THE WALL STREET JOURNAL(8月14日)によると、求人サイトのインディードで、新規採用の条件にワクチン接種をあげた求人件数が徐々に増えており、8月1週時点で100万あたり計1200件だったという。
アメリカの航空大手・デルタ航空も、2021年から2022年にかけて客室乗務員を1500人採用する予定だが、応募者はワクチン接種を条件としている。
日本ではこうした動きはまだあまり見られていないが、ワクチン接種を就職採用の条件にしても問題ないのだろうか。東京都の新型コロナ対策に携わってきた前東京都議会議員の岡本光樹弁護士に聞いた。
●政府は「適切ではない」としているが…
——ワクチン接種を就職採用の条件とすることは、違法でしょうか。
政府は「適切ではない」との立場ですが、果たしてこれが「違法」になるかどうかは即断できません。
政府は国会答弁で、採用時に接種を条件とする、もしくは接種の有無を聞くことなどについて「そのものを禁じる法令はないが、政府としては、予防接種を受けていないことを理由として不利益な取扱いが行われることは適切ではないと考えている」と答弁しています。
また、予防接種法及び検疫法の改正の際に、「接種していない者に対して、差別、いじめ、職場や学校等における不利益取扱い等は決して許されるものではない」との附帯決議が付されています。
一方、過去の裁判では、使用者が労働者を雇用するにあたって、原則として「採用の自由」を認めています(三菱樹脂事件最高裁大法廷判決昭和48年12月12日)。
求職者のセンシティブ・データの収集の禁止については定めがありますが(職業安定法5条の4及び、平成11年11月17日労働省告示第141号)、ただし書きにおいて、「特別な職業上の必要性」などがある場合は例外とされています。
経営者の採用の自由(憲法22条・29条) と求職者のワクチン不接種・不申告の自由(憲法14条・13条)がぶつかる形になりますが、今後の世論状況や政府の具体策によっても変動する可能性があります。
現時点では、ワクチン接種を採用条件とすることは、濃厚接触が避けられない職種で頻繁な検査が困難な場合や、経営体力が弱く従業員のコロナ感染による影響を大きく受ける事業者など、状況次第では「合理的な理由」があり「不当な差別」とはいえず、違法とは言えない場合もあり得ると考えます。