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BMW〝ディーラーいじめ〟の実態 「過剰なノルマ」「月末に恫喝まがいの電話」
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BMW〝ディーラーいじめ〟の実態 「過剰なノルマ」「月末に恫喝まがいの電話」

ドイツの自動車メーカー「BMW」の日本法人で起きていたとされる、ディーラー(販売店)に対する過剰ノルマ問題で進展がありました。

BMW側が、公正取引委員会に対して、自主的な改善案を提出するに至ったのです。

あるディーラーの元社員は「月末になると電話を取るのが恐くなりました」と当時を振り返ります。いったいどんなことが行われていたのか。実態を取材しました。(ライター・谷トモヒコ)

●「確約手続き」が意味するところ

〝ディーラーいじめ〟と言われた販売方法に公取委のメスが入れられたのは一昨年秋。1年6カ月の時を経て、ようやく事態は動き出しました。

3月3日、独BMW社の日本法人ビー・エム・ダブリュー(以下、BMW社)が公正取引委員会に改善計画を提出していたことが報じられました。

これは公取委が同社を独占禁止法違反(不公正な取引方法)の疑いで立ち入り調査したことに関して、自主的な改善を申し出た「確約手続き」だと言われています。

自主的な改善案を約束することで排除命令などの措置が免除されるもので、今後、公取委が改善案を審査して違反状態が解消されたと認められれば行政処分は免除されます。

「BMW社はかねてから新車販売においてディーラーに過酷なノルマを課し、ノルマを達成できないときにはディーラーに買い取らせるなどしているとして問題視されていました。

公取委は独禁法上の『優越的地位の濫用』──取引上の優位な立場を利用して相手に不利益を与えている──として立ち入り調査に入っていましたが、今回の『確約手続き』で同社はこれを認めた形です」(全国紙記者)

●競争激化の輸入車市場 躍進の陰に〝ディーラーいじめ〟

国内の自動車販売は1990年をピークに落ち続けていますが、輸入車は比較的健闘してきました。

しかし、その一方で古くからのブランドであるメルセデス、BMW、VWに加えてボルボやジープなどの新規参入勢も加わり、メーカー間の競争は激化していると言われています。

そんな中でBMWは08年の3万1928台から18年の5万886台と新車販売数を大きく伸ばしています

その躍進の陰にはメーカーによる〝ディーラーいじめ〟があったのだと、かつてディーラーに勤務していたというA氏は語ります。

13年ごろからノルマが急に厳しくなりました。BMW社からは毎年『販売目標』というノルマが送られてきます。正確には『計画台数』というのですが、計画台数=お客様に販売する台数、ではありません。これに加えて自社登録した車の台数が含まれるのです」

●「自社登録」して新古車に ディーラー経営のからくり

自社登録とはディーラーが新車を買い取って名義人としてナンバーを登録すること。登録された車は中古車扱いとして販売されます。新車同然の〝新古車〟として市場に出回ることになるのです。

新車と同様のコンディションでありながら格段に安い〝お買い得車〟として見たことがある人も多いのではないでしょうか。もちろん新車よりも安くなるぶんはディーラーが損をかぶることになるのですが、それでも自社登録をしなければならない理由があるのです。

「『計画台数』を達成するとBMW社から数千万円単位のボーナスが出るのです。このボーナスをもらえなければ、そもそもディーラーの経営は成り立たないので、自社登録すること自体は珍しいことではありません。

しかし、BMW社からのノルマが厳しくなり『計画台数』の4割以上を自社登録しなければならない状態になると、ボーナスをもらっても赤字を補填できなくなりました

やがてノルマが達成できなくなるとBMW社側から圧力がかかるようになったそうです。毎月月末になると催促の電話が鳴り、恫喝まがいの言葉を浴びせられた従業員もいたそうです。

「私も『自社登録をしていないのはお宅だけだ』『ディーラー権をはく奪するぞ』などと言われ、月末になると電話を取るのが恐くなりました。私のところだけでなく全国のディーラーが同じような目に遭っていたと思います」

その後、A氏が勤務していたディーラーは契約を打ち切られ、負債を抱えて倒産したそうです。

●群を抜いて多かったBMWの新古車

ノルマ達成のための自社登録自体はどこのメーカーのディーラーでもやっていることだそうです。

しかし、BMWの場合、その数は桁違いだったと言われています。その影響は中古車市場にも表れ、実際にBMWの新古車が一時期市場にあふれるという現象が起きていました。

「走行距離は僅か数十km程度。それでいて価格は新車と比べて100万円以上安いといった新古車が今、急増している。特にBMWなどは過去に例を見ないほど買い得な新古車が多い」(ベストカーweb 18年4月24日)

また、あるデータによると19年7月に走行20㎞未満の車を検索したところ、メルセデスが99台、アウディが6台ヒットしたのに対して、BMWはなんと849台がヒットしたといいます。

前出のA氏はメーカーとディーラーとの関係について次のように語ります。

「メーカーとの契約は2年ごとの更新で『ディーラーが販売目標を達成できず、また目標達成の努力をしていないと見なされる場合、BMWはディーラーとの契約を解除できる』との文言があったと聞いています。

このディーラー側に不利な契約とノルマ達成のボーナスがなければ経営が立ち行かないという商売のやり方に問題があると思います。これを解消しない限りディーラーという商売は立ち行かなくなるのではないでしょうか」

より多く商品を販売しようとするのは営利企業であれば当然の行動です。しかし、それで売る側の誰かが損をかぶらなければならないとなるのは本末転倒です。

●「販売台数」を競う業界の弊害か

ある自動車ジャーナリストは、販売台数で成果を競うこと自体に限界が来ているのではないかと指摘しています。

「携帯電話や家電業界などでは販売台数ではなくシェアで数字が出ます。それに対して自動車業界では台数で競っているので、競争がより熾烈になっている側面があります。

また、今、環境問題が取りざたされている中で、ガソリンエンジンの車をたくさん売ることがどれだけ誇れることなのかという点にも疑問があります。

例えば欧州では自動車メーカーごとに一台あたりの車のCO2排出量をもとにランキングが出されています。このような数字で競うようになれば、無理に台数を売らなければならない必要はなくなるのではないでしょうか」

過剰なノルマに関してBMW社はすでに取りやめているとも言われています。BMW社に今回公取委に提出した改善案の内容について尋ねると次のような回答でした。

「現時点において正式発表されている事ではないため、当方としては、コメントは致しかねる状況でございます」

今回の〝改善案〟を経てメーカーとディーラーの関係は変わっていくのでしょうか。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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