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問題視される東大生の公務員離れ、実は社会にとって悪いことではない? 
東京大学(yu_photo / PIXTA)

問題視される東大生の公務員離れ、実は社会にとって悪いことではない? 

人事院は、2022年度の国家公務員の総合職試験の合格者が1873人であると発表しました。合格者で最も多い大学は東京大学で217人でした。昨年同時期の東京大学の合格者数が256人であったことから、39人の減少となりました。

これを受けて、「東大生の公務員離れ」との報道が流れ、「国の重要な政策立案機能が低下するのではないか」との懸念が示されました。一方で、東大生が民間や外資系に流れることは日本の成長のためには良いことなのではないかとの意見もあります。

何かと注目される「東大生」ですが、なぜ公務員離れが進んでいるのでしょうか、東大生の公務員離れが行政機関や民間企業にどのような影響を与えるのか考察したいと思います。(ライター・岩下爽)

●東大生にとって魅力が乏しくなってきた理由

(1)公務員の不祥事と内閣人事局の創設

「御上」という言葉が象徴するように、かつては、役所は民間企業の上の存在で、特に中央省庁の官僚になれば国の政策立案を担うようになることから、国を動かす仕事として魅力がありました。官僚としてのプライドがあり、政治家が無謀な政策を実施しようとしても、官僚が反対の意見を言ってストップを掛けることもありました。

しかし、公務員の不祥事が起こる度に公務員に対する風当たりは強くなり、国民の代表である政治家が主体的に政策の立案を行うべきであるという「政治主導」が叫ばれるようになりました。決定的なのは、「内閣人事局」の創設で、これで公務員の人事権が政治家に握られるようになりました。

内閣人事局の創設以降、官僚らは政治家の顔色ばかりうかがうようになり、今では政治家のイエスマンになっています。最たる例は、森友学園問題です。「忖度」という言葉が当時流行りましたが、佐川元局長が政治家に忖度して公文書の改ざんを指示し、自殺者まで出したという事件です。

国会での質問に対して佐川元局長は、「刑事訴追の可能性があるため回答を差し控える」などとして事実上証言を拒否し、国民からの反感を買いました。このような姿を見ていると、官僚になれば将来自分が同じようなことをしなければならないのかと嫌気がさすのも理解できます。

(2)過酷な長時間労働

霞が関は「不夜城」と呼ばれ、特に国会会期中は深夜残業が当たり前です。なぜそんなに残業が多いのかというと、国会の答弁書を作成しなければならないからです。野党などの質問に対して大臣が答えるための原稿が「答弁書」です。国会のやり取りは、質問者が事前に質問を出して、それを受けて担当する部署が答弁書を作ります。事前に質問を出さないと、正確な回答ができないため「調査して後日回答します」ということになってしまい時間が無駄になるからです。

質問の事前通告は、夜に来ることもあるため、官庁ではそこから答弁書の作成が始まります。担当部署で原案を作成するのにも時間がかかりますが、関係部署との調整や上司の決裁が必要になるため、どうしても深夜になってしまいます。

さらに、答弁をする大臣には国会が開催される前の朝早くにレクチャーする必要があるため、朝の出勤も当然早くなります。睡眠時間が3時間位という人もたくさんいます。以前であれば、このような過酷な労働環境でも国を動かしているという充実感から我慢できていましたが、今は政治主導になってしまい、自分達が国を動かしているという実感を感じられなくなってきています。

その他、かつては「天下り」によって退職後に重要ボストに着くことができ、高額の報酬が約束されていたため、在職中は低報酬でも我慢できていましたが、今では天下りポストも少なくなってきており、局長以上に出世できなければうまみはなくなってきています。このような事情から東大生は公務員になることに魅力を感じなくなったのだと思います。

●コンサル、起業が今のトレンド

それでは、東大生は公務員ではなく何を目指しているのでしょうか。「NIKKEI STYLE キャリア」の記事によれば、①マッキンゼー・アンド・カンパニー、②ボストンコンサルティンググループ、③ベイン・アンド・カンパニーの戦略系コンサル3社(通称「MBB」)の人気が圧倒的に高いとあります。

2021年の実際の就職先を見ると、東京大学が1位、東京大学医学部付属病院が2位となっていますが、それ以降は、アクセンチュア、ソニーグループ、日立製作所、楽天、野村総合研究所となっています。

研究者や医師にならない人は、コンサルかIT系が多いのがわかります。それ以降は、金融や商社も入ってきますが、第一希望というより「滑り止め」にしている人も多いようです。経済産業省が公表した「大学発ベンチャー実態等調査」によると、大学別ベンチャー企業数は東京大学がトップとなっており、就職ではなく起業する人も増えています。

●東大卒がいなくなると本当に政策立案機能は低下するのか?

東大の優秀な頭脳が民間に流れることになると日本の政策立案機能は低下するのでしょうか。政策を立案する上で重要なのは、①政治家の意図を汲み取る能力、②情報処理能力、③調整力です。

政治家から官僚への指示は大雑把なことが多く、官僚はその意図を汲み取って、細かい内容を検討する必要があります。そのため、政治家の意図を正確に汲み取らずに政策立案をすると、政治家から「ダメ出し」を受けます。そうなると何度も立案作業をし直さなければならなくなるため、この能力は不可欠です。

情報処理能力は、様々な問題に対してどうすれば改善するのか、迅速に処理する能力です。また、法律改正をする場合、法律だけでなく、政令や規則まで複雑に絡んでいるのでそれを正確に把握して修正することが求められます。

調整力とは、政策に関連のある他の部局や他の省庁とうまく調整する能力のことです。たとえば、コロナでマスクに関する政策を立案する場合、感染症を所管している厚労省と産業などを所管している経済産業省の協議が必要になりますが、それをまとめる力が調整力です。

これらの中で特に②の情報処理能力が高いのが東大出身者の特徴です。①の政治家の意図を正確に汲み取る能力と③の調整力は、個人の資質によります。東大出身者で優秀な人もいれば、それ以外の大学出身者でもこれらの能力が高い人はいます。頭は良くてもコミュニケーション能力がない東大出身者もいることから、多くの大学から官僚が生まれることは多様性が増して良いのではないかと思います。

もちろん、東大出身者が全く官僚にならなくなるのであれば、それは問題かもしれませんが、東大生の一定程度は官僚になると思うので、今のように東大出身者が極端に多い、偏った官僚組織からバランスのとれた官僚組織に変革できるよいチャンスといえます。

●東大生が民間に就職することの是非

民間に東大出身者が増えることでどのような効果がでるでしょうか。東大生と言ってもピンからキリまでいますので、プラスの効果が発生するかどうかは、その人次第ということになります。もっとも、事務処理能力や情報処理能力は高いはずなので、東大出身者をうまく活用することができれば企業の効率化を図れるかもしれません。

また、前述のとおり、東大出身者の起業家も増えてきていることから、第二のスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツが生まれる可能性があります。このところ、勢いのない日本経済ですが、東大生がどんどん起業することで、世界に打って出るようなベンチャー企業が生まれれば、日本が再び元気になるかもしれません。東大生の公務員離れはむしろ歓迎すべきことなのではないでしょうか。

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