靴販売大手「ABCマート」(東京都・渋谷区)の従業員4人が、不適切な形で月100時間前後の時間外労働をさせられていたとして、東京労働局は同社と役員・店長2人を労働基準法違反の疑いで、書類送検した。
ABCマートは2014年4月〜5月の1カ月に、「Grand Stage池袋店」で、残業にかんする協定書を労基署に出さないまま、従業員2人にそれぞれ97時間・112時間の残業をさせた疑いがある。また、「原宿店」では、協定で定めた残業限度時間(月79時間)を超えて、2人にそれぞれ98時間・109時間の残業をさせた疑いがもたれている。
このケースは、今年4月に東京労働局に新設された「過重労働撲滅特別対策班」(通称・かとく)が、初めて書類送検した事例だという。
●どんな組織なのか?
2014年11月に厚労省が「過重労働撲滅キャンペーン」で4561の事業所を調査したところ、過半数の2304事業所で違法な時間外労働が発覚した。この結果を受け、いわゆるブラック企業への監督指導・捜査体制の強化策の一環として「かとく」が東京労働局と大阪労働局に新設された。
東京労働局は、厚労省(国)の出先機関で、都内に18ある労働基準監督署をまとめる役割を担っている。東京労働局の「かとく」には、事業所に立ち入って調査・指導や摘発を行う「労働基準監督官」が7人配属された。監督官は「特別司法警察員」として、事業所への捜査を行い、検察庁に送検する役割も担っている。
そのうちのひとりによると、所属している7人は監督官歴10年以上のベテラン揃いで、長時間労働の問題に特に強い。パソコンのデータから不正を隠すための改ざんを見抜いたり、削除されたデータを復元したりする証拠収集技術「デジタル・フォレンジック」に詳しいメンバーもいるという。
もともと、違法な長時間労働への対応は、それぞれの労働基準監督署にいる監督官が行っている。東京労働局「かとく」が担当するのは、その中でも特に、犯罪の立証に高度な捜査技術が必要なケースだ。かとくの担当者は「それぞれの労基署の管轄エリアを越えて広域で活動している大きな企業などを中心に扱っていきたい」と話している。