職場でトラブルに遭遇しても、対処法がわからない人も多いでしょう。そこで、いざという時に備えて、ぜひ知って欲しい法律知識を笠置裕亮弁護士がお届けします。
連載の第17回は「企業の副業禁止、法的にOK?」です。今後のキャリア形成やお金のために、副業を希望する人は増加傾向にあります。ただ、自身の働く会社では副業が禁止されているという人も多いのではないでしょうか。
笠置弁護士は「使用者は副業・兼業を当然禁止できるわけではなく、本業と競業関係にあたる場合や本業に支障を生じる場合などに限り、例外的に禁止できると考えられる」と話します。
●政府が副業・兼業を推進するように
日本では、長らく多くの企業において副業・兼業を原則として禁止してきました。多くの企業が就業規則を作成するにあたって参考にする厚生労働省のモデル就業規則においても、従来は副業・兼業を禁止し、これに違反すると懲戒事由に該当する旨の規定を置いていました。
ところが、厚生労働省は方針を変え、2018年1月、原則として副業・兼業を容認するという内容へとモデル就業規則を改訂しました。それと並行して、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、企業が副業・兼業を解禁した場合の労働時間管理や健康管理等のあり方についても示すようになりました。
今年に入ってからは、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」や「経済財政運営と改革の基本方針2022」を閣議決定し、この中で、政府の方針として副業・兼業の拡大・促進に取り組んでいくことが決定されました。
それとともに、ガイドラインが4年ぶりに改訂されることとなり、企業に対して、副業・兼業への対応状況についての情報公開を推奨していくこととなりました。
●変わらないままの社内ルール
このように、副業・兼業をめぐる動向はここ数年で急激に変わっています。ところが実際には多くの企業では、就業規則で「会社の許可なく他人に雇い入れられること」を禁止する旨の規定を設けるなどして、副業・兼業を禁止し、違反した場合には懲戒処分を下すとしている事例は少なくありません。
政府が副業・兼業を解禁してから約4年が経過しますが、依然として約半数の日本企業が副業・兼業を全面禁止していますから、社内ルールのレベルでは大きな変化が見られません。
とはいえ、労働者には、憲法上の権利として職業選択の自由が認められ、労働者の私生活上の尊重の要請が働きます。そのため、副業・兼業を禁止し、違反した場合には罰則を加えるとすることは、このような労働者の権利を過度に縛ることになってしまいます。
そのため、使用者は当然には副業・兼業を禁止できず、副業・兼業が、本業との関係で競業関係に当たってしまうような場合や、業務の負担があまりにも過重であるため本業に支障を生じさせるような態様の副業・兼業に当たるなどの場合に限り、副業・兼業を例外的に禁止できるにとどまると考えるべきでしょう。
●裁判所の判断は?
裁判所も、副業・兼業を全面的に禁止する就業規則の規定は合理性を欠くが、これを事前に届け出ることで許可を得れば認めるという許可制とするならば違法ではないとしつつ、以下のような場合に限って初めて、懲戒処分を下すことができると解釈しています。
(1)深夜に及ぶ長時間の副業・兼業であるため本業への具体的な支障が生じる場合 (2)事業が競合する会社への就職であったり、自ら事業経営し勤務先への背信行為が生じるような場合
厚労省のモデル就業規則でも、(1)労務提供上の支障がある場合、(2)企業秘密が漏洩する場合、(3)会社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、(4)競業により企業の利益を害する場合において、副業・兼業を禁止することができるとしています。
このような禁止事例にあたってしまうような副業・兼業の場合ですが、たとえすぐに報酬が生じないような形で副業・兼業の契約をしていたとしても、ゆくゆくは自らの利益になるということであれば、やはり懲戒処分の対象となるでしょう。
就業規則において副業・兼業の禁止規定が置かれている会社にお勤めの場合、本業に支障が出るような副業・兼業を行うことには注意が必要です。
(笠置裕亮弁護士の連載コラム「知っておいて損はない!労働豆知識」では、笠置弁護士の元に寄せられる労働相談などから、働くすべての人に知っておいてもらいたい知識、いざというときに役立つ情報をお届けします。)