し、依頼することもできます。

ただし、弁護士への相談や依頼は有料ですので、費用の支払いが困難な場合は、法テラス等へ相談しましょう。

※キッズラインのアンケート調査の結果については、「産休・育休から復帰後、3割がトラブル経験…「残業できないならバイトになれ」発言も」(https://www.bengo4.com/c_5/n_5939/)に掲載しています。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

寒竹 里江
寒竹 里江(かんちく りえ)弁護士 弥生共同法律事務所
東京弁護士会所属 労働事件(セクハラ・パワハラ等の問題や不当解雇等含む)・医療事件・企業法務(人事・雇用問題等)、その他、多方面の案件を手がけています。

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