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セクハラ辞任が相次ぐENEOS、「不適切にもほどがある」昭和体質を変えるには?
ENEOSグループの本社前

セクハラ辞任が相次ぐENEOS、「不適切にもほどがある」昭和体質を変えるには?

石油元売り最大手のENEOSグループの会社で、3年連続、3人のトップがセクハラで辞任または解任となりました。「ENEOS」というとガソリンスタンドを思い浮かべる人が多いと思いますが、石油精製・販売だけでなく、天然ガス事業などエネルギー全般を取り扱っている超巨大企業です。

ENEOSの売上高は、2023年3月期で15兆円、トヨタの37兆円、三菱商事の21兆円、ホンダの16兆円に続く、日本で4位の売上高になっています 。人間である以上、誰でも過ちを犯すことはあり、誰か1人がセクハラをしたということだけなら個人の問題としてこれ程注目はされなかったでしょう。

しかし、これだけの大企業が3年連続、トップが同じセクハラで解任・辞任となると話は変わります。個人の問題というより企業体質と思われても仕方ないからです。果たして、再発防止に求められるのはどのようなことなのでしょうか。(ライター・岩下爽)

●3年連続で解任に至ったセクハラ事案とは

(1)2022年のセクハラ

ENEOSホールディングスの杉森務会長(当時)は2022年8月にセクハラで辞任しました。新潮によると、杉森氏は、沖縄の得意先である石油販売会社の幹部らとともに、沖縄県那覇市の中心部にある歓楽街の高級クラブに来店して、ホステスの女性にキスを強要し、ドレスを脱がすなどした上で、ろっ骨を骨折させたということです。

これが事実だとすれば、セクハラというレベルを超えており、強制わいせつ罪等の犯罪に問われてもおかしくはありません。刑事訴追されていないところを見ると、被害女性に相当の金銭を支払い、示談が成立しているのかもしれませんが、これだけの大企業のトップがこのようなことをするのかと驚くばかりです。

(2)2023年のセクハラ

2023年12月には、ENEOSホールディングスの齊藤猛社長(当時)が、懇親会の席で酒に酔って女性に抱きつくという不適切行為があったとして解任されました。この時、コンプライアンスを担当する谷田部靖副社長(当時)と須永耕太郎常務(当時)も同席しており、谷田部靖氏は辞任、須永耕太郎氏は減給処分を受けています。

須永耕太郎氏は性差別をうかがわせる不適切な発言をしたということなので論外ですが、谷田部靖氏はどのような対応をしていたのか報道では明らかになっていません。谷田部靖氏が、もし、内心ではまずいと思いながら、事実上の上司である社長の蛮行を止めることができなかったということであれば、同情はできませんが、サラリーマン役員ならこのような対応をする人は多いのかもしれません。

(3)2024年のセクハラ

2024年2月には、ENEOSのグループ会社「ジャパン・リニューアブル・エナジー」の安茂会長(当時)が解任されました 。週刊女性PRIMEによると、2023年12月下旬に出席した懇親の場で女性の体を触るセクハラ行為があったということです。この記事には、安茂氏が女性の背後から胸を触っている写真が掲載されており、反論の余地がない状態になっています。

●再発防止策、役員報酬を返還させる条項も

ENEOSは、このような事態を受け、再発防止策として2023年2月、①人材デュー・デリジェンスの実施、②人権尊重・コンプライアンス徹底意識の維持・確認施策の実行、③役員処分プロセスの明確化、④役員懲罰規定の導入をすると発表しています。

人材デュー・デリジェンスとは、取締役の候補者について、第三者機関が同僚や部下からヒアリングを行い、適任者かどうかを判断するというものです。第三者機関が信用できるのか、匿名性が確保できるのかなど不明な点がありますが、やらないよりはやった方が良いのは間違いありません。

人権尊重・コンプライアンス徹底意識の維持・確認施策の実行は、研修を実施してセクハラなどを行わないようにするというものです。研修でセクハラはなくならないという人もいますが、繰り返すことで一定の効果があることは確かです。

昭和の時代に比べ、セクハラやパワハラが格段に減っているのは、マスコミによるセクハラやパワハラ報道の効果もありますが、研修を繰り返したことで、セクハラやパワハラがキャリアに影響を及ぼすことが認識されるようになったからだと思います。

役員処分プロセスの明確化とは、役員を恣意的に処分するのではなく、規定に基づきどのような事実があった場合に処分の対象になるのかを明確化することです。規定化して、それを示すことで行動を制御しようとするものです。また、規定があることで、役員の処分を迅速に行うことができるようになるというメリットもあります。

役員懲罰規定の導入とは、いわゆる「クローバック・マルス条項」の導入です。クローバック・マルス条項は、不祥事が発生した場合に、支払済みの役員報酬を返還させる、あるいは支払予定の報酬を減額するというものです。ちなみに、齊藤元社長は再発防止策の導入後に解任されているので、月額報酬、賞与の一部が返還・没収されています 。

●取締役に女性はたったの1人、再発防止策は本当に機能するのか

齊藤氏は、杉森氏がセクハラで失脚しているのを見ていたのに、自分もセクハラをして失脚しています。そして、親会社のトップ2人がセクハラで失脚したのを知っているグループ会社のトップである安茂氏もまたセクハラで解任というのですから、異常事態であることは確かです。

この危機意識の低さは、おそらく企業風土にあるのだと思います。これらトップだった人たちは昭和の時代の人たちなので、以前から飲み屋でのこれら蛮行は日常茶飯事だったのでしょう。そして、それを許す風土がこの企業にはあったのだと思います。それが責任ある立場になっても何も変わらなかった(というよりやめられなかった)ということなのでしょう。

昭和時代の残党は、この企業には、まだたくさんいるでしょうから、これからもこのような不祥事はあるかもしれません。しかし、研修を繰り返し、セクハラに対して厳しい対応をしていけば、時間はかかるかもしれませんが確実にセクハラは減っていくはずです。

社会の目も厳しくなっており、スマホでいつでも写真が撮られるようになり、誰でもネットで意見を言える時代です。そのため、かつてのように、権力やお金で問題をもみ消すことは難しくなってきています。

企業のトップになる人は、企業防衛として、セクハラやパワハラをすれば、録音された内容や写真がネットにさらされるということを常に肝に銘じておく必要があります。

ENEOSホールディングスは、2024年4月から新社長に宮田知秀氏が就任すると発表しています。宮田氏は、東燃系で製造部門出身とのことで、これまでの日石系の販売部門出身者とは異なる経歴であることから、改革が進むのではないかと期待されています 。

ただ、執行部の体制を見ると、監査等委員でなない取締役9名の中に女性はたった1人だけです 。女性の取締役が多ければセクハラが起きないというわけではありませんが、少なくとも女性取締役が同席するような場所でセクハラは起きにくいでしょうし、男性取締役だけよりもセクハラには気をつけるはずです。

取締役に適する女性人材がまだ育っていないということかもしれませんが、それ自体も問題です。多様性の時代ですから、社外取締役でも良いので、女性の積極的登用が求められます。役職員の意識改革は簡単にはできるものではなく、時間がかかるものですが、新社長には古い慣習を刷新して、新たなENEOSを作ってもらいたいと期待しています。

今回は、ENEOSのセクハラ問題を取り上げましたが、このような問題は、他の企業でも起こり得ます。特にワンマン社長がいるような会社では、他の役職員が社長に対して注意することは難しいと言えます。だからこそ、規定を整備して、研修を実施することが重要になります。その場合、必ず、社長にも研修に参加してもらい、社長にこそ意識を変えてもらわなければなりません。

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