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猛暑日の出社は「効率性下がる」 コロナ前からリモート導入、ソフトウェア企業の今
写真はイメージ(Princess Anmitsu / PIXTA、ABC / PIXTA)

猛暑日の出社は「効率性下がる」 コロナ前からリモート導入、ソフトウェア企業の今

「過去10年で一番」「災害級」などとされる暑さが続いている。7月も最高気温35度を超える「猛暑日」が観測されたが、8月に入っても猛威はおさまりそうにない。

通勤中の熱中症も心配される中、「猛暑ならテレワークにしてほしい」といった恨み声もSNSでは目立つ。

コロナ流行前から「猛暑テレワーク」を導入していた企業に取材すると、今では猛暑に限らず、従業員が自ら適切な働き方を選べる「フルリモート」になったという。

導入に踏み切れない会社に対しても「最初からリモートがうまくいくわけはないので、暑さを良い機会として、実験的にまずは試してみてほしい」と呼びかける。(ニュース編集部・塚田賢慎)

⚫︎社内の声から生まれた「猛暑・台風・豪雪テレワーク制度」

〈猛暑の日に出社する時は危険手当とかつけて欲しいよね。根性とかでどうにもならんぞこの暑さ〉

〈特に理由のない出社はまじでやめるべきな暑さ・・・汗だく&満員電車&猛暑から何か特別なものは生まれるんだろうか〉

ツイッター上では、せめて暑すぎる日だけでもリモート勤務を認めてほしいとの意見が上がっている。

なんとしても出勤しなければいけない人だけでなく、リモートでも働けるのに「なんとなく」出勤が義務付けられている人も多いだろう。

ただ、コロナの5類移行で「オフィス回帰」の動きもみられるところだ。

ソフトウェア開発「アステリア」(東京都渋谷区)は、2015年夏から「予想最高気温が35度以上の猛暑日」で社員にリモートワークをすすめてきた。

画像タイトル 「センターオフィス」と呼んでいる本社

同社広報・IR部の齋藤ひとみさんによると、「暑いと電車が混むし、行くだけでもぐったりする」との社内からの声を受けて実現したもので、その後は「台風」「豪雪」の日にも拡大したという。

コロナが流行する前からの先進的な試みは「猛暑テレワーク」としてメディアにもよく取り上げられていたが、今では猛暑などの気候を問わず、フルリモート体制に移行した。

他社からも、リモートの知見を得たいとの相談も受けるという。

⚫︎リモート移行の相談を受けることもある

相談にくる企業がリモート導入に踏み切れない理由は主に3つ。

(1)「ネットワークが会社専用のため、他の場所で働けない」といったインフラの問題

(2)「目を離すとサボるのではないか」という不安などに由来するマネジメント関係の問題

(3)「リアルのコミュニケーションが重要」という考え

このような相談に対する回答の代わりに、アステリア社がフルリモートに至った経緯を振り返ってみたい。

⚫︎「リアル面会お断り」を社外にお知らせする徹底ぶり

全社的なリモート推進は2011年の東日本大震災からスタートした。オフィス依存による災害時のリスクを認識したことから、開発チーム以外の社員にもリモートを広げた。

「強制実施日」を試験的につくって必要な機材を調査し、社員へのPC・タブレット支給で環境を整えていったという。

画像タイトル 実際の「バーチャルオフィス」画面

「日本企業にありがちな『いざ、鎌倉』『出社こそ正義』という姿勢や、『会社にいないことが後ろめたい』という社員の意識払拭のため、上長やマネジメント層から積極的に取り入れました。

猛暑や天災、電車の遅延など出社するだけで生産性も効率も減少する状況があることをマネジメントが理解しなければ実施できません。

さらに社長のシンガポール移住もあって、全社的にリモート環境が日常になり、天変地異や急な電車の遅延があれば、無理に出社しなくても良いという社風を醸成していきました」

こうした蓄積から、「コロナ元年」の2020年1月から各自判断で混乱なくリモートに移行し、まもなく会社も完全テレワークと並行して、オフィスを4分の1に縮小した。

自宅の環境を整備するために1人月1万5000円のテレワーク手当(用途制限なし)の支給を開始し、今も全社員に支払われ続けている。

往々にして生じるのは、自分の会社はリモートでも、取引先の都合にあわせて現場に行かざるをえないというケースだ。そのため、緊急事態宣言のタイミングで、感染対策として「リアル面会お断り」の通知を社外に出すなど徹底してリモートにひた走った。

そうした取り組みが知られてきたことで、「猛暑だと出社したくないですよね」と理解してくれる取引先も多いという。

国内外140人の社員は全国900箇所にあるサテライトオフィスのほか、自宅含めて好きな場所で働いている。

「何かわからないことがあれば、バーチャルオフィスでいつでも声をかけられるし、Slackのオープンチャンネルで社内連絡が運用されるようになり、業務が可視化され、情報収拾しやすくなった面もあります。業務上のコミュニケーションには問題ありません」

「見えないところで部下が何をしているか不安だから会社に来いという人も多いわけですが、それはマネージャー自身の課題だと思います。メンバーに効率のよい働き方をしてもらえるか。生産効率をあげれば、プライベートも充実できると考えています」

画像タイトル 2人以上出社したらお酒も自由に飲める「本社」

東京・恵比寿の「本社」オフィスは「必要な人が必要なときに来て会う場所」という位置付けで、20人も来れば席はいっぱい。社員はほとんど来ないという。

⚫️「リアル」も無視できない

オンラインをベースにして、オフラインでのコミュニケーションの醸成も大事だと考えている。

ここ3年間で新卒社員の採用を開始し、コロナも緩和してきたこともあって、出社日こそ設けていないが、各部署は月に1回のリアルミーティングをおこなっている。

集まる場所は自由。「私のチームではたらく障害者雇用(精神障害)のかたは混雑した電車に長時間乗れないので、彼女にあわせて近所でMTGをおこなうようにしています」

今年7月からは長野県・軽井沢につくった宿泊可能な「リゾートオフィス」も稼働を開始した。月1回、往復費用が支払われ、働くことができるという。

画像タイトル 軽井沢のリゾートオフィス

「本社」に社員はほとんど来ないが、「出社した社員の交流を促進するために、2人以上いれば、ワインセラーのワインとビールは飲み放題としています」

出社日を設けず、人が集まるためにどうすればよいかという考えだ。

⚫️リモートOKの会社に「人が集まる」「人がやめない」

コロナ以降の退職者は5人以下で離職率が減っただけでなく、今のところ新卒でも退職者はいないという。

「親の介護で地方に帰った社員は仕事を辞めていません。配偶者の転勤でも弊社の社員は退職する必要がありません」

居住地を問わない採用活動によって、新卒・中途の採用数はそれぞれ増えた。

中にはリモートに馴染みにくい人もいたが、その場合は出社やサテライトオフィスを選択している。「個人が生産性を高められる働き方を選択できる形」でよいという方針の通りだ。

齋藤さんは「コロナ明けでオフィス回帰の企業もあるが、この3年間の知見と経験を活かすことが大切では。すべてをリアルに戻すことで、移動時間の増加など業務効率が下がる可能性もあるのではないでしょうか」と指摘する。

「社員の評価方法もアウトプット重視に変えてみるなど、リモート移行は、社内カルチャーや規則まで変える必要がありますが、徐々に取り入れていくことで課題を抽出していくことも必要です」

画像タイトル イメージ(Lukas / PIXTA)

「リアルでできることはあるけど、リアルのためにしんどい思いをして効率を下げる必要はない。猛暑でテレワークも実験的にやってみてはいかがでしょうか」と結んだ。

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