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内定取り消しや内定後の辞退、就活生が知っておきたい法律相談 弁護士が解説
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内定取り消しや内定後の辞退、就活生が知っておきたい法律相談 弁護士が解説

職場でトラブルに遭遇しても、対処法がわからない人も多いでしょう。そこで、いざという時に備えて、ぜひ知って欲しい法律知識を笠置裕亮弁護士がお届けします。

連載の第26回は「知っておきたい就活トラブル対処法」です。2020年以降、新型コロナウイルスの影響で企業から内定を取り消された学生が増えています。

笠置弁護士は「内定取り消しをされたとしても何も言えないのではないかと誤解されている方も多いのですが、そのようなことはありません」と話します。学生側から内定辞退をした場合のケースについても解説してもらいました。

●コロナで増えた内定取り消し

年も明け、各企業の就職活動が本格化しています。私は大学4年次に就活をしていたのですが、その時にリーマンショックが直撃し、各企業とも採用熱が一気に冷え込み、周りの就活生が大変苦労している様子を目の当たりにしました。その時に見聞きした経験から、私は大きく進路を変更し、労働事件を専門的に扱う弁護士になろうと決意しました。

就活生は何とか希望する会社に入ろうと努力をするわけですが、特に不景気で各企業の採用が冷え込んでいる時には弱い立場に立たされます。私自身も、当時の経験から就活生の立場の弱さを身に染みて実感しています。そのような状況につけこまれ、就活生が様々な被害に遭うことがあります。

コロナショックの中で最も目立った被害は、内定取り消しです。コロナショックが一気に襲い掛かった2020年3月に高校や大学を卒業した学生のうち、内定取り消しの被害に遭った人は200名を超え、翌2021年でも100名を超える被害が生じたことが厚労省の発表により明らかになっています。

●企業は簡単には内定取り消しをできない

内定はあくまで入社前の手続きに過ぎないため、内定取り消しをされたとしても何も言えないのではないかと誤解されている方も多いのですが、そのようなことはありません。

まず、企業が経営上の理由によって内定取り消しを行う場合には、整理解雇の4要素(人員削減の必要性があること、解雇回避努力を尽くしたこと、人選の合理性があること、手続の妥当性があること)を充たさなければ有効に内定取り消しを行うことはできません。

また、採用内定段階で「グルーミーな印象(暗い)」だという理由で内定取り消しをされたことの効力が争われた大日本印刷事件(最高裁昭和54年7月20日判決)において、最高裁は採用内定によって労働契約がすでに成立しており、客観的に合理的で社会通念上相当と認められる場合に限り内定取り消しができると判断しました。その上で、「グルーミーな印象」などという理由で内定取り消しを行うことはできないと結論付けています。

内定者の方の印象がどのようなものかは、面接を行えば一見明らかなわけですから、容易に調べることのできる事情を理由とすることができないのは当然でしょう。昔の話であるとはいえ、このような理由で大企業が内定取消しを行っていたことには大変驚かされます。

仮に採用内定後に新しく判明した事情であったとしても、噂レベルの話であればそれを根拠とすることはできず、確実な証拠に基づいて認定できる事情であり、かつ客観的に見ても合理的であると言える事情でなければなりません。

●内々定の場合は?

これに対し、採用内々定にとどまる場合は、就活生としてもそれ以降他社への就活を継続することができるうえ、使用者側としても正式な採用内定通知は内定式にて行うことを予定していることから、労働契約が成立したとは言えないと判断されることが多いと思われます。

しかし、使用者側から採用を確信させる言動があったり、他社への就活が事実上できなくさせるようなオワハラ(「就活終われハラスメント」)行為があるような場合には、内々定段階でも労働契約が成立していると解釈される可能性があります。

●内定後に辞退してもいい?

採用内定を受けた後でも、水面下で他の会社への就活を続けるなどして、やっぱり他の企業に決めたという理由で採用内定を辞退することもあるでしょう。

このような場合、会社の立場からすると採用計画が崩れてしまうことになるわけですが、労働者側には2週間の予告期間を置けばいつでも退職できる自由があるため、採用内定を辞退することは有効に行えます。

このようなケースにおいて、内定を辞退された会社が損害賠償請求を行ってきたという事例を耳にしますが、内定者が内定を辞退したことで損害が生じるということは一般には考えにくいため、そのような請求が法律上認められることはほぼないと言ってよいでしょう。

●就活セクハラの相談も

他にも、社会問題にもなりましたが、就活セクハラの相談もよく耳にします。

このような場合、加害者や当該企業に対して損害賠償請求を行うことが考えられます。請求を行うには、被害を受けたことを裏付ける証拠の確保が重要です。ハラスメントの証拠の確保については、過去の記事で解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

厚労省が出しているセクハラ指針では、以下のように記載されています。

「事業主は、当該事業主が雇用する労働者が、他の労働者(他の事業主が雇用する労働者及び求職者を含む。)のみならず、個人事業主、インターンシップを行っている者等の労働者以外の者に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮するとともに、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)自らと労働者も、労働者以外の者に対する言動について必要な注意を払うよう努めることが望ましい。こうした責務の趣旨も踏まえ、事業主は、…職場におけるセクシュアルハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、当該事業主が雇用する労働者以外の者(他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学生等の求職者及び労働者以外の者)に対する言動についても、同様の方針を併せて示すことが望ましい」

就活生が企業選びをする際、厚労省のセクハラ指針に沿って就活生等に対する言動に関する方針を明示しているか否かも注意深く見てみるべきです。セクハラを防ぐという意識が社内でどこまで浸透しているかを図る目安として使える視点だろうと思います。

(笠置裕亮弁護士の連載コラム「知っておいて損はない!労働豆知識」では、笠置弁護士の元に寄せられる労働相談などから、働くすべての人に知っておいてもらいたい知識、いざというときに役立つ情報をお届けします。)

プロフィール

笠置 裕亮
笠置 裕亮(かさぎ ゆうすけ)弁護士 横浜法律事務所
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「こども労働法」「就活前に知っておきたいサクッとわかる労働法」(日本法令)、「新労働相談実践マニュアル」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。

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