テレワークで終業後や休日にも業務連絡…チャットもメールも対応しなくていい?
ついつい夜遅くまで仕事をしている人も多いのではないでしょうか(essie / PIXTA)

テレワークで終業後や休日にも業務連絡…チャットもメールも対応しなくていい?

職場でトラブルに遭遇しても、対処法がわからない人も多いでしょう。そこで、いざという時に備えて、ぜひ知って欲しい法律知識を笠置裕亮弁護士がお届けします。

連載の第5回は「つながらない権利」です。新型コロナウイルスの感染拡大ですっかり身近になった「テレワーク」ですが、仕事と生活の時間の区別があいまいになり、夜遅くにもメールやチャットの対応をしている人もいるのではないでしょうか。

笠置弁護士は「対応のために待機をさせられている時間についても、労働時間にあたる」と指摘します。

●私用スマホで連絡はあり?

コロナ禍の中でテレワークの導入が各職場で進み、チャットツールによる業務連絡が頻繁に行われる中で、私生活と仕事との境界があいまいになり、終業後や休日にも業務連絡が続いて困っているというご相談はますます増えています。

連絡に応じて対応を余儀なくされている時間については、当然ながら労働時間に当たりますから、労働時間に応じた残業代が支払われる必要があります。実際に対応していなくても、対応のために待機をさせられている時間についても、労働時間に該当します。

ただ、そもそも残業代をきちんと支払わない会社は多いと思われますし、またこのような対応を強いていれば、労基法で定められている労働時間の上限規制に抵触することになるだけでなく、従業員に深刻な健康被害が生じかねません。

それ以前の問題として、日本の中小企業では、プライベートで使用しているスマートフォンを連絡手段に使わせているという事例も耳にしており、私も多くの相談を受けています。プライベートで使用している携帯は電源を切るわけにもいかないでしょうから、常に会社からの連絡にさらされてしまうことになってしまいます。これは論外です。

社外の勤務が多い従業員に連絡を取る必要があるのであれば、せめて社用の携帯電話を持たせるべきでしょうし、業務外にはメール等の連絡に応じなくてもよい仕組みをシステム上導入するべきです。

●海外では「つながらない権利」法制化も

このような事例は、日本と同じく海外でも問題になっています。フランスでは2017年、業務時間外に勤務先から業務連絡があったとしてもこれを拒否できる権利=つながらない権利を定めた法制定がなされました。

その後、立法化の動きはカナダ、イギリス、イタリア、ニューヨークなど世界の各国・各都市に広がっています。2021年1月のEU議会では、つながらない権利の法制化を求める旨の決議が行われ、注目を集めました。

しかしながら、日本では残念ながら、法制化の動きにまでは至っていません。

私心を捨てて、公のために尽くす「滅私奉公」的な働き方が根強く残る日本では、「業務時間外の連絡は無視すればよいだけ」と個人の選択に委ねるのではなく、きちんと権利として法律に明記する必要性はとても高いはずです。

2021年3月に厚労省が発表したテレワークガイドラインの中では、注意喚起はなされているものの、業務外の業務連絡に応じなくてもよいというルールを作るかどうかはあくまで使用者側の裁量に委ねられてしまっています。

このような現状では、あまりにも非常識な業務外の連絡(業務外の時間帯であることが明らかな時間帯に緊急性の高くない業務命令をメールのみで行う、申請していた休暇中に急に会社に呼び出す等)には応じなくとも法律上問題ないでしょうが、緊急性の高い場合には応じなければならない場合も相当あり得るということになりそうです。

連合は2020年9月、つながらない権利の獲得に向けて、モデル就業規則の中に下記のような規定を盛り込むことを提言しました。

第〇条(つながらない権利(勤務時間外の連絡))
1、会社は勤務時間外の従業員に対し、緊急性が高い場合を除き、電話、メール、その他の方法で連絡等を行わない。
2、従業員は、勤務時間外の別の従業員に対し、電話、メール、その他の方法で連絡をしてはならない。ただし、緊急性の高いものはこの限りではない。
3、勤務時間外の従業員は、会社または別の従業員からの電話、メール、その他の方法による連絡について、応対する必要はない。
4、会社は、会社または別の従業員からの電話、メール、その他の方法による連絡に応対しなかった従業員に対して、人事評価等において不利益な取扱いをしない。

各職場では、このようなモデル規定を参考にして、速やかに「つながらない権利」を導入するべきでしょう。

●「つながらない権利」会社側にとってもメリットがある

「滅私奉公」を求める伝統的な日本の働き方においては、際限なく残業をするのは当たり前であり、時間外の業務連絡には当然に応じなければならないと考えられてきました。

日本では、職場の中での一人一人の役割があいまいな場合が多く、特定の社員に業務負担が異様に偏ってしまうということも少なくありません。そのような立場にある方であればなおさら、いつでもどこにいても、業務連絡に応じなければ仕事が回らないという状況になってしまいます。

このような職場環境の中で、過労死の悲劇が繰り返されていきました。私の経験でも、本社からの指示を受けながら出先で様々な対応を行っている最中、突然死されたという方は非常に多いです。

この問題は、実は会社の経営のあり方に深くかかわっています。特定の従業員しか重要業務の対応ができないという体制になってしまっているからこそ、業務時間外の連絡が相次いでしまうのです。そのような会社において、その従業員が万が一退職してしまったり、健康を害してしまったら、その会社は大混乱に陥るでしょう。

そうではなく、誰もがカバーできる体制にしておけば、顧客対応なども安定することになるはずです。つながらない権利を導入することは、会社側にとってもとてもメリットがあるものだと考えます。

(笠置裕亮弁護士の連載コラム「知っておいて損はない!労働豆知識」では、笠置弁護士の元に寄せられる労働相談などから、働くすべての人に知っておいてもらいたい知識、いざというときに役立つ情報をお届けします。)

プロフィール

笠置 裕亮
笠置 裕亮(かさぎ ゆうすけ)弁護士 横浜法律事務所
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「新労働相談実践マニュアル」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。

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